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拙作語り③~六花繚乱ヘキサムライ(その3)

妖霊狩事始ようれいがりことはじめ~はじまりの物語

「六花の妖霊狩」は誰がどういう意図で始めたものなのか――現代劇で触れられなかった件を、時代劇ではそれなりに考えて、絵コンテまでは描いたのですが。全清書は諦めて(ヘタレ←自分で言った!)回想的な描き方で『六花稗史 巻ノ三』附 にて半ページほどに収めまして;
でも外伝的に描こうと思ってた範囲で、棟梁・六花氏の始祖と、最初に加わる協力者で文部の始祖、さらに虎部の始祖とが三人で旅をするようになるくだりまでは、それなりにちゃんと作ったんですよね(つまり他の…武部・竜部・豹部・犬部の始祖がどんな人でどういう感じで出会って加わるのかは…ぼんやりとしてる:自爆)。
以下、絵コンテとして描いたものをセルフノベライズ的に文字に起こし、ここに置いておこうと思います。。

始祖の話をざっくりと説明…(『六花稗史 巻ノ三』附 より)

始祖たちの物語

どれほど昔のことになろうか。
妖霊狩の歴史は、越中国えっちゅうのくにの山村に暮らしていた春栄はるたかという一人の少年から始まった。
山仕事に出て村に戻ってきた春栄は、村まであと少しというところで地鳴りと大きな揺れに襲われ、倒れ込む。村に辿り着けば、山津波に村は消え去っていた。村があった場所に残る土砂の上には人魂が浮かび、虚ろな目をした鎧武者たちが見えた。
茫然と地に崩れる少年の背後から、
「お前には、あれが見えるか」
杖をつく音と男の声。
「生存者があったか…これは驚いた」
振り返ると、山伏が立っている。
山伏は、山津波がかつてこの村に逃げ込み、当初匿ってくれたはずが結局追捕の者たちに引き渡されたことを恨みながら死んでいった落武者の怨霊によるものと言い、
「そんなの昔の話じゃないか。今の村の人たちが悪いわけじゃないのに…こんなの不条理だ」
と泣く春栄に、
「変えたいと願うなら、これを持って常陸国一之宮ひたちのくにいちのみやを訪ねよ」
と書簡を手渡す。

春栄は書簡を持って常陸国一之宮を訪ねる。書簡を開いた宮司は驚愕するが、金子きんす(金貨・お金)も同封されていたので、記された「依頼」に従って先ずは少年を宮社傍にある剣術道場に入門させ、従弟である師範に託す。
師範が「春栄は目的意識に欠けるというか稽古に身が入ってない」と言うのを、宮司は「彼は、あの依頼書の内容を知らないのだろうか」と、春栄を呼び出して尋ねる。
薄い固い板―おそらくは小判が何枚か入っていたとは思うが中身は開けてないから知らないという彼に、宮司は
「この宮にて預かり置いている妖刀・切霞せっかを、お前が御しうるようなら手渡してほしい…とあった」
と明かす。更に、
「切霞は妖怪悪霊いわゆる妖霊ようれいを討伐しうるチカラを持つが、毒をもって毒を制す妖刀であるがゆえに誰の手にも委ねず、そもそも存在を公にしてはいない。その切霞がここに在ると知る者が居たことにも驚いたのだ」
(その刀なら、あの鎧武者の霊を討つことが出来るかも…)
春栄は稽古に身が入るようになり、剣技を磨き、やがて切霞を預かることを許される。

切霞を借り受けた春栄は郷里へと向かい、数年を経てもなお当地に留まっていた怨霊を討つ。あの時 何が起こったか分からずに今迄当地を漂っていた村人たちの魂も旅立っていくのを感じ、涙ぐむ春栄。
その背後から、聞き覚えのある声がした。
「願いが一つ叶ったようだな、少年よ」
振り返ると、あの山伏がそこに立っていた。
「切霞が常陸国一之宮にあることをご存知だった…あなたは何者なのですか?」
と春栄は問いかけるも、山伏は答えずに問い返す。
「お前は次に何を望むだろう?」
「俺はこれからも妖霊と戦う。不条理に嘆く誰かの為に」
そう告げた春栄に山伏は微笑み、
「ならば、常陸国一之宮の宮司に今後もその刀を預かる許可を得た上で、同士を求めるが良かろう」
そして餞別に何枚もの小判を「当座の旅賃にはなろう」と彼に渡して去っていく。

