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響け!ユーフォニアム3期 8話がすごかった

標題のとおり、アニメ「響け!ユーフォニアム」3期 8話がすごかったという話。いつもはツイッターにちょろちょろと所感を漏らすに留まっていたものの、とにかく見所や考えさせられる点が多くとても140字には収まる気がしなかったので、10年ほど前に作るだけ作って放置していたnoteを引っ張り出して感情を垂れ流しているわけである。

8話の件に先立って、僕はアニメユーフォと原作ユーフォは1期から別作品だと思って観ている。アニメは「黄前久美子の物語」で原作は「北宇治高校吹奏楽部の物語」と位置付けているが、差別化のための要素は個人差がかなりあるよう気がする。いずれにせよ巷では原作との対比云々が放送毎に囁かれているし、僕も最初は原作の再現度に興味を持ちながらアニメを観ていたものの、前回の7話あたりからシナリオやキャラクターに大きな分岐点が出てきており、それは確実にアニメユーフォの特長だと感じている(それはそれとして疑問が全く無いとは言えないが)。例えば原作の黒江真由はオーディションやソリの辞退を自然に伝えるなど至って善性を全面に押し出した上で久美子を悩ませていたが、アニメの黒江真由はかなり意思を持ってそうしているように見える。これは黒江真由が単にピュアな人間かどうかが分岐するが、シナリオの他に声優である戸松遥さんの絶妙な演技幅がキャラクターに色を付けてくれているのだと考えており、アニメなら自然にそうなる要素なのではないだろうか。あと今やお馴染みの上手くなりたい橋の初出は原作ではなくアニメであり、1期のああいった演出がオリジナル要素がアニメを一作品として昇華させたことに間違いないはずだ。こうした事象がいくつも生じることから、良し悪しではなくあくまで「すごかった」ポイントをなるべく書き残しておきたいところである。

さて、8話の話題に移ろうと思う。
8話、もとい関西大会直前合宿で最もすごかったシーンは、緑と求の関係性である。


いきなり個人的な意見だろだのなんだの言われそうではあるが、3年生編における緑こと川島緑輝の存在は悩める久美子にとって最大のメルクマールになると感じており、これまでの流れからそれが顕著になったシーンだったと言える。

詳細は割愛するが、緑の後輩である求がどうして北宇治で頑固な態度を取り続けていたかは既に3期4話で語られている。サンライズフェスティバルでの出来事だったが、原作ではサンフェスの時点で求くんのエピソードには触れられず、当然緑ちゃんが大仰に絡むことはなかった。
なので、4話で緑ちゃんが一度表情に曇りを見せ、最後のシーンで明るく振る舞うという流れは、実はやや残念に感じていた。なぜなら、原作では緑ちゃんが曇るのはたった一度、関西大会前の合宿で真実を打ち明けられた時だけであり、メンタル強者の川島緑輝の表情にここまで落差が生じたことに強く心を打たれていたからである。
4話を観た段階では、求くんの話はそれで完結してしまうのかと感じてしまっていた。パズルの入れ替えだけであれば、緑ちゃんが曇る1枚だけのピースは投入された。求は緑に自分の真実を打ち明けず、楽しい二重奏を奏でることで現実に蓋をして緑との高校生活を平穏なまま過ごしてしまうのかと。ただアニメユーフォ、その上でなんと8話できちんと求くんが緑と2人で話をするシーンを挿入したのである。

なんてことをするんだ!僕は大変驚いた。実の母に太ったことを指摘された久美子の驚愕も霞む程には驚いてしまった。緑ちゃんの曇らせピースが外からもう1枚飛んできたからである。
だってそうだろう、原作で一度切りに収まったメンタル強者・川島緑輝の曇らせがわざわざ二度も行われているのだから。
そしてこのシナリオこそが、アニメユーフォ3期にとって重要な点ではないかないかと考えているのです。

冒頭に申し上げたとおり、アニメユーフォは「黄前久美子の物語」だと僕は考えています。シナリオの主軸は当然に久美子になるわけですが、3期は久美子がどう成長していくかが特に大きなテーマになっているように感じているのです。
1期も2期も、久美子は高校生として、また北宇治の吹奏楽部員として様々な悩みに直面してきました。その上3期では部長としての悩みが重なり、進路などより個人的な悩みも増えています。そう、3期久美子には悩むポイントがたくさんあるのです。
そして悩むのは久美子だけではありません。周りには同じように悩む人が大勢います。同世代の部員だけでなく、親や教師、顧問だって悩みながら生活し、演奏に邁進しています。
原作では彼らのそうした悩みが一つ一つが比較的独立した物語になっており、束になって一つの作品になっている構成に思いますが、アニメではそれら全てが久美子を支える鍵になっているように見えるのです。

