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特別企画「真髄」  第4回 What's Coastal Rowing?

世界的に有名なとある造船会社の輸入代理店に
お勤めのT.S.氏に、
数回に渡って寄稿していただく
特別企画「真髄」。
第4回は「What's Coastal Rowing」。
日本でも昨年初の大会が開催された
「コースタルローイング」
について、紐解いて行こう。

ーー「Coastal Rowing」とは

最近少しずつ日本国内でも話題になり始めているCoastal Rowing。おそらくネットで動画や写真を見た事のある人もいるかと。
ですが、実際に乗ってみた、あるいはレースに出たことがある人は大変に少ないと思います。
普段乗っているボートとは何が違うのか。そもそもどんな競技なのか。
今回はそんな事を世界の、そして日本国内での現状なども含めて書いていこうと思います。

ーー艇種、競技

競技スタイルは大きく2種類に分かれます。名前が象徴するように、海で行われることがほとんどで、当然ラフコンディションの中行われます。
①Coastal Rowing
ヨットに近い競技スタイルで、予選が4000m、決勝は6000mで競われることが多いです。
コース上に浮かべられたいくつかのブイを決まった方向からターンしなければならず、しかもコースはレーンで仕切られていないオープンな状態なので、コース取りが非常に重要になります。クラッシュも頻繁に起きるので、ここの駆け引きがレース中に最もエキサイティングな場面の一つとなります。
コースに決まった形は無く、マラソンの様に大会毎でコースの形状が変わります。
スタートとフィニッシュはビーチと水上の2パターンがあります。下の図は2013年に行われた世界選手権のコースで、水上スタート→ビーチゴールパターンです。去年の世界選手権は、水上スタート→水上ゴールでした。
FISA主催の世界選手権は2007年から開始されています。

椎名さん1

(日本ボート協会資料より)

②Beach Rowing Sprint
ビーチからランでスタート、その後波打ち際に浮かべられたボートに飛び乗り、片道250mのコースを3つのブイをスラロームしながら往復して、再びビーチに戻りボートから飛び降りてフラッグを取る、もしくはボタンを押す事でゴールとなる競技です。
レース時間が短くしかも観客と選手の距離が近いので、大変盛り上がりやすい競技です。日本でも昨年、愛媛県今治市で日本初開催され、大変に盛り上がりました。
世界選手権は2019年から行われています。筆者的にはこちらが大好物です。

椎名さん2

(日本ボート協会資料より)

③艇種
世界選手権で採用されている種目はM1x, W1x, M2x, W2x, M4x+, W4x+, Mix2xの7種目で、男女ミックス種目が存在します。このほかにも4+や2-もボートとしては存在します。


ーー使用するボート

荒れた水域での競技を想定した、バランスが良く頑丈で排水性に優れた作りになっています。また波に乗った際に有利になるよう、ロッカーといわれる独特な反りをもった形状のボートも見られます。

椎名さん3

C1x。シングルスカルまたはソロと呼ぶ。
Max length:6.00 m
Minimum weight:35 kg。

椎名さん4

C2x。ダブルスカル。
Max length:7.50 m
Minimum weight:60 kg。

椎名さん5

C4x+。舵手付きクォドルプルスカル。
Max length:10.70 m
Minimum weight:150 kg。

椎名さん6

ちなみにこんなのもありますが、これはSurf boatという、オーストラリアで人気の競技です。ライフセーバーが行う事が多いそうで、今回紹介しているCoastal Rowingとは別物です。ですがこれも面白そうですね。
(Instagramのcorrimalboatiesから)


ーーCoastal Rowingの最大の利点と世界的な流れ

最大の利点は海や湖があれば出来るということです。つまり直線に2kmのコースを確保できない小さな国や島国(それらの国の多くは発展途上国であり、スポーツが盛んではありません)の人にも立地的なハードルが大幅に下がる為ボートを漕いで貰いやすくなります。そしてその流れで国際大会にも参加可能です。
実際に現在Coastal Rowingの世界選手権には、モナコやアメリカンサモアなど、通常のレーシングボートの世界選手権ではなかなかお目にかかれない国や地域からの出場もあります。

この事から、恐らく消滅するであろうオリンピックでの軽量級種目(これに関しては前回のリオデジャネイロオリンピックの際にも話題になりましたね)の代替となる可能性が非常に高く、世界的にもその方向で動き始めています。
FISAはIOCに対して、軽量級の代りの種目として最短でパリオリンピックでのエキシビジョン採用、遅くともその次のロサンゼルスオリンピックで採用されるよう働きかけている状態です。そしてIOC側も、上記の理由からCoastal Rowingの採用を好意的に受け止めています。種目の中に男女ミックスがある事も好意的に受け止められる要因の一つです。
https://row-360.com/world-rowing-confirms-plans-to-propose-coastal-rowing-for-paris-2024/?fbclid=IwAR3EEpvuixm9csH45DjGxbOQ727gTlwEbaYLyhbyqMj2bFmqIh6m1QGQdKc