その言葉に従って春栄は常陸国一之宮を訪ねて宮司に経緯を話し、
「お前も切霞も凶邪に傾いた様子は無いし…今後もその刀の持主として精進を重ねなさい」
宮司の許しを得、再び常陸国を後にする。

(同士って…そんなホイホイ見付かるはずが…)
当てもない一人旅。道すがら溜息をつく春栄に、寺の門前を掃いていた少年が声をかける。
「もし。住職がお待ちです、どうぞ中へ」
当然ながら春栄は驚き、
「だって、俺はここに来たの初めてだし、住職さまも知らないし。人違いじゃないのかな」
しかし少年は彼を見据え、
「いいえ、あなたです。『妖刀を携えた若者が通ったら、お迎えせよ』と仰せつかってます」
その気迫に押されたか逃げ出すことも出来ず、春栄は寺の住持の前へと進み出る。
住持は彼へと労いの言葉をかけた後で、
「拙僧には多少特殊な力があって、貴公が何をお望みかが分かるのじゃ。自らの為でなく他者の為に戦うとは、誰にでも出来る覚悟ではない。この弘済こうさいも一つのたすけとなりたく思う」
と言い、
「何か迷うことがあれば、この寺を訪ねてほしいし…拙僧より優れた能力をもつ、宝良たからを供につけて進ぜよう」
そして、ちょうど茶を出しに部屋に入って来た、門前を掃除していたあの少年に、
「よいか?宝良」
「はい…僕は構いませんが」
かくて、春栄はこの松柏寺しょうはくじで養われていた少年・宝良と共に旅立つ。
この宝良は道具を使わずに妖霊に対抗しうる存在であり、後に文部あやべの始祖となる。

宝良と共に妖怪悪霊を退治して回るようになり、
(一人じゃないって、こんなに心強いんだ…)
思わず春栄も笑みがこぼれる。
寺を発つ前に住職から明かされた、宝良の過去。
『春栄どのよ。宝良は成長するほどに「大衆には見えざるもの」を見るようになり、両親から「ようやく授かった他でもない我が子のはずなのに、恐ろしくてたまらぬ」と手放され、幼いうちに我が寺へ預けられた子なのじゃ』
(「実の親を知らぬ者同士、分かり合えることもあろう」か…そうかもしれないな…)
幼くして両親を亡くし、誰とはなく村人たち皆に世話を焼かれて育ち、山仕事もその中で覚えた自身を思い返す春栄だった。

二人の少年は、都までやって来た。ふと宝良が後ろを振り返る。
「どうしたんだ?宝良」
「…何かが後を追ってくるようで」
「何かって…まさか妖霊…?」
「いえ。多分人間ですけど、何者なのかは…」
その何者かが、彼らへと一気に駆け寄る。
「春栄!春栄だよな!?やっと会えた…!」
嬉しげに声をかけてきた若者の顔を見た春栄は、信じられないというように、
「…敦実あつざね?どうして…」
常陸国一之宮傍の道場で出会った兄弟子だった。

該当ページ絵コンテ
立ち位置が急に入れ替わって矛盾が生じているのに気付いて描き直した絵コンテ。

敦実は笑顔のままで、
「どうして、って。あんな鈍くさくて師匠にしごかれてた弟弟子が人助け行脚を始めたって聞いたら、兄弟子として放っておけないよ!」
「でも…君には家があるし。それに並の刀じゃ妖霊は斬れない」
春栄は自身と違って由緒正しき武士の家系出である敦実を気遣って言うが、
「この者の刀は何らかの破妖の力を持っているようです。詳しい事情は分かりませんが、試してみては?」
彼を黙って見つめていた宝良が何かを感じ取ったように、春栄に提案する。
その晩、都の辻に現れた車の怪に敦実が手持ちの刀を振り下ろすと、怪は破裂音と共に消え去った。
「敦実、その刀は…」
河原で火を囲み、春栄は敦実に問うが、
「うちで貰ったものだよ」
謎が解けずモヤモヤする春栄に、宝良が答える。
「刀そのものではありません。刀に結ばれた紐が、刀に破妖の力を付与しているんです」
その言葉に敦実も驚き、
「え、この紐が…?」
(その紐は何なのか)
春栄は固唾をのんで敦実の言葉を待つ。
「これはぁ…道場の寮を出たまでは良かったけど『どこへ向かえば追いつけるか、さっぱり分からん!』って時に、たまたま神社が目に入ったんで、神頼みじゃないけどお参りして」
(それは神頼みだろ…)
思いながらも黙って耳を傾ける。
「したら、『それはお困りでしょう』って、ふっと巫女さんが出てきて。巫女さんは何も訊かずに『みやこを目指しなさい』って言って…『お守りです』って、自分が手首に巻いてた紐を、俺の刀に結んでくれて。不思議な巫女さんだったなぁ…」
春栄と宝良は顔を見合わせる。
(妖霊に対抗しうる力を持つ者ならば、会ってみる必要があるのでは)
思いは同じだった。
「その神社に案内してくれる?」
「うん、いいよ。お礼も言いたいし」
春栄の言葉に、敦実はうなずいて返した。

