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10-3 制吐薬


嘔吐の分類と機序

嘔吐は、嘔吐を引き起こす刺激によって、嘔吐中枢が刺激されることで、嘔気・嘔吐が引き起こされる。
嘔吐は、機序によって、末梢性と中枢性の二つに大別できる。

末梢性嘔吐
末梢臓器の疾患から嘔吐中枢が刺激されて起こる。
腹部臓器から、迷走神経を介して、嘔吐中枢が刺激されるものと、耳鼻科疾患から前庭神経を介して、嘔吐中枢が刺激されるものがある。
中枢性嘔吐
脳幹や大脳皮質を介して、嘔吐中枢が刺激されておこる。
刺激する要因には、脳圧亢進、脳循環障害、薬物、精神的要因がある。

図に示すように、さまざまな受容体が、嘔吐には関連している。

特に、がん治療を行う際、高頻度で悪心・嘔吐が出現するため、必要な制吐薬治療を行い、症状をコントロールすることが重要である。
がん治療中の制吐薬治療については、下記のページで解説しているので、ご参照ください。

制吐薬

制吐薬は、作用点別に、中枢性制吐薬、末梢性制吐薬、中枢性・末梢性制吐薬に分類できる。

中枢性制吐薬:嘔吐中枢(VC)や CTZ 抑制作用を有する

末梢性制吐薬:主に消化管刺激などの反射性嘔吐を遮断する

中枢性・末梢性制吐薬:両者の機序を持ち合わせている


D2 受容体拮抗薬

・ドンペリドン(ナウゼリン (R))
・メトクロプラミド(プリンペラン (R))

末梢のドパミン D2 受容体を遮断し、アセチルコリン遊離を促進して、胃腸運動を促進させる。また、CTZ には BBB がないため、CTZ の D2 受容体を遮断することで、制吐作用を示す。
このことから、ドンペリドン・メトクロプラミドは、中枢性・末梢性制吐薬に分類される。

ドンペリドンとメトクロプラミドの違い
<中枢移行性>
メトクロプラミドは、中枢移行性がある(BBB を通過する)
ドンペリドンは、中枢移行性がない

→中枢性の副作用のリスク:メトクロプラミドは注意!
錐体外路症状
乳汁分泌(高プロラクチン血症)
遅発性ジスキネジア
…長期投与には注意(長期投与した時、リスクがある)

<妊婦>”つわり”に対する制吐薬!
従前、ドンペリドンは催奇形性リスクがあるといわれており、つわりには、メトクロプラミドを選択する、とされていた。
しかし、妊娠初期に妊娠していると知らずに服用した人における研究結果から、催奇形性リスクは増加させないことがわかった。
そのため、妊娠をしらずに、ドンペリドンを服用した妊婦も、不要な心配をする必要はないといえる。

妊婦禁忌とされた吐き気止めの「胎児リスク」認められず ~大規模データベースを活用した世界初の研究で、妊婦の安心に繋げる~ | 国立成育医療研究センター (ncchd.go.jp)

H1 受容体拮抗薬

乗り物酔いや内耳障害の刺激は、内耳迷路から、嘔吐中枢に伝えられる。
抗ヒスタミン薬は、H1 受容体を拮抗することで、内耳迷路および嘔吐中枢を抑制する。
中枢性制吐薬に分類される。

抗悪性腫瘍薬による悪心・嘔吐

予測性嘔吐

抗悪性腫瘍薬による悪心・嘔吐のうち、予測性嘔吐は、前回の治療時の嘔吐の経験を想起し、大脳皮質が刺激されて起こる嘔吐の一つである。これに対しては、ベンゾジアゼピン系抗不安薬が使用される。

フェノチアジン系抗精神病薬は、D2 受容体を遮断し、CTZ を抑制することで、制吐作用を発揮する。

急性嘔吐
抗悪性腫瘍薬投与後24時間以内に出現する急性嘔吐には、5-HT3 受容体が関与している。消化管→中枢の迷走神経に存在する 5-HT3 受容体を刺激することや、CTZ の 5-HT3 受容体を刺激することで、嘔吐が起こると言われている。
そのため、5-HT3 受容体遮断薬が制吐作用を示す。

5-HT3 受容体遮断薬
・オンダンセトロン
・グラニセトロン
・パロノセトロン
・ラモセトロン  (〜セトロンという名称が特徴的)

また、消化管運動の低下の可能性がある。

遅発性嘔吐
遅発性嘔吐は、抗腫瘍薬投与後2〜4日後に生じる嘔吐であり、遅発性嘔吐は、嘔吐中枢や CTZ に存在する NK1 受容体にサブスタンスPが結合することが大きな要因とされている。そのため、NK1 受容体拮抗薬が有効である。

NK1 受容体拮抗薬
・アプレピタント
・ホスアプレピタント
・ホスツネピタント  (〜ピタントという名称が特徴的)


ドパミンD2遮断薬の副作用

長期使用したときに出現する可能性がある副作用に、
・錐体外路症状
・高プロラクチン血症 がある。
目的外のドパミン神経にも影響することで、副作用につながる可能性がある。

錐体外路系のドパミン神経系は、随意運動と関連しているため、抑制することで、運動障害の可能性がある。

漏斗下垂体系のドパミン神経は、プロラクチン分泌を抑制しているため、抑制が外れることで、高プロラクチン血症になる可能性がある。

BBB を通過する場合、長期使用時には、これらの副作用の可能性があることに注意が必要である。


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