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開催4日目で閉館したピーター・ドイグ展の感想

 新型コロナウィルスの影響で中断・中止になったイベントは数多いですね。個人的に2020年の目玉美術展として楽しみにしていたピーター・ドイグ展もそのひとつ。2月26日に始まったと思ったら、29日には早くも閉館になってしまいました。開催からわずか4日目の悲劇

 しかも、開いていたのが平日の水、木、金だったので、昨年話題になったあいちトリエンナーレの「表現の不自由展・その後」よりも観るのが難しかったといえます(あいトリは木、金、土の3日間で一旦中断)。土日を迎えずに閉まったため、楽しみにしていたファンでも行けていない人は多いでしょう。

 中断を残念がっている人の声がTwitterなどでも流れていて、「飛行機のチケット取ったのに……」と嘆いている人を見かけた時は、たいへん気の毒に思いました。一般知名度はそれほど高くないのかもしれないですが(私が行ったときも空いていた)、現役画家としては世界的に人気、評価ともに非常に高く、好きな人にとっては飛行機で駆けつけてでも観たい絵なんですよね。私も画集を3冊も持ってるほど大好きな画家なので、その気持ちはよくわかります。

 当初は3月15日まで閉館ということでしたが、新型コロナの収束が見えないため期間が延びており、今はいつ再開されるかわからない状態となっています。「国立」近代美術館なので、政府の意向が強く影響するでしょうしね。今後、再開されたとしても、混雑を避けるため入場制限を設ける可能性なども考えられるでしょう。そう思うと、なんの制限もなく毎日が予定どおり進んでいた「日常」が、いかに尊いか実感させられますね。

 当然ながら、本展覧会を企画した関係者の方々の無念さは察するに余りあります。できるだけ早く再開できることを願っています。私ももう一度行けたら行きたいし。

 尚、中断を受けて公式サイトでは図録内の一部論考を公開していたり、3月18日には、ニコ生で中継をおこなうなど、新たな動きもあるようです。こうした迅速な動きはいいですよね。本展を企画した学芸員である桝田氏の論考が非常に素晴らしいので、ドイグ好きならぜひ読んだ方がいいと思います。ニコ生での解説にも登場するようなので楽しみですね。

 

 本展覧会は写真撮影およびSNS可で、人が少なかったこともあって気兼ねなく撮ることができました。おそらくピーター・ドイグが好きな人は画集やWEBで穴が空くほど見ているはずなので、この記事ではおもに筆跡がわかるような、細部に寄った写真を載せておきます。自分がもし観れていない立場だったら、印刷物ではわからないディテールを知れるのが一番嬉しいと思うので。

 尚、私がとくに好きなのは90年代から2000年代前半ごろの絵なので、その辺りの写真が多くなってます。

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Ski Jacket(左)とEcho Lake(右)
絵の前に誰もいない時が度々あるので、こうした撮り方も余裕でした。

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Echo Lake(左)とcanoe Lake(右)
画集で何度もくりかえし見てきた絵が並んでいるのを間近で見れるうえに、写真まで撮れる贅沢。最初の方は顔がニヤケそうになるのを我慢してました。

《Ski Jacket》1994

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 ターナー賞にノミネートされた初期の代表作のひとつ。画面の端から端まで、ずーっと見てても全然飽きない。

《Echo Lake》1998

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 画集と違って実物はナナメから眺められるという楽しみがある。ムンクの《叫び》を参照したとされる本作。有機的な色の重なりがすごい。

《Canoe-Lake》1997-98

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 ドイグがくりかえし描くカヌーの絵の中でも、色の鮮やかさは本作が一番だと思う。鮮やかなのに深みのある色彩。2014年の《現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展》でも来日していた絵ですが、あのときは写真撮れなかったので、今回は撮りまくった。

《Blotter》1993

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全体図はピンぼけ写真しかなかった。会場の照明は暗め。

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 500円玉サイズの絵具の塊が、チューブから直接出したような形でキャンバスにこびりついている。こうした絵具の盛り上がりは印刷物やモニターではわからないもので、実物を見ることで発見がある。

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 スプレーで噴霧した絵具がつくり出す結露のような模様と、粗っぽい筆のタッチ。同一画面上にさまざまなマチエールがある。

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 基本的に大型の絵にはカバーが付いていないですが、《Blotter》にはガラス(アクリル?)カバーが付いていたので、照明が反射している。そのかわり絵の前に柵がなく、他の絵より近くまで寄れた。

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Young Bean Farmer(左)とRoad House(右)

《Young Bean Farmer》1991

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《Road House》1991

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 この辺り、リヒターのアブストラクトっぽくもある。全体としては具象イメージを描きながらも、それのみで成立するレベルの抽象画的な場が存在する。塗りつけられた絵具自体が活きていて、イメージ以前に絵具とキャンバスの関係ですでに絵画が成立している。抽象表現主義やミニマリズムなど、モダニズム絵画を経由した後の具象画が持つ力強さ。

《Gasthof zur Muldentalsperre》2000-02

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 今回メインビジュアルにもなっている代表作のひとつ。90年代の色を重ねた厚塗りぎみな作風から、その後の薄塗りへ移行するちょうど中間の、絶妙なバランスが保たれた奇跡みたいな絵。元となったイメージは、古いダム湖のポストカードと、自身と友人の仮装写真(中央の二人)。本来なんの関係もないふたつが違和感なく結びついて、魔法がかった強烈な印象を残す作品になっている。

《Red Boat [imaginary Boys] 》2004

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 構図と、木々が溶け合っているようなジャングルの描き方がめちゃくちゃ好き。空はシルバーの絵具が使われていてキラキラしていた。

《Swamped》1990

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 2015年クリスティーズのオークションで30億円の値を付けた(らしい)作品。寄ると極端に抽象度が高くなり色の洪水状態。キャリア初期からテクニックが尋常じゃないのがわかる。

《Rain in the Port of Spain  [White Oak] 》2015

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このライオンは網膜に焼き付く。

《Horse and Rider》2014

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 他にも大型作品はたくさんあるし、映画ポスターが数十枚並んでいたりと見どころは多いです。個人的には《Daytime Astronomy》とか《Grande Riviere》とか《Night Playground》なども観れたらより天国だったなーと思うわけですが、それらが無くても充分楽しめる神展覧会でした。

 今回の展覧会で日本での人気が根付き、またいつか回顧展などが開催されるのを期待するうえでも、早く再開されて多くの人が観に行ければな、と思います。知らないで観たけどすごく良かったと言ってる人をけっこう見かけるし、確実に口コミで伸びるはずの展覧会なので。

 今回はめずらしく、このアカウントをフォローしている人にはあまり需要のなさそうな趣味の話を書いてみました。

おわり

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