8-5 利尿薬
利尿薬とは
利尿薬は、腎臓で生成される尿量を増加させる作用を持つ薬であり、過剰な体液を体外に排泄させるために使用される薬である。
例えば、心不全は、右心不全で体循環のうっ血が起こり、左心不全では肺うっ血が起こる。過剰な体液の貯留に対して、利尿薬を用いて、血圧上昇や浮腫を軽減することができる。
尿ができるまで
利尿薬の作用機序について見る前に、尿の生成過程を見ていく。
腎臓で尿が生成されるが、尿をつくる最小単位をネフロンという。ネフロンは、糸球体・尿細管・集合管からなる。
糸球体では、血液が濾過されて原尿が生成される。これは非選択的に行われるが、高分子の物質は網目を通れないため、たんぱく質は濾過されない。他の低分子化合物は、濾過される。
体にとって必要な物質は、尿細管で再吸収される。グルコース・アミノ酸などの栄養素の他、水や電解質も再吸収される。
また、体内に残っている不要な物質は、尿中に分泌され、排出される。
原尿は、1日に約180L が生成されているが、尿として排泄されるのは、1日に約 1.4 L と、水の 99% は、再吸収されている。
再吸収や分泌は、細胞膜を通過して行われるので、物質が細胞膜を通過する過程を復習しておく。
細胞膜は、脂質二重膜でできており、半透膜の性質を有している。つまり、膜には微小な穴が空いており、溶媒は通過することができるが、溶質は、膜の穴を通過できない。
例えば、水に、砂糖を落としたとき、砂糖の表面にゆらゆらとした模様が見える。これは、砂糖の表面の濃度が濃い溶液が、全体に拡散している様子である。
つまり、濃度を均一にするために、濃度の濃い方から、薄い方へ動く、というのが、通常の物質移動である。
半透膜を間に挟んでいる場合、溶質は移動することができない。
そのため、濃度を均一にするためには、溶質である「水」が、薄い方から、濃い方へと、濃い方を薄めるために動く。この、濃度を等しくしようとして、溶媒が動く時に働く圧力が、浸透圧である。
実際の体内では、溶質であるグルコースなど、必要な栄養素であるため、細胞膜を通過する必要がある。このとき、専用の通り道(トランスポーターなど)を通って運ばれる。
腎臓では、尿を作ることで、体内の水、栄養素、電解質、酸・塩基を調節している。その過程で、いろんなトランスポーターなどが関与している。
糸球体
血液から尿へと、水や栄養素などが濾し出される
近位尿細管
水:浸透圧によって、血管内へと再吸収される(60%)
グルコース:グルコーストランスポーターを介して再吸収される(※糖尿病治療薬である SGLT2 阻害薬の作用部位)
アミノ酸:再吸収される
Na:炭酸脱水酵素とNa+/H+ 交換輸送体を介して、プロトンと交換で、再吸収される
ヘンレのループ・上行脚
Na:K, Cl と一緒に、Na/K/2Cl 共輸送体を介して再吸収される
水:20~30% が再吸収される
遠位尿細管
Na:Cl と一緒に、Na/Cl 共輸送体を介して再吸収される
集合管
Na:アルドステロン(副腎から分泌されるホルモン)の働きで、K と交換で再吸収される
水:バソプレシン(脳下垂体から分泌される抗利尿ホルモン)が作用すると、アクアポリンから水の再吸収が促される
利尿薬の作用機序
ほとんどの利尿薬は、Na の再吸収を抑制することで、尿の再吸収を抑えるため、利尿効果を発揮する。
つまり、大まかなイメージとして、Na が体外に出ていく→Na を薄めようと、水も出ていくことで、尿量が増え、利尿効果が発揮される。
バソプレシン拮抗薬だけは、Na の再吸収には関与せず、利尿ホルモンであるバソプレシンに拮抗することで、水の再吸収を抑制する。そのため、水利尿薬とも呼ばれる。
注意点として、トランスポーターは、Na と同時に、他の電解質の出入りにも影響しているため、それに伴い電解質異常がおこる可能性があるので、服薬中はそれに注意して管理をしている。
利尿薬に共通する有害事象
めまい
立ちくらみ
倦怠感
利尿効果の延長として、降圧作用や脱水作用のために、めまい・たちくらみ・倦怠感が起こる可能性がある。
特に、高齢者では注意が必要である。
対策として、投与量を少量から漸増することも行われる。また、心不全のために利尿薬を使っている場合は、体重を定期的に測ったり、血圧を測定することも大切である。
