見出し画像

ふたりぐらし

-1話-
朝、電車に揺られながら車内を眺める。
乗客は私を含め10人程度。
満員電車とまでは行かないが、私にとっては人数が多かった。
今日、家を出た。
家出じゃなく、巣立ちの方だ。
高校を卒業して1ヶ月、やっと新居やその他諸々の手続きが終わって引っ越すことになった。
18年分の私の思い出が多く詰まったこの街を去っていく。
電車は出発と同時にみるみる景色が変わっていく。
私が過ごした前高が、もうあんなにも遠くなってしまった。
車両の一番端の席に腰掛けて、目を瞑る。
ガタンゴトンと音を立てながら大きく揺れて進む電車に、少しの寂しさと期待をバッグにつめた私が乗っている。
他の人からしたら当たり前の風景、当たり前の日常。
でも私がこんな気持ちで電車に乗るのは二度と無いだろう。
今日は特別な日で、変わった風景なのだ。
何度か乗り換えをしながらたった1人で所沢まで向かう。
1人で県境を跨ぐのも、大荷物を持って歩くのも初めてだ。
特別さに胸を躍らせながら新居へ着々と足を運んでいく。
小学生や中学生が外で元気よく遊んでいる。
楽しそうな子供たちを見ていると、近くにまだ目も開いていない子猫がいた。
私(親猫…どうしたんだろう…)
近づいても、親猫は一向に姿を現さない。
子猫は所々切り傷を負っていて、ガリガリに痩せていた。
私(親猫に不幸があったんだ…)
私はその猫を拾って急いで家へ向かった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?