これとほぼ時を同じくして、息子が剣術道場の寮を出た旨を記した手紙に青筋を立てる敦実の父の許を訪ねた者があった。
「おとないいたします、矢作敦道やはぎ あつみち様」
天から降ったか地から湧いたか、奥座敷前の小庭に月明かりを浴びて立つ人影。
(いつの間に、この屋敷の奥まで……忍の者か、妖怪変化か!?)
「何奴!?」
敦道は床の間に置かれた刀に手を掛けるが、人影は被っていた笠を上げて顔を見せ、
「私は武蔵国むさしのくにに在ります若宮神社に奉仕するいつきと申す者。ご子息・敦実様について申し上げたいことがございまして」
十代半ばを過ぎたほど、息子より少しばかり年嵩のむすめである。重ねて驚かされた敦道だが、広縁まで出て訪問者に尋ねかける。
「敦実の?一体何を…」
自らを若宮神社の巫女・樹と名乗った女は、
「親として子の前途を思われるのは当然のこと。されど、これは敦実様ご自身が選んだ『己の行くべき道』で、肉親であろうと阻んではならぬものです」
更に、彼が進む道には危険と困難とが横たわるであろうことを告げ、
「だからこそ、私が全身全霊を懸けて、必ずやお守りいたします」
敦道は、彼女の言葉だけでなく、その身にまとう『気』にも息を呑む。
(たかだか十七、八の小娘のものではない。さながら幾百年の年輪を重ねてきた大樹のようだ)
これほどの巫女を後ろ盾にして意地を張られたら、お手上げだ――
「分かった。あの子を連れ戻してどうこうとは、もう考えまい。好きにさせよう」
子息の行く末を彼自身に任せるという父の言葉を受け、樹は満足したように深々と礼をし退出しかけるが、
「ただ…一つ欲というか望みを語るとするなら、今は亡き愛し妻の面影を濃く受け継いだのが、あの三男坊ゆえ…孫の顔を見たいものだな」
敦道のひとりごとのような呟きに足を止める。
(お前さんが産んではくれんかね)
言外の意図を感じて樹は微かに頬を赤らめるも、
「彼もまた、それを望むのなら…」
この樹が後に虎部の始祖となる矢作敦実との間にもうけた長男が虎部の二代目となり、次男が若宮神社の神職を継ぐこととなるのである。