転倒
不眠
トイレに行く回数が増える可能性があるため、転倒リスクにつながる行動が増える可能性がある。
ただし、この対策として、午前中に服用する。(短時間作用型の場合は、朝食後・昼食後に服用する場合もある)
利尿薬の分類と特徴
利尿薬の種類ごとに、電解質への影響も異なる。定期的に血液検査を行い、確認しながら、使用する。
(1) 利尿効果を目的として使う薬
ループ利尿薬
サイアザイド系薬
ループ利尿薬
ヘンレのループのNa/K/2Cl 共輸送体を阻害するため、Na 及び K の再吸収を抑制する。
利尿効果が迅速かつ強力であり、過剰な体液を外に出す目的で心不全などに使用される。急性心不全には、注射薬が用いられる。
一方、K の再吸収も抑制するため、低 K 血症の可能性がある。ほかにも、Mg や Ca も低下する可能性がある。
サイアザイド系薬
サイアザイド系薬は、Na を排出する効果もあるため、降圧作用に優れている。最近では、配合剤としてもよく用いられている。
利尿効果は、ループ利尿薬には劣るが、中程度である。
どちらも、低 K 血症に注意が必要である。
K 保持性利尿薬
トリアムテレン
抗アルドステロン薬
これらは、前の2者に比べると、利尿効果には劣るが、低 K 血症を起こさない点が特徴的である。そのため、前者と併用して用いられることがある。
トリアムテレンは Na チャネルを阻害することで、抗アルドステロン薬はアルドステロンの鉱質コルチコイド作用を阻害することで、利尿作用を示す。
(2) 水利尿薬
バソプレシン拮抗薬
バソプレシン(抗利尿ホルモン)に拮抗することで、集合管での水の再吸収を抑制する。利尿効果が高く、ループ利尿薬では治療困難な場合に使用される。
Na の再吸収には関与しないのが特徴的であるが、その反面、高 Na 血症の可能性がある。
服用中に強い口渇を感じる可能性がある。これは、高 Na 血症の初期症状の可能性もあるため、バソプレシン拮抗薬を服用中に口渇を感じた場合は、飲水するように指導する必要がある。
(3) 利尿効果がある薬
浸透圧利尿薬
炭酸脱水酵素阻害薬
この2剤は、利尿効果もある。
浸透圧利尿薬は、吸収されない糖、であり、浸透圧差によって、利尿作用をしめすため、脳浮腫の改善のため等に使用される。
炭酸脱水酵素阻害薬は、炭酸脱水酵素を阻害することで、Na+/H+ 交換輸送による Na の再吸収を阻害する。利尿薬として使われることはないが、点眼薬として緑内障治療薬に使われるほか、高山病等に使われることもある。
Na再吸収阻害と同時に、プロトン(H+)の排出を阻害するため、アシドーシスになる可能性があることに注意が必要である。
(4) 利尿効果がある薬
SGLT2 阻害薬も薬理作用の延長として、利尿作用がある。(参照:心不全治療薬)
利尿薬の有害事象
○低カリウム血症
カリウムの濃度は、狭い範囲内にコントロールされている。
血清カリウムが、
3.5 mEq/L 以下を低カリウム血症
5.5 mEq/L 以上を高カリウム血症
初発症状として、手足のだるさ、こわばり、力がぬける感じ、筋肉痛などに注意が必要である。
◆うっ血性心不全治療のために、ジギタリス製剤と利尿薬を併用する場合
ジギタリス中毒が起こりやすくなるリスク因子に、低カリウム血症がある。そのため、ループ利尿薬やチアジド系利尿薬と、ジギタリス製剤を併用する場合
血清カリウム値
ジギタリス中毒の初期症状
に注意する。
また、甘草を含む漢方薬を長期・大量服用すると、偽アルドステロン症として、低カリウム血症のリスクがある。甘草を含む漢方薬は、高齢者は服用している可能性も高いので注意が必要である。
利尿薬の観察項目
利尿薬服用中の患者において、注意すべき主な項目を挙げている。
尿量・体重・浮腫
症状や治療薬の効果判定のために重要な項目である
電解質
利尿薬は電解質にも影響するため、定期的に確認が行われる
飲水指示
心不全患者の一部では、水分の摂取制限の指示があるため、指示内容を確認しておく
ただし、水利尿薬は例外である!
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