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響け!ユーフォニアム3期12話がすごかった…?

12話は完全オリジナル脚本での進行となりました。先に言ってしまうと僕はあまり好みではないシナリオだったのですが、すごかったことにはすごかったので忘れないうちに書き留めておこうと思います。今回はコラムというよりホワイトボードにメモを書き残しておくような作業のつもりです。


あらすじ

当座の予定通り、全国大会を前にして3度目のオーディションが開催された北宇治高校吹奏楽部。なんとユーフォのソリパートは顧問陣では決め切らず部員全員も巻き込んだ公開オーディションを取ることになりました。一貫して公平性を求める久美子は覆面式を滝に要求。実際にその形式で執り行われ、部員の投票は真っ二つ。最終投票者の麗奈の選択によってソリストは真由に決まりました。


黒江真由が全国大会のソリストに

この回最大のインパクトをもたらしたのは真由がソリストになったことでしょう。原作では全国大会のためのオーディションの描写はかなりサラッと流されており、且つソリストは久美子でした。ここまで原作との違いは色々ありましたがこれ程までに衝撃的な改変はありませんでした。
黒江真由自身の悩みを明らかにしつつ、黒江真由をソリストに仕立てながら久美子が彼女に同じ轍を踏ませないようにリーダーとして堂々と振る舞う演出は、2年前に香織が堂々と「吹けません」と宣言したシーンをなぞるようでした。
大吉山のシーンで久美子は麗奈にだけ悔しさを爆発させます。このシーンも2年以上前のミラー的演出でした。リズと青い鳥で希美が青い鳥になることを諦めた時のような心情もあると思います。この悔しさが次回最終回や、今後の人生観に影響するのかもしれません。

オーディションで皆何を思うか

オーディションは2年前と同一形式ですが、当時はほとんどの人がだんまりだったところ、今年は全員が投票しているようです。この時点でもう北宇治高校吹奏楽部は、全国大会銅賞を獲得した時よりもはるかに大きな成長を遂げていると言っていいでしょう。

この投票のシーンはそれぞれの個性がよく出ていたように思います。
まず前提として、上述のとおり今の北宇治は全国銅の時よりレベルが高いです。おそらく相当耳が肥えている部員が多いと思います。その中で票が真っ二つに割れましたが、これは人の思惑が相当絡んでいたのではと感じています。


真由に投票した人

確認できた限りでは、葉月・つばめ・三木・武川・瀧川・坂崎・松崎・義井・福井・浅倉・美玲です。
葉月・義井・瀧川あたりは純粋に上手い方を選んでそうです。これまで幹部が宣言し続けてきた実力主義という指針が素直に伝わっている証拠だと思います。ただ葉月が挙手の後に「これで良かったのかなあ」と不安な表情を見せているところに、やはり今のやり方にどこか心配事があるように感じます。
つばめは、低音部員以外ではおそらく一番真由の音を聴いているかもしれず、真由だとわかって投票している可能性が高いです。音を聴いて「吹いている時が一番真由らしい」と言ってのけるあたり、つばめはこの2年半で大きな成長を遂げた部員の一人かもしれません。
麗奈も真由に投票した人の一人です。ちなみに麗奈はアメリカの音大に進学するほど耳が良いので入場時の足音だけでどちらが久美子かは判別したと思います。音大で大活躍されているあの鎧塚みぞれさんも足音で希美を判別できるのですから当然の所業ですよね?



久美子に投票した人

梨々花・緑・秀一・吉沢・さつき・奏・すずめ・葉加瀬・森本・順菜・高野・佳穂が投票しています。
面子を見ると久美子との絡みが多かった人が多い印象です。もちろん素直に久美子の方が良いと感じた人もいるでしょうが、聞き馴染んだ音を自然に選んでいる可能性もあるように思います。特に3年生の同期たちは何千回も合奏をしてここまで来ているのですから、違いが分からないわけがないでしょう。
秀一は本気で久美子の方が良いと思って挙手していますが、たぶん上手下手ではなくどっちが久美子の音かを当てているだけだと思います。
こうして見ると、今の北宇治は耳が肥えているので、結果論で言えば覆面方式はそれほど結果は変わらなかったかもしれませんね。(久美子が提案したことにはもちろん大きな意味があると思います)



