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10-5 止痢薬・整腸薬


下痢

通常、小腸や大腸の上皮細胞では、電解質や栄養素が能動輸送されている(ポンプなどの働きで、積極的に運んでいる:分泌(体内→管腔)、吸収(管腔→体内))。それによって生じた浸透圧差によって、水の吸収・分泌が行われている。
通常は、水や電解質は、吸収量>分泌量とバランスが保たれているが、何らかの理由でバランスが崩れ、吸収量<分泌量となることで、下痢になる。

吸収量の減少 
・腸管運動異常:
  腸管運動が亢進:腸内容物の通過が早い=水分が吸収できない
  腸管運動が低下:有害細菌の増殖→脂肪や水の吸収障害
・粘膜に炎症が起きて、吸収障害を起こしている
分泌量の増加
・腸内の大量の高浸透圧物質が、水を管腔側に引き込んでいる(原因:吸収不良など)
・血管透過性亢進:炎症により、滲出液が排出されている
・粘膜の分泌異常:内分泌腫瘍

下痢になることで、脱水とともに、電解質も失われるため、電解質異常をきたすことがある。

止痢薬・止瀉薬

下痢の治療は、原因疾患の治療を中心に行う。
原因疾患の治療に加えて、対症療法として、食事療法、輸液、止痢薬の投与が行われる。

止痢薬・止瀉薬

「痢」とは、「はらくだし」の意味で、下痢を止める薬を、「止痢薬(しりやく)」という。また、漢方では、水などが流れることを「瀉(しゃ)」といい、下痢を止める薬を、止瀉薬(ししゃやく)という。


止痢薬には、主に、腸管運動抑制薬、収斂薬(しゅうれんやく)、吸着薬、殺菌薬がある。

腸管運動抑制薬

①抗コリン薬
腸管運動は、交感神経の刺激によって亢進する。そのため、抗コリン薬の作用で、腸管運動が抑制される。
(参考)抗コリン薬の副作用
そのため、腸管麻痺・イレウスのある人に対しては、抗コリン薬は増悪させてしまうが、腸管運動が過剰であることによって下痢をきたしている場合には、治療効果は期待できる。
②セロトニン受容体拮抗薬
腸管に存在するセロトニン 5-HT3 受容体を阻害すると、腸管運動が抑制される(5-HT4 は促進)。腸管 5-HT3 受容体拮抗作用を持つ、ラモセトロンは、下痢型過敏性腸症候群の治療に用いられる。
③オピオイド受容体拮抗薬
腸管のオピオイド受容体は、腸の蠕動運動を調節している。腸管のオピオイド受容体に作用することで、消化管運動を調節する。
また、ロペラミドは、腸管粘膜に直接作用し、水と電解質の吸収促進・分泌抑制も行うため、止痢作用に優れている。抗がん薬治療によって生じた下痢に対しても、よく使用される。

収斂薬

タンニン酸アルブミンは、腸粘膜蛋白に結合して、腸粘膜を覆うため、止痢作用を示す。軽症〜中等度の下痢症で使用される。

吸着薬

天然ケイ酸アルミニウムは、毒素産生型の細菌が産生した毒素と吸着することで、止痢作用を示す。軽症〜中等度の細菌性下痢に使用される。

殺菌薬

ベルベリンは、有害物質産生を防ぐ作用を持つ。

整腸薬

整腸薬は、腸内環境を改善する目的で使用される。
腸内に生息している常在細菌叢のバランスが崩れたために起こる、下痢症状や腹部の張りなどの症状を緩和させるために使用される。
腸内細菌は、腸内で、乳酸や酪酸などを産生する。これらにより、腸内 pH が低下すると、有害な細菌の増殖を抑え、有用な細菌の増殖を促すことができる。
整腸剤は、生菌製剤と耐性乳酸菌製剤に分類される。
生菌製剤には、ビフィズス菌、ラクトミン、酪酸菌、糖化菌があり、単剤、もしくは、配合剤として使用されている。
注意すべきは、抗菌薬使用中の場合、抗菌薬によって、生菌製剤の効果が失われる可能性がある。そのため、抗菌薬使用時には、耐性乳酸菌製剤(名称の語尾に、“R" (耐性, resistant)がついている)、もしくは、酪酸菌製剤を使用する。酪酸菌製剤は、芽胞産生菌であり、抗菌薬によって死滅しないため、併用可能である。

止痢薬を使わない方が良い下痢

・細菌性の下痢
腸管出血性大腸菌(O-157)や赤痢菌など、下痢によって、細菌自身や細菌が産生する毒素を排泄させる役割もある。そのため、止瀉薬を用いると、症状の悪化や、治療期間の延長が起こる可能性があるため、原則として、止瀉薬は使用しない。
ただし、脱水や電解質異常をきたさないよう、適切な補液は必要である。

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