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10-1 消化性潰瘍治療薬


消化性潰瘍とは


消化性潰瘍は、胃や十二指腸の粘膜が障害された状態をいう。

(言葉の定義を確認しておきましょう)
「びらん」とは、粘膜層のみが欠損した状態
「潰瘍」とは、欠損部位が粘膜筋板を超えた組織欠損

消化性潰瘍の主な症状には、心窩部痛、食欲不振、腹部膨満感、胸やけ、悪心・嘔吐、吐血・下血などがある。

消化性潰瘍の原因として、消化管を守るための「防御因子」と、消化管を攻撃する「攻撃因子」のバランスが崩れ、攻撃因子が強くなったために起こるという、バランス説がある。

攻撃因子

ピロリ菌
胃の粘膜に感染(経口感染)し、慢性胃炎や胃がんとの関連が示唆されている。
対策:除菌治療

NSAIDs
非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)は、胃粘膜を保護するプロスタグランジン類の合成も阻害するため、薬剤性胃潰瘍の代表的な原因薬剤。NSAIDs を服用してできた潰瘍を、特に、NSAIDs 潰瘍という。他にも、低用量アスピリンなども原因となりうる。
対策:NSAIDs の使用を最小限にしたり、予防的に薬を併用することもある。また、発生した場合は、NSAIDs 休薬が必要なこともある。

胃酸
食物を消化するために分泌される。H+ とCl- として放出され、胃内で塩酸になる。
対策:胃酸分泌を抑制する薬や、胃酸を中和する薬がある

防御因子

粘膜
胃粘膜が表面を覆うことで、胃粘膜を保護し、損傷を防いでいる。

粘膜血流
粘膜血流が正常であれば、損傷された胃粘液はすぐに回復し、胃粘膜は保護された状態を保てる。

胃潰瘍治療薬

攻撃因子抑制薬

・胃酸分泌抑制薬

胃酸分泌を減少させる薬である。胃酸の正体は、塩酸である。体内で塩酸ができると、細胞が障害される可能性がある。体内では、H+(プロトン)と Cl-(塩化物イオン)として存在し、胃腔にそれぞれ分泌された後に、結合して塩酸となる。
H+ を分泌しているのが、壁細胞にあるプロトンポンプである。さらに、プロトンポンプの働きは、アセチルコリンヒスタミンガストリンという物質によって調節されている。

○アセチルコリンによる調節
「食べる」と迷走神経(副交感神経系)によって命令が伝わり、アセチルコリンを介して、胃の壁細胞が活性化され、胃酸分泌が増加する。
○ガストリンによる調節
ガストリンは、G細胞から放出されるホルモン。食事を食べたことが感知されると、分泌が刺激される。ガストリンが作用すると、胃酸分泌が増加する。
○ヒスタミンによる調節
ヒスタミンは、アレルギー反応だけでなく、胃酸分泌刺激にも関係している。ガストリンが、ヒスタミン分泌細胞(ECL 細胞)を刺激すると、ヒスタミンが放出される。迷走神経の刺激によっても、ヒスタミン放出が刺激される。ヒスタミンは、壁細胞にある H2 受容体に結合して、胃酸分泌を増加させる。

プロトンポンプ阻害薬(PPI)
プロトンポンプを阻害することで、胃酸分泌を抑制する。

カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)
・ボノプラザン
プロトンポンプの本体は、H+ と K+ を ATP エネルギーを使用して入れ替えている。カリウムイオンと競合的にプロトンポンプを阻害する。PPI の一種であるため、PPI と P-CAB は併用しない。PPI よりも新しく開発された薬で、PPI よりも早く効く・強力に酸分泌を抑制する。

ヒスタミンH2 受容体拮抗薬(H2RA, H2 ブロッカー)
壁細胞にあるヒスタミン H2 受容体に結合して、ヒスタミンの作用を抑制することで、酸分泌を抑制する。

PPI と H2RA の違い
○服用方法
[PPI] 1日1回でよい
[H2RA] 1日2回
○作用
[PPI] 酸分泌抑制作用が強力だが、効果発現に時間がかかる。作用持続時間が長い。
[H2RA] 酸分泌抑制作用は PPI には劣るが、服用後2〜3時間で十分な効果を発揮する。作用持続時間は短い。
○作用/日内変動
[PPI] 昼によく効く(食事でプロトンポンプが活性化しているとき効果的)。1日1回朝食後服用すると夜間の酸分泌抑制作用が不足する。
[H2RA] 1日2回服用できるため、夜間の基礎酸分泌も抑制することが可能。
○薬物動態の特徴/吸収過程
[PPI] 胃酸で分解される→腸溶錠
半割は不可(OD 錠を活用)。簡易懸濁時の注意:タケプロンODは常温の水で懸濁する
○薬物動態の特徴/代謝・排泄
[PPI] 肝代謝型。代謝酵素:CYP2C19, 3A4
[H2RA] 腎排泄型(ラフチジンのみ肝代謝型)。代謝酵素:各々(シメチジンはCYP阻害!)
○注意すべき患者背景
[H2RA] 高齢者、腎機能低下:中枢神経系副作用に注意

抗コリン薬
胃壁細胞やヒスタミン分泌細胞(ECL 細胞)のムスカリン受容体と、アセチルコリンの結合を阻害する。直接的な酸分泌抑制作用は弱いが、胃腸蠕動運動を和らげるため、胃腸の痙攣制疼痛(疝痛)を和らげる目的で、よく使用される。