奏の命運

おそらく奏は、真由の方が上手いと思いながら久美子に挙手している可能性があります。久美子に投票する直前の逡巡は久美子に嘘を付くことになるかもしれない可能性の表れだったかもしれません。この部活で一番二人の音を聴いている奏こそ二人の違いに気付かないことはないでしょう。もっと言うと、確信の強弱はあるにせよ同じように「真由の方が上手かったけど久美子の音を知っているから久美子を選んだ人」はまだ他にもいるような気がします。
奏はこのシリーズでは久美子の良き後輩です。もっと言ってしまうと久美子の味方であり、基準を外れてしまっても久美子にとって良しとされ得る選択を取り続けています。原作の奏はもう少し中立的な立場だった気がしますが、随分可愛くなったものです。
奏は久美子の言いつけも破ってまで久美子を選んだにもかかわらず報われることはありませんでした。奏は既に自分が全国の舞台に載ることも叶わず、また関西大会でも枠からはみ出る形で選考から漏れているなど受難が続いています。オーディションを2年前と同じ形式にしてまで、当時報われずに大泣きしていた優子だったり、先輩とコンクールに出られない梨々花の影を追わせる必要はあったのでしょうか?理性的な角度から久美子を支えることができるはずの奏のアイデンティティをそうやって演出至上主義で埋没させてよかったのでしょうか?もしかしたらこの12話で黒江真由は前を向くことができたかもしれませんが、その陰でこの子がめちゃくちゃに泣いていることを絶対に忘れてはいけないと思っています。



滝昇は何を思う

滝昇、このシリーズで最も何を考えているかわからない人物の一人です。冒頭に申し上げた通りこの公開オーディションはアニメオリジナルです。もちろん元ネタは1年生編の原作にある描写ですが、3年生編のオーディションではここまでしていません。にもかかわらず、公開オーディションとした理由を「甲乙つけがたかったから」とだけ言及しています。
では、県大会と関西大会のオーディションではどうして甲乙つけられたのでしょうか?県大会のオーディションは久美子たちが「ちゃんと吹いている」とこぼしていたので手を抜いていた可能性は低いでしょう。関西大会のオーディションでは真由が久美子に対して苛立っており、いつも以上に感情が入ってよく吹けていたかもしれません。
いずれにせよどういう形であれ滝は今回の形式のみならず行った選択の理由をきちんと話してほしいところです。特に今回は大事な大事な全国大会前に「選べませんでした」でよく部員は反発しないものです。それほどまでに2人の技量に大差ない可能性はある(実際票は割れた)のですが、「自分が未熟」の一言で片付けるのはさすがにどうかなと思っています。


麗奈の決断

麗奈はどちらが久美子の音か判ったうえで真由を選びました。理由の一つは、自分が掲げた「上手い人が吹くべき」を曲げられなかったからでしょう。大きく差が出ない限り久美子を選ぶことはできなかった。これまで周りに発信し続けたことが全て自分自身に返ってくることとなり、自業自得半分可哀想半分の気持ちです。
「久美子を選ばなかった」という側面で見れば、これも一つの愛ゆえの決断かもしれません。すなわち、麗奈は青い鳥としてリズの元に留まることをやめリズを選ばなかった。安定を選ぶならリズ=久美子を選んだっていいんですよ。でもそれは金賞を取るためにも久美子との関係を進化させるためにも良いことではないと、悩みながらも決断したのではないでしょうか。




目指すもの

12話の結果として、黒江真由はわだかまりから解かれました。北宇治高校吹奏楽部の音楽力も全国大会金賞へ向けて一歩前進します。
しかし久美子は今までで一番の悔しさを抱きます。麗奈も久美子を選べなかったことで大泣きします。奏は願いがまだほとんど叶っていません。久美子にモヤモヤしたまま投票した人や、真由を選んでしまったことで後ろめたく思う部員がいないとは思えません。そして何より久美子がソリを吹くことができなかった一番の要因が真由であるという事実は変わりません。最後の大吉山のシーンで久美子と麗奈の目線に立った時、「真由さえいなければ」と思わないことは結構難しいことだと思います。
現実問題として91人も部員がいれば全員がすがすがしい気持ちで一つの目標に向かって前進することは不可能でしょう。そんなことは現実世界を生きているのでよくわかっているんです。だからこそ、「黄前久美子の物語」がこんなに苦しいものになんてなってほしくはなかった。こんなに悔しくて死にそうな気持ちを持ち続けてまで全国大会金賞を取りたいのだろうか?金賞を取れた時、彼女たちはどんな気持ちになるのだろうか?そしてまだ見ぬ自由曲の全貌はどうなるのか?最終回は全神経をかけて見届けたいと思います。





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