話は戻る。
春栄、宝良、敦実の三人は都から武蔵国へ至り若宮神社を訪ねるも、
「ここなんだけど…」
「誰もいないみたい」
「神職が常駐するような神社ではなさそうですね」
少年たちが周囲を見回していると、
「おや、これは珍しい」
神職の装束ではなく平服の老爺が歩み来て言う。
老爺は敦実の刀に付けられた紐に目を留め、
「若者たちよ。付いてきてくださらんか」
と、彼らを導いて奥の山へと道を上っていく。
何かが抜けたようにえぐれた地面の前で、老人は立ち止まり、
「かつて、ここに樹齢七百年というならの木があった」
「でも、今は無い…」
「嵐で倒れてしまったとか?」
つぶやくように言う少年たちに、
「『かんなぎの楢』と呼ばれたその木は、死んでしまったとも、今なお生きているとも言えるのだ」
言い伝えによれば、かつて禁を犯した巫が山の神に罰せられて楢の木に姿を変えられ、「百歳ももとせを七つ重ねし時が過ぐるまで、その姿であれ」と命じられたという。
「過去からずっと、ただの一つのどんぐりも落とさぬ不思議な楢であったが、昨年の嵐で倒れ…我ら夫婦は嵐のあとでここに来て、朽ちた幹の蔭にあの娘が倒れておるのを見付けた。この歳まで子宝に恵まれずにきた我らは、何も覚えておらぬというあの娘を養女となし、この一年ほどを暮らしてきたのだ」
老人の言葉を聞き、
「なんだか『竹取物語』みたい」
ぼそりとこぼした春栄であったが、
「確かにな。だが、樹がかぐや姫と異なるのは別世界の住人ではなく我らと同じ人間であり、人としての寿命を全うするまで今この時を生きるが定めであろうことだ」
老人はそう言ったあとで、
「当人は留守でな…。ともあれ我が家に寄られよ、家内も喜ぶだろう」
と自身の住まいに少年たちを案内する。
媼に茶や水菓子で もてなされ、
「そういえば、あの巫女さんが留守ってのは?どこまで用足しに行ったんですか」
何気なく敦実が問うと、
「それが…かっちりと旅装を整えて出て行ってだな。一日二日の話ではない」
翁の返答に、これまで旅をしてきた中で大変な目にも遭いかけた春栄は
(若い娘さんの一人旅とか大丈夫なの!?)
と思うが、媼は苦笑いで、
「そりゃ心配しないわけじゃないけど、あのようなだから…大丈夫かなって」
噂をすれば影。戸口から物音がし、
「翁様、媼様。ただいま戻りました」
少年たちに驚くこともなく部屋に入ってきた樹は、大きな包みを抱えていた。
「樹、それは何だい?」
媼が尋ねると、荷をほどく。
「矢作敦道様にお会いしてきまして」
「え、父上に…!?」
「『己の道を行くがいい』と…元服の際にと用意なさっていた衣と刀を預かってまいりました」
包みの中には、成年男子の装束、そして懐刀があった。
「そういや、君って…」
「うん。今、十六歳。新年が来たら十七…元服だね。でも、それはお前も同じだろ?春栄」
「けど、俺には祝ってくれる人も郷里も…」
思わず顔を伏せる春栄の肩を、宝良が励ますように叩く。
「そんなことありません。来年の正月は松柏寺で迎えましょう。あの勘の良い住職のことですから、きっと準備してくれてますよ」
そして敦実は新年ひいては成年を迎えるより数月早く、この若宮神社で樹の養い親である老神職に元服の儀を執り行ってもらい、三人は松柏寺へと発っていく。

師走、松柏寺に着いた一行。
「…やっぱり!さすが住職、分かっていらっしゃる!」
成年男子用正装の衣を広げて喜びの声を上げる宝良に、住職は焦りを隠さず、
「それはお前のものではないぞ。春栄どのにと…」
「もちろん知ってます、だって僕の成年は再来年(笑)」
住職は春栄へと向き直り、
「同士が増えたようじゃな」
「はい」
春栄は、この場には連れてこなかったが協力を約束してくれた若宮神社の面々についても住職に伝える。
「にしても、今日は冷えるのう。降るかもしれぬな」
住職が前に置いた火鉢に手をかざしてこすり合わせていると、庭から敦実の声がする。
「わあっ!雪だ…雪が降ってきた!」
春栄と弘済も廊下へ出て、空を眺める。
「雪…」
「なるほど寒いわけじゃ」
敦実は、常陸国一之宮の剣道場に居た頃にも雪が降り、皆で雪合戦になり、
「師匠の雪玉が一番威力があった、ってね」
騒ぎすぎた教え子たちが師範に雪玉をお見舞いされる形で収まった、という思い出を語る。
住職は、扇を広げて降る雪を受け、何やら眼鏡でそれを覗き、
「ほほう…」
「どうなさいました?住職」
「これは小さきものが大きく見える道具なのだが…見てみるかね?雪を」
道具を借りて雪の姿を見た春栄は驚く。
「これが雪?なんて綺麗…」
(知らなかった、雪がまるで六弁花のようだってこと。越中の山村に育った俺にとって、雪は猛き獣のような存在だった。けれども、春には溶けてなくなる儚さと、白と静寂をもたらす清らかさも併せ持つ…)
扇の上の雪を見つめていた春栄は、顔を上げる。
(そうだ。俺は…俺たちは『雪』を名乗ろう)
春栄は元服後には六花覇栄りっか はるたかと名乗る。
これが、六花の妖霊狩、そして初代が雪を紋章とした由来である。