ストロカイン
局所麻酔薬であるが、ガストリン遊離抑制作用も持つため、胃酸分泌抑制作用も併せ持つ。消化性潰瘍の急性期に疼痛を和らげる目的で、使用される。

・酸中和薬

塩酸を中和して、制酸作用を示す。制酸薬ともいう。

防御因子増強薬

胃粘膜の血流を回復させ粘膜の修復を助ける(胃粘膜微小循環改善薬)、胃を保護する粘液の産生や分泌を助ける薬など、いろんな作用機序の薬が使用されている。(一部の薬は、胃潰瘍にしか保険適応がないため注意が必要)
潰瘍治癒の質を高めて、自覚症状を改善する目的で使用される。
消化性潰瘍の治療のためには、ガイドラインでは、PPI はそれ自体の酸分泌抑制作用が強力であるため防御因子増強薬を併用する意味はないが、H2RA には併用することで作用増強が期待できるので、併用可能とされている。


胃潰瘍治療薬の概要まとめ

H.ピロリ除菌薬

ヘリコバクターピロリとは、グラム陰性桿菌であり、胃粘膜に感染している細菌である。胃内は胃酸のため、pH が低い酸性の環境であるため、一般的な細菌は生息することができないが、ピロリ菌は、ウレアーゼという酵素
持ち、尿素を作るため、尿素で塩酸を中和することで、胃粘膜でも生息可能である。
ピロリ菌が感染すると胃粘膜に炎症をひきおこすため、慢性胃炎の原因となることに加え、胃がんと関連することが明らかになってきた。
そのため、ピロリ菌に感染していることがわかったら、除菌療法が行われる。除菌療法後、一定時間経過後に、判定を行い、除菌が成功していたら、引き続き定期的に経過観察を行う。除菌が成功していなかった場合、再度、除菌療法を行う。

基本的な除菌療法では、2剤の抗菌薬と、酸分泌抑制薬を併用する、3剤併用療法が行われる。
酸分泌抑制薬としては、PPI または、P-CAB が用いられる。胃酸分泌抑制薬を併用することで、胃内 pH が上昇するため、ピロリ菌は増殖しやすい状態になる。増殖期は、抗菌薬の効果が高まるため、併用される。
抗菌薬としては、ペニシリン系抗菌薬であるアモキシシリンに加え、一次除菌ではクラリスロマイシンを用いる。二次除菌では、メトロニダゾールを用いる。メトロニダゾールは抗原虫薬のときに出てきた薬ではあるが、抗菌作用も持っており、ピロリ除菌療法に用いられている。
二次除菌でも除菌できなければ、三次除菌となるが、現在、保険適応が通っているのは、二次除菌までである。そのため、除菌の成功率を高めるための、注意事項が大切である。

※ペニシリン系抗菌薬アレルギーなど、基本的な除菌療法が行えない患者様に対しては、もちろん、それ以外の薬を使う除菌療法を検討する。これはあくまでも、基本

出現しやすい副作用には、
・下痢・軟便
・味覚異常、舌炎、口内炎
・皮疹
などがあります。
下痢しやすい方には、あらかじめ、整腸剤を併用することで、リスク低減が可能(除菌効果には影響しない)。

除菌療法の注意事項

クラリスロマイシン耐性なども報告されている。除菌療法の成功率を少しでも上げられるように、以下の事項には気をつけたい。

服薬アドヒアランス
基本的に、7日間(1日2回服用)、除菌療法を行う。期間中は確実に服薬してもらえるように

禁煙
喫煙は、除菌率を低下させるため、除菌期間中は、禁煙が必要
これを禁煙を始めるきっかけにしてもらえると、なお、良い(禁煙補助薬と除菌療法薬の相互作用はない)

飲酒
二次除菌療法で用いられるメトロニダゾールは、嫌酒薬と類似の作用を持っており、メトロニダゾール服用中に飲酒すると、悪酔い状態になり、頭痛・吐き気状態(アセトアルデヒドの分解を阻害するため)になるため、飲酒が避けるように説明する。
飲酒によって除菌率に影響がでるという報告はないため、飲酒自身には除菌療法の効果に影響ないが、除菌療法の副作用として消化器症状もあるため、できるだけ飲酒は避けたほうが好ましいと考えられる。

有害事象の説明
前項であげたように消化器症状は比較的高率で出現可能性がある。下痢になりやすいなど、リスクのある方には、予防的に整腸剤などの投与をすると予防できるので、十分な説明と対策をとっておきたい。

除菌後の GERD
除菌療法後、一時的に逆流性食道炎または GERD 症状が出現・増悪することがある。患者の不安を招くため、事前に可能性について説明をしておく。
酸分泌抑制薬の使用が行われることもあるが、除菌後の判定前に、PPI を服用していたら検査結果に影響する可能性があるため、服用する場合は、判定前の休薬についても説明する。

PPI の休薬:14日以上必要
検査法
内視鏡で採取した検体を検査する方法:
 ①迅速ウレアーゼ試験
 ②鏡検法
 ③培養法
内視鏡検査は不要な検査法:
 ①尿素呼気試験
 ②抗 H. ピロリ抗体測定・・・休薬は不要
 ③便中 H. ピロリ抗原測定

除菌後の栄養状態
除菌成功後も、生活習慣には配慮が必要

再陽性化
除菌成功しても、再度、陽性になる可能性は0ではない

除菌後の経過観察
除菌成功すると胃がんなどの可能性は低減できるが、引き続き、定期的な健康観察を行うことは重要である。除菌成功したら、そのあとは何もしなくても良い、というわけではない。

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