2年以上苦楽を共にした同期、特に低音パートの葉月と緑も同じように悩んでいるでしょう。ところが、持ち前の大らかさと聖女で培った経験と自信から、緑はそれほど悩みを抱えるキャラクターではありませんでした。求が入部した2年生編では困った様子は見せるものの、自分なりのアプローチで求との関係を築いていきます。
それが突然、3期4話で緑は求の本当の気持ちを断片的に知ることとなります。ある程度推測していたことであっても、真実を正確に捉えていなかった、もとい捉えようとしなかったことについて緑は初めて悲しい表情を見せました。1期の全国大会でも動じず、手持ち花火をブンブンと振り回すあのメンタル強者・川島緑輝が曇った。これは重大な出来事です。しかし3期4話では、緑はやはりこれまでと同じように、自分なりのアプローチで求と向き合うことをすぐに決めました。

3期4話を通して感じたのは、緑ちゃんには悩みが無いのではなく「悩みを引き摺らない」ことではないかと推測したのです。ショックなことや難しい悩みに直面しても、すぐに明るく前向きになる方法を知っているからです。3期4話でもすぐに止まった目の前の白線を越えて「いつの間にか先輩になっちゃってますもんね」と笑って進むことを決めています。
これは3期8話でも如実に表われました。合宿所での求との話の直後、少なからずショックを受けた緑。心を落ち着けようとショパンを聴き物思いに耽り久美子や麗奈にも詳細を明らかにしないほど珍しく胸の内を秘めましたが、「明日にはいつもの緑に戻ろう」とすぐに気持ちを切り替えます。

話が逸れすぎましたが、久美子にとって重要な点はここにあります。
久美子は部長になって以来、色々な悩みを解決しないままズルズルと関西大会直前まで来ています。この「悩み」は、久美子自身の悩みです(吹奏楽部にとっての悩みはサリーちゃんの一件を解決していることから真っ先に手を打とうとしているのでしょう)。まずいくら部活が忙しかろうと、3年生の夏にもなって進路が決まっていないのは重症です。どうなってもいいように5教科8科目勉強しているとは思えないですし。何を勉強してるんやこの子は。
そしてなにより黒江真由との関係が大問題です。さっさと白黒付ければいいところ、不幸にも部長職という盾を構え、黒江真由に対して自分の胸の内を明らかにできないまま過ごしてしまっています。
ただ、最初に出会った時に感じた「真由のユーフォが上手い」という劣等感を17・18才の人間が取っ払うことはそう簡単なことではないでしょう。ましてや部長という肩書を抱えた以上のプライドが許さないことは想像に難くありません。問題は、そのプライドを見て見ぬふりをし、「北宇治が目指しているから」と論点をすり替えて真由と向き合っていることではないでしょうか。

部長・黄前久美子は、自分自身と向き合うことができているのか?それは、二度も自分と向き合うことになりながらすぐに立ち上がった川島緑輝の姿を受け止めることができていない状況からして明白でしょう。
果たして久美子は関西大会までに、はたまた全国大会までに自分自身の悩みを振り切れるのでしょうか?期待して見届けたいと思います。









ん?
他にも見所がたくさんあっただろうって?
そんなものは他にたくさんいる識者が色々語ってくれていますので……

あえて挙げるのであれば、緑と求のシーンで奏が求に手を差し伸べるシーンは相当衝撃でした。緑同様にダメージを負っているはずの求をあの奏が不愛想に助け、それを求も受け入れるというのは意外でした。既出の意見ですが、わざわざシナリオを絞っている中でオリジナルの表現としてこうしたことには大きな意味があると言っていいのではないでしょうか。いずれにせよ求奏界隈は過激なので僕はこれ以上は触れません。


あと8話のアイキャッチはトロンボーンパートでしたが、またしても秀一の真隣に葉加瀬みちるが陣取ってました。あいつ合奏練習の時も隣にいましたよね。皆さんハンドソープを投げる準備はできていますか?


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