幼い覇君が聞いた話

以上は、幼い少年・春吉はるよしを寝かしつける際に、さく尼が語った話である。
春吉はこの話を聞き、「その山伏というのは師匠じゃないのか?」と、さく乃に問う。さく乃が返答に困るうちに春吉は眠りにつくのだが、幼子が寝入ってから庵に現れた長元坊ちょうげんぼうに、さく乃は
「さすがは、ぬしが再興の棟梁と見込んだだけの子じゃ。この子は、ほんに勘が良い」
春吉は幼心に、先祖を妖霊狩へと導いた山伏を、自身の学問と武術の師である天狗・長元坊(が人間の山伏に化けた姿)ではないかと感じたのであった。この推測の行先は、これから描こうとしている『六花稗史 巻ノ四』で明かせる予定……(早よ描け←自分で言った)
「必要とされるその時に、妖霊狩を復活させよ」と六花覇慧りっか はるさと(他氏族に陥れられ滅亡した際の棟梁)の遺命を受けた天狗・長元坊と古狸・さく乃は、妖霊狩滅亡より数十年を経て妖霊狩再興を果たす新たな棟梁となるべき人物として覇慧公の曾孫にあたる春吉を選び、人の手の届かない山中で養育する。
妖霊狩は名のごとく「妖怪悪霊を狩る者」ではあるが、「妖霊の全てが悪とは限らない」という思想を持ち、彼らを慕い従う妖霊も存在していた。それが長元坊であり、さく乃であった。
春吉十歳のとき、人目から庵を隠すべく山中に張った結界を見破った、家臣の文部あやべ家の章蔵しょうぞうと孫娘・ふみがやって来て、春吉は以降六花覇君りっか はるよしと名乗るよう長元坊に言い渡され、山を下りて人界に戻ることとなる。

考察

下敷きにした伝承その他に関する解説。

中越地震のことが今なお思い出されるほど地震や山崩と切ることができない地域、それが新潟県中越地域という印象を持っています。
「村に妻子と共に逃げ込んだ盗人が、最初は農家に匿われたものの手のひらを返されて役人に突き出され、鍋を被され埋められることになる。当地ではそうされると生まれ変わってこられないと信じられていたので、盗人は『止めてくれ』と訴えたが聞き入れられなかった。盗人は埋められる寸前、『この村を泥の海にしてやる』と言い残した」
この辺りで地滑りが多いのは、その祟りであるという。
あらましは、こんな感じ…
本が手元に無く、多分私も読んだ本『伝説と俗信の世界』(常光 徹 著)を引いて書かれていたgooブログ『山口敏太郎のブログ 妖怪王』で確認をとりつつ。
現代の震災被害と繋がるような伝承が残っている点が気にかかるところです。前述のブログによれば当地(現在の新潟県長岡市山古志やまこし地区)には盗人の墓があり、過去に道路工事で掘り返された際に遺骨が出たといい、単なる伝説でなく実話だった可能性もあるとか……
『伝説と俗信の世界』以外にも、民俗学の棚に置かれていた別の本でも同じ話を見たことがありますが、もしかしたら著者が同じ本だったのかも、、とも思ったり。
しかしながら、春栄(六花覇栄)の出身地としているのは越中国で、これは現在でいえば新潟県ではなく富山県にあたります(爆)。完全に一致させるのも問題かと考えて、近隣の別場所に設定し、盗人ではなく落武者に変更し鍋被せと転生の件も抜いたのだろうと思われます(更に爆)

