NovelJam'[dash]2019の審査員講評(2020年12月)

「ノベルジャムダッシュ2019」と読みます。このイベントの詳細については
https://www.noveljam.org/category/archive/noveljam2019dash/
をご参照ください。
全作品と受賞結果、審査員講評を収録した本が、2020年12月にBCCKから電子版・オンデマンド版で同時発売され、そこに収録されました。

2017年にはじまったイベントで、ぼくが審査員をつとめたのがこの第4回でした(選考委員は他に、米光一成さん、内藤みかさん、藤井太洋さん、有田真代さん。最終選考会は19年12月16日、贈賞式は12月19日に行われました)。

 *

講評 小浜徹也

 何よりも〈漂流社 三鷹編集室〉の着想に驚かされました。審査会席上で、何かのかたちで評価したいと提案し、審査員各位の賛同を頂いて「特別チーム賞」をお贈りしました。発表会当日に、別日程で審査したデザイン部門の皆さんも同意見だったと知り、驚きましたが、よくよく考えれば、デザイン評価ならなおさらだったろうと思います。
 川崎昌平さんのディレクターとしての功績大で、著者のお二人方もよくつきあって完成させたなあと思いました。電子書籍ならではの効果を発揮する、加茂野もか「変な女の書いた101行の小説」はこれ自体アートでは。もっとも、「一ページ一行」と「白黒反転を生かす」という二重のアイデア自体かなり難題で、紹介文では「膨大な行間と行白」と主張しているけれど、これはやっぱり飛び飛びすぎる。読んでいる間じゅう、白黒反転の演出とともに、「もっと効果の上がるつくり方はないだろうか」と検討してしまいました。
 チームのもう一作、原里実「絶対にはじめから二度読恋愛小説」は横書きの作品で、語り手の男女二人がひととき近づいていってまた離れてゆく、通わない心の距離を行間そのもので表現していて(福永信『アクロバット前夜』よりも、夢枕獏の「カエルの死」をはじめとするタイポグラフィクション作品を連想しました)、またそれぞれ千五百字とはいえ、二人のもっと長い物語も察せられます。組版の演出とともに、分かりやすさと共感しやすさを積極的に評価しました。いや、いろいろいっていますが、単純に好き。個人賞を贈らせていただきました。
 この二作のほか、ぼくが推したのは二作品。どちらも「読者との綱引きができているか」「読まれることに対して意識的か」を考えて評価しました。
 ひとつがSaaara「砂場のふたり」。過不足ない組み立てで、語り手の情動もうまく案配されています。思ったのですが、「成長したのはじつは語り手自身だった」という部分が強調されていたら奥行きが増したのでは。
 もう一作が日野光里「笑い狼は笑わない」。二重三重のオチが用意されているのも頼もしい。とはいえ、怪談だといっても、いや、怪談だからこそ、表現や設定の細部についてはもっと周到に詰める必要があったと思います。
 さて、じつは審査員五名が最初、それぞれ挙げた推薦作のうち、三票以上の作品、つまり過半数の評価を集めた作品はなく、審査は難航しました。
 最優秀賞をお贈りした、紀野しずく「ふれる」は、筆運びは一番達者でした。もっともぼくはYouTubeの生中継でプレゼンを拝見しており、実体験の比重が大きいことを存じていました。フィクションを書く力とエッセイを書く力は同列に評価しづらいと躊躇ったところもあります。そうはいっても、一個の作品として見たときの力は申し分なく、討議するうち審査員全員の評価が一致したという次第です。おめでとうございます。

 審査会当日まで、ノベルジャム参加作品は、既存の新人賞や創作講座とは評価条件が違うんじゃないかと、あれこれ考えていました。でも結局は自分のいつもの評価軸どおりに判断することしかできなかったようです。基本中の基本は、「同じ著者の次の作品が気になるかどうか」でした。
 もうひとつ記しておきたいのですが、じつはノベルジャムの多くの工夫のうち、最も秀逸なのは「編集」という役割を明確に設けたことだと思います。高円寺で初めて鷹野凌さんにお会いしたとき、ぼくは「セルパブはどうやって品質を保証するのか」と問いました。くってかかったみたいですみませんでした。でもそれは当時も今も、ぼくにとって大きな問題なのです。なので、「編集」の設置はそれへの回答のようにも感じていました。すなわち、文芸編集は職業的でなくとも成り立つ。アマチュアが面白い小説を書くなら、アマチュアにも文芸編集はつとまるはずです。もちろん当たって砕けろですが、じつはそれはプロも同じです。
 審査員にお声がけいただけて光栄でした。貴重な経験をさせていただきました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?