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(144) 「おとなの研究」のあり方について考えたこと

2021年7月8日(木)

2017年から「おとなの研究コース」というものを開いています。この受講生が自分の研究を発表する場として「おとなの研究会」を開いています。この研究会は8月に開催する回で9回目となります。案内は次の記事で広報しています。

「おとなの研究コース」は次のような意図で始めました。

現場で働いている社会人が「研究」を始めたらどうなるでしょうか。何か面白いことが起こりそうです。特定の組織に所属せずに研究をしている人を「独立研究者」と呼びましょう。このコースでは3ヶ月をかけてその第一歩である「独立研究者を始める」ということを学んでいきます。「研究」というと難しく思えたり、現場には関係ないと思うかもしれません。しかし、そうではありません。現場の観察から問題を発見してデータを取り、それを分析して研究論文を書いて発表することによって、現場も自分も大きく成長していきます。その方法を身につけましょう。

・「おとなの研究」の道は遠い

この「おとなの研究コース」は2021年で5年目に入り、9期生を迎えました。そして「おとなの研究会」は9回目となります。上に書いたその意図は良いものであり続けたと思っています。毎期ごとに着実な人数の受講生が集まってくれたことはその根拠としていいかと思います。しかし、その成果は目に見えるものとして世の中に出たのかといえば、まだ道は遠いと言わなければなりません。

「おとなの研究コース」とその後の「研究部」では、独立研究者として学会発表や論文投稿ができるような土台を作ることを究極のゴールとして設定していました。しかし、いま考えていることは、それがはたしてそのまま「おとなの研究者」のゴールとして設定されるべきなのだろうかということです。

・おとなのテニスはジュニアのテニスとは違う

私は50歳近くになってからテニススクールに入って、テニスを始めて15年ほどになります。正確には中学・高校時代にテニス部に入っていましたけれども、それは実質的にテニスをしていたとはカウントしません。ともあれ、そんなふうに「おとな」になってから始めるテニスはジュニアのテニスとはそもそも意味合いが違います。

おとなのテニスの特徴は次の3点にまとめることができます。

・テニスを無理をしないで続ける
・でも、きちんとしたトレーニングを受ける
・そして、テニスを楽しむ

まず、テニスを無理をせずに続けることです。続けること自体に価値があります。私は初めの頃がむしゃらにやって、テニス肘になったり、足の肉離れを何度もやりました。それでも今続けていられるのは、だんだん無理をしない身体の使い方がわかってきたからです。

そのためには我流ではない、きちんとしたトレーニングを受ける必要があります。それは無理のない身体の使い方を知って、ボールを打つことを習得するためです。我流でやっている人はいずれ怪我をしてしまいます。

そして最終的には、テニスをすることを楽しむことです。プレーをできるだけ長く続けることができれば、その分楽しみの総量は大きくなります。大会に出て優勝するとかそういうことではなく、実力の拮抗した仲間達とゲームをして、勝ったり負けたりすることです。そして、少しずつでも進歩していく。そのこと自体が楽しみのプロセスなのです。

・「おとなの研究」の特徴と楽しみ

「おとなのテニス」の特徴を「おとなの研究」に当てはめてみるとどうなるでしょう。おとなの研究の特徴は次のようになるでしょう。

・研究を無理しないで続ける
・でも、きちんとした研究のトレーニングを受ける
・そして、研究を楽しむ

「おとなの研究」をする人は研究のプロになるわけではありません。その意味では、在野研究者や独立研究者という形とも少し違うのです。あえて表現すれば「研究の方法と楽しみを知った現場人」ということができるかもしれません。

ここまでの「おとなの研究コース」は、大学の卒業論文や修士論文を書くために必要な内容を網羅した形でコースを設計してきました。しかし、「研究の方法と楽しみを知った現場人」になることをイメージすると、それは少しずれたものだったのかなという反省があります。

それならば、大学や大学院に行った方がいいのです。もちろん、卒業論文や修士論文を書くためのトレーニング「だけ」をやってくれる大学・大学院はありません。必ず、それ以外のコースワークで単位を取る必要があります。

学会発表や論文投稿をするには、まず学会に入会を認められることが必要ですし、文献集めも必要ですし、研究の倫理審査も必要です。しかし、個人ではそれができない場合が多いのです。とすれば、「大きな研究」ではなく、「自分の現場での研究」をするのが、おとなの研究者のベストなあり方なのではないかと思います。

おとなの研究はまず自分の楽しみのためにします。そして自分が関わる現場の改善のためにします。でも同時に、いつか誰かの役に立つかもしれないことを念頭に置いて研究を継続するのです。そのプロセスそのものが楽しみとなるように。

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