山伏の言に従って春栄が訪ねた常陸国一之宮は、鹿島神宮。鹿島神宮といえば武神・武甕槌大神たけみかづちのおおかみを祀る「神宮」であり(「大社」でも「神社」でもなく「神宮」。伊勢神宮とか明治神宮、香取神宮などを思い出していただきたい)、鹿島は剣の聖地とも呼ばれ、剣術家・塚原卜伝ゆかりの地でもあります(もう10年以上昔のことになるけど卜伝役:堺雅人さんでNHKドラマになったのですよ)
むろん一之宮が妖刀を預かり置いていたのは創作ですが、鹿島神宮は茨城県の数少ない国宝の一つである大刀を所蔵しているところです。
(そうね東京・京都・奈良と違って国宝は少ないですのよね;)
ちなみに宮司の名は祥雲穂波さくも ほなみ、従弟で剣術道場の師範は祥雲総之のぶひさ…と、ちゃんと決めてあったり。名前出さずとも話は済むのだけど(汗)。そして実際の鹿島神宮の宮司職の氏姓にかかる考証も皆無で決めてるのだけど(さらに汗)
敦実が道場の寮を出るのを引き留めもしない宮司と師範(苦笑)。自由教育というか、それはそれで先進的と言えるのではないかと(笑)。剣術道場ではあっても武家の子弟たちを多く預かっており(春栄みたいなのは例外中の例外で、いじめに遭わなかったのかなぁとも思うのだけど…まあこういう師範だから「弱い者いじめは許さん」のだろう;)、学問や礼法などもそれなりに教えていたと思われます…これも史実との考証的擦り合わせは無いけど(爆)

そういえば松柏寺の所在地が詰められてないですね、他のとこが大体決まってるのに…(墓穴)
武蔵国の若宮神社は、日本には楢の巨樹巨木はあまり多くないのかと感じていて(巨樹本やサイトでもあまり見かけない)近縁というか「どんぐりのなる木」で何か樹齢何百年の木が御神木になっている神社を探し…たぶんそこは八幡神社だったと思うのだけど(既に記憶が薄れてる:墓穴)八幡神を祀る神社の別名が何かないか、で若宮神社とした…のだと思う(さらに墓穴)

そしてそして、最強巫女・樹。六花ワールドだけでなく、他のもろもろの拙作と合わせても、きっと最強ではないかと。そんな樹は何をして生まれたキャラクターかといえば、ドイツにある古木・「イーフェナックのヨーロッパナラ」の伝説です(爆)。

「伝説によれば、イーフェナックの7人の修道女が誓いを破って女子修道院を抜けだし、森の中で半裸で踊ったため、罰としてヨーロッパナラに姿を変えられたと言われている。1000年たってヨーロッパナラの古木が自然に枯れるとき、修道女は1世紀にひとりずつ、彫刻のような姿から解放されるという。」
1世紀前、ティーアガルテン(イーフェナックの鹿公園)には11本のヨーロッパナラの古木が立っていたが、現在残っているのは6本だけで、
「おそらく7人の修道女の最初のひとりが、1000年の償いから解放されたのだろう。」
(『世界の巨樹・古木 歴史と伝説』ジュリアン・ハイト 著、湯浅 浩史 日本語訳監修、大間知 知子 訳 より)

この『世界の巨樹・古木 歴史と伝説』には、他にも、
毎年ハロウィンの日になると、記録天使のアンジェリスターがその木の下でこれから1年以内に死ぬ人の名前を告げるという「スランゲルナウのイチイ」(コンウィ、ウェールズ)
や、
新約聖書の中で徴税人ザアカイがイエスの姿を見ようと登った木とされるエジプトイチジクの巨木・「ザアカイの木」(エリコ、ヨルダン西岸地区)
なども紹介されており、自分が図書館で借り読みした幾多の本の中でも記憶に残る良本です。
イーフェナックのヨーロッパナラが現在6本になっていることを、「修道女の最初のひとりが…」と持っていけるのは素敵!夢があります、もりもりあります!
和世界観に置き換えるべく、地味にあちこち変更を加えていってます。

あと。この時代劇は明確な時代設定というものがありません(爆)
いろんな時代が混ざってます(さらに爆)
松柏寺の住職が雪を見た眼鏡というのは、言うなればレーウェンフック式顕微鏡で(もっと爆)
大衆が「雪=六角形」と知るのは、「雪の殿様」と呼ばれた古河藩主・土井利位による『雪華図説』発行以降、すなわち江戸時代以降ということになっています。でも、この話は江戸時代も初期くらいまでの想定でいるので(爆)そこも幾分ミステリー感です。。

他に気になる点としては…敦実や敦道は歴史上に同名の人物が実在しそうな空気感がありますが、私自身の歴史もの創作の信条「歴史上の実在人物は実名で出さない」のとおり、実在人物との関わりはありません。たまたま同じになっちゃった、、ということです(爆)

こんな感じで、いろんな本を読んでは蓄えておき、ある時あれやこれやが一線上に繋がって「これなら話が一本描ける」になる。
それが私の創作法です(爆)

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