映画ルックバックを見てきた短い感想

 見てきました。映画版『ルックバック』。
 なんだろうな。
 これって創作という概念に対するある種の宗教映像だなと思うわけです。悪い意味ではなく。
 自分の信仰している宗教の神話を上映されている感覚がする。どーんと感動するのではなくじんわりと肌に染みこむ祈りのような映画だった。どういう語彙が存在するのか分からないけど、聖歌とか聞いているとなったりしませんかじんわり。
 神話ゆえに、本質を語ることができるのはきっとずっと後になってからなのだろう。映画ルックバックについてあれが凄いここが綺麗という感想の語り方はできるけれども、それを語ったところで自分以外の人にとって重要なものとはならないんだよね。
 人物画や背景画やアニメーションを実際に創っていて上手な人は言わずもがな、音楽に造詣が深い人や漫画に思い入れの深い人、あるいは田舎の小学校に通っていた人から大切な人を亡くした人まで、その人の人生において重要な位置にいる記憶や哲学を浮かび上がらせながら光る作品であると思う。そしてこの特性は映画になることでより濃くなっている。
 そんな作品になった理由として一つ分かるのは、携わった人たちが全員頑張って作り上げたということだ。それはこの作品に対してだけ頑張ったという意味でなく、積み重なった人の生命が作品の裏に潜んで、細部を美しく仕上げている。彼ら彼女ら一人一人がルックバックの世界に触れた痕跡が、貧乏揺すりの音となり、ゆるく積もった雪を踏みしめる轍の跡となり、東北訛りで上擦った叫びとなる。ありとあらゆる現実に踏み込む細部になる。
 感想になってるのかなこれ。

 地方の平日夜の上映というのもあって席はかなり空いていたんだけど、その数少ない客が大学生くらいの男二人組で車に乗って見に来ていたりするわけですよ。そういうのを見ていると凄く嬉しくなる。美術を信じる気持ちは不滅だ。

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