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多職種研究会報告 子どもの立場になって考えてみよう-精神疾患のある親に育てられるということ、そして、ヤングケアラーについて-

 
2、3ヵ月に一回くらいで、対人援助職の研修会を開催しています。「心のケア多職種研究会Lemonade」という会を立ち上げ、医師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、薬剤師、教員、就労支援施設職員、マッサージ師、心理職等々、多職種で集まって勉強を続けています。
 
2024年8月18日には、「精神疾患の親をもつ子どもの会こどもぴあ」の代表をされている坂本拓さんにお話をしていただきました。今回の研修は、子どもの立場になって、精神疾患やヤングケアラーについての理解を深め、そして、大人になった私たちができることを考える機会にしたいと思い企画しました。 
 
「こどもぴあ」は、精神疾患のある親に育てられた子ども同士が語り合う家族学習会を開催したり、今苦しんでいる子どもたちやヤングケアラーの理解を促すような講演活動等を行っている団体です。
  
講師の坂本さんは、「こどもぴあ」の代表であり、「みんなねっと(全国精神保健福祉会連合会)」の理事でもあり、そして日々、社会福祉士・精神保健福祉士としてもご活躍されています。
 
下記に「こどもぴあ」のHPやYouTube「こどもなかま」チャンネルの情報を貼っておきますので、詳しくはそちらをご覧ください。
 

 
 
それでは、今回の研修の様子を少し振り返ってみようと思います。


子どもの立場になって考えてみよう



ヤングケアラーという言葉がない頃から、子どもが親を支えてケアすることに関しての議論や研究はありました。しかし、こども家庭庁の発足もあり、ここ最近になって、ヤングケアラーという言葉をキーワードに、様々な情報や取り組みが急速に増えている印象があります。
 
だからこそ、ヤングケアラーについて正しく知ってほしいと、坂本さんは語っていました。そして、私たちに大事な問いかけをしてくださいました。
 
・ヤングケアラーとはどういう状態にある子をいうのか?
・ヤングケアラーという言葉の力、影響力は?
・ヤングケアラーの気持ち、病気を抱えた親の気持ちは?
・ヤングケアラー支援のゴールはどこにあるのか?
 
 
坂本さんに投げかけられた問いかけに沿って、この先の文章を書き進めていこうと思います。
 

ヤングケアラーとはどういう状態にある子をいうのか?


 
ヤングケアラーについて、こども家庭庁のHPでは、まず下記のように表現し、HPの中では具体的な例をあげて詳しく説明をしています。

「ヤングケアラー」とは、本来大人が担うと想定されている
家事や家族の世話などを日常的に行っているこどものこと。

 


しかし実際は、その家庭、その子ども、その親によって、様々な「ケア」や関わり方が存在しているし、その支援対象については、子どもの年齢で簡単に区切れるものではないことを坂本さんに教えていただきました。「ケア」の定義についても、料理を作る、洗濯をするということだけでなく、親を心配させないように自分の悩みや苦痛を我慢することだってケアなのではないだろうかと坂本さんは仰っていました。


ヤングケアラーという言葉の力、影響力は?



「ヤングケアラーという言葉でほんとうに子どもたちが救われているのだろうか?」という坂本さんの問いかけに、ハッとさせられた参加者は多かったようでした。
 
坂本さんは、そもそも「自分はヤングケアラーです」と子ども自身が名乗ることってほぼ聞かないと仰っていました。人から「あなたはヤングケアラーなのかも?」と言われて、「言われてみればそうだ」と反応する人もいるし、「自分は違う」と否定する人もけっこういるとのことでした。
 
子どもの立場と同様に、親の立場として考えても、「うちの子どもはヤングケアラーです」と言う親は少ないのではないかと想像しました。講義の後の質疑応答でも、「あなたの子どもはヤングケアラーだね」と言われたら、自分が責められているように感じるかもしれないという親側の意見が出ました。
 
実際に、ヤングケアラーという用語を使っているのは大人であり、子ども自身からの発信ではないわけです。本来は子どもを支援するためのキーワードが、子どもの想いや実情を知らない、外側の大人がレッテル貼りのために使っている場面もあるようです。

ヤングケアラーという言葉を安易に用いるのではなく、何の目的でどういう意味でどんな場面で使うのか、一度立ち止まって考える必要があると感じました。
 

ヤングケアラーの気持ち、病気を抱えた親の気持ちは?



坂本さんのお母さんは「うつ病」と「パニック障害」を抱えておられます。講義の中で、子どもの頃から今に至るまでのお母さんとの関わりや、お母さんへの気持ちの変化を、ご自身の体験から語ってくださいました。子どもの頃は、不調が続くお母さんにこれ以上心配をかけたくないから悩みを相談しないようにしていたし、自分がお母さんを守らなきゃいけないと感じていたと話しておられました。

「お母さんの階段を下りてくる音でお母さんのその日の調子がわかりました」と、坂本さんは淡々と子ども時代を語っておられました。しかし、そのくらい日常的にお母さんを心配する立場で家の中で暮らしていたことが伝わってきました。
 
坂本さんは親の気持ちを想像して、このように語っていました。病気を抱えた親が悪者なのだろうか?親だってつらい状況にいる。「『悪者を作らない視点』に立って、親と子どものそれぞれの辛さがあることをわかってほしい」とおっしゃっていました。
 
 

ヤングケアラー支援のゴールはどこにあるのか?



この問いは、まだまだみんなで考え模索していこうという段階で、研究会は終わりました。
 
話を聞いてくれる、
問題を解決してくれる、
心配な家のことを忘れて勉強や遊びに集中できる、
いつも声をかけてくれる、
無料でご飯が食べられる、
親の相談にのってくれる、
親を助けてくれる、
自分のタイミングを待っていてくれる、
・・・。
 
子どもの頃を振り返って助けられた対応としては、医療者や教員などのいわゆる専門的な介入だけでなく、ご近所さんや親戚といった身近にいる人たちの何気ないかかわりに助けられることも多いのだと話してくださいました。


さあ、私たち大人は何から始めましょうか?何ができるでしょうか?
 
私は、その子ども(その人)の想いを聞き、その子ども(その人)の立場を想像することから、まず続けてみることにします。そして、共に学び支え合うこの研究会の仲間たちとも、引き続き考えていくために今後の企画を立ててみようと思います。

 
体験と知識とを合わせて密度の濃い講義をしてくださった坂本さん、そして研究会に参加してくださった皆さん、ありがとうございました。
 
心のケア多職種研究会Lemonadeは、ご縁のある対人援助職の方々と繋がって学び合うセミクローズドの研究会です。今後の活動も時々報告させていただきます。
 
 

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