それに先駆け、2022年のユースオリンピックでのRowing種目はBeach Rowing Sprintで行われることが決定されています。

ーー日本国内の現状

前述したとおりCoastal Rowingは世界選手権も開催されており、2019年からはBeach rowing Sprintの世界選手権も始まっています。そんな国際的にはとてもホットな種目であるCoastal Rowingですが、日本での認知度は非常に低いです。そもそも国内大会がほぼ行われておらず、国際大会へのナショナルチーム派遣も行っていません。昨年末に日本ボート協会内に専門の委員会が発足、ようやく産声をあげたところです。

椎名さん7

写真は昨年のCoastal Rowing世界選手権出場のJPNクルー。代表選考も派遣も存在せず手を上げれば出場できたので、筆者(3番)は参加してきました。そんなゆるい現状ですが、これから積極的に物事が動いていくことが期待されます。

ーー昨年日本初開催されたBeach Rowing Sprint Games Imabari

そんな現状である日本のCoastal Rowingですが、昨年ついに日本初開催となるイベントが行われました。それが「Beach Rowing Sprint Games Imabari」です。
今治ローイングクラブ主催で、愛媛県今治市にある鴨池海岸で行われました。
(以下筆者の個人的な考えが強くなります。)
情報に敏感でバイタリティー溢れる今治の方々が国内初となる本大会を開催して下さった事は、Coastal Rowingの認知度向上に大変貢献された事請け合いであり、このままでは国際的に大きく出遅れるところであった日本を一転、大きく前進させたと言っても過言では無いと思っています。
遠方から参加された方も多く、その中には是非地元でも開催したいという事を仰っていた方もおり、今後の全国的な発展に期待せずにはいられません。

そしてもう一点、この今治でのイベントで素晴らしかった事は、「フェス感」が大変強かったことだと感じています。会場には場を盛り上げる音楽と実況の声が響き渡り、アルコールや食事のある出店が並び、知らない人のレースに会場中が熱くなる。この状態を筆者は素晴らしいと感じました。ボートでこんなに盛り上がる事が出来るのだというモデルでした。

これまでのボートの大会の多くは、会場を盛り上げるとか観客を楽しませるという要素がほぼ皆無であり、選手の試し合いの場でしか無かった印象です。もちろん悪いことではないですし、筆者自身もそれが好きでボートにのめり込んでいますが、それはマニアックな世界です。ボートを知らない人にも楽しめる要素がなければ競技は衰退するのみなのではないかと思っています。
多分今行われている多くの試合の会場にいる人間のほとんどが、自分が出ている、親しい知り合いが出ている、ボート狂、のいずれかではないでしょうか。つまりマニアックな地下アイドルの世界に近い気がしています。
知らない人のレースを楽しく観戦出来るという感覚は日本のボート界では画期的で、ボートを知らない人にも楽しんでもらえる要素があると感じました。
その「フェス感」が出せた要因は、今回のBeach Sprintという種目の特性に依存する部分が大きかったのではないかと考えています。理由は3点。
①レースの時間が短くダレにくい。
②スタートとゴールが同じであるので観やすく盛り上がりやすい。
③ビーチというレジャースポットの代表的な場所での開催であったことで、そもそも楽しい雰囲気。チャラい感じ。

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(写真はBeach Rowing Sprint Games Imabariでのスタートの様子。)

ーー今後の国内の流れ

世界的にさらなる発展の流れがあるCoastal Rowingですが、日本国内でもそういった流れで進むべく活動が進んでいます。
日本ボート協会のなかのコースタルローイング委員会では、この競技(特にBeach Rowing Sprint)が世界的なスポーツの潮流3視点である、
①ダウンサイズ化(バスケの3on3等)
②ビーチ化、ストリート化(小スペースで実施可能)
③パラ化(様々な人がチャレンジできる)

にジャストフィットしていることを生かし、ビジネスやスポーツの専門家からの協力を仰ぎ、イベントとしての価値を高め、収益化できるスポーツにデザインし、多くのファンを獲得できるよう動き始めています。
今までのボート界の流れに縛られることのない、今まで見たことの無い様なボートのかたちを見られるかもしれません。ワクワクしますね。

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