見出し画像

ことのは

いつものように木の上のほうを見ていた。
森というには小さく、街路樹とはまるで違う、家を囲う大きな樹木群。

家と家の間隔は広いというより、ぽつりぽつりとある家を囲うように、樹木はあった。

当然、人が棲家とする際に手入れはされていたのだけれど、よもや手入れも行き届かなくなるとは思わなかった頃の樹木だ、枝を張ろうにも、根を張ろうにも邪魔が入る、人工物が妨げる。

わたしが小さい頃は、木の上にチャボが居た、鶏のように鳴いていて、小屋で飼われていた記憶はない。

いつの間にかチャボは居なくなり、樹木を見上げる時間も減っていた。

さらに家主が消え、棲家の取り壊しが増えると同時に家を囲う樹木がなくなる。
一本一本が太く大きく家を覆っていた事が識れた。
何本もあるように見えていたが、四隅に一本ずつとしても多くない。また目隠しの片側としても多くない。多くはないがそれらを切り根を掘り起こすと、だいぶん広い更地が現れることに妙に驚いたものだ。

その日、耳慣れない鳥の声を聞いた。
なんだろうなぁと眺めていた。
場所はなんとなくわかる。
聞こえてくる方角は変わらないから、そこに居るんだろう。
小鳥ではないのは声から分かる。
わかるがわからない。
なんだろうなんだろう、少しわくわくしながら見つめていた。

何日か同じ場所を眺めていた、ある日、さぁッと上を翔んだ、白い腹が印象的だった。

緑や茶色の樹木から、それがすぅっと翔び去ったりまた樹木の間にすぅっと入って行く姿をみて
「かみさま」という言葉が浮かんだ。
単語と存在が結びついたような瞬間。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?