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一日一日を大切に、より丁寧に
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「死ぬときぐらい好きにさせてよ」
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2018年に75歳で亡くなった女優の樹木希林 (きききりん) さん。亡くなる2年前に出された新聞広告が上の写真です。洋画家の名作と重ね合わせた美しいビジュアルと、「死」をテーマにしたキャッチコピーに、ネットなどで生死を考える書き込みが相次ぎました。
樹木さんは、2013年に「全身がん」であることを告白し、世間を驚かせました。この広告に出演を決めた理由についてこのように語っています。
『生きるのも日常、死んでいくのも日常』。死は特別なものとして捉えられているが、死というのは悪いことではない。そういったことを伝えていくのもひとつの役目なのかなと思いました。
生と死は表裏一体
仏教では「生死一如 (しょうじいちにょ) 」を説きます。
「生」と「死」は一見すると正反対のような気がしますが、実は表裏一体。コインの裏と表のようなもので、「生」があるから「死」があり、「死」があるから「生」がある。
だからこそ、幸せに「生きる」ためには、しっかりとじっくりと「死する」ことに目を向ける必要があるのかもしれません。
「家族に、自分の死んでいく姿を見せたい」
樹木さんは20代の頃から仏教書を熱心に読み、世間的な義理や価値観に背を向け、自由に生きて、静かに燃え尽きる最期を理想とされていました。
樹木さんの最後について、娘である内田也哉子 (うちだややこ) さんが書き残してくださっています。
母は常々「家族に、自分の死んでいく姿を見せたい」と話していました。なぜ見せたいかというと、この日常というのは、稀なる瞬間の積み重なり。その自然の摂理の中で人は生まれては死んでいくっていうことを身をもって気づかせたかったんでしょうね。
樹木さんは家族全員に見守れながら自宅で息を引き取られました。その樹木さんの死にゆく姿を通して、家族はそれぞれに受け取るものがあったようです。
かけがえのない一日一日が積み重なっての人生だと分かれば、日常のどんな小さなことにも感謝が出来る。そして、どんな人に対しても慈しみを持って接することが出来るというか。やはり、身近な人の死を体験すると理屈抜きで実感するんですね。
さっきまで、息をして、しゃべってた人が、次の瞬間には消えていく。身体は焼かれ、灰になって、お墓の下で土に還っていく。「それを見てほしい」と。8歳の玄兎に至るまで、「おバアちゃんが死んだ。寂しいね」っていうこと以上の、人間の営みというか、そういうものを教えてもらえた。「ああ、母はこれを意図していたんだな」と思いましたね。それ以降、何だか子どもたちの顔つきが変わりました。それは、何ものにも代えがたい大きな贈りものでした。
最後の最後まで樹木さんらしいなと感じるとともに、私は憧れさえも感じます。
冒頭の樹木さんの広告「死ぬときぐらい好きにさせてよ」というキャッチコピーには、以下のようなフレーズが添えられています。
人は必ず死ぬというのに。
長生きを叶える技術ばかりが進歩して
なんとまあ死ににくい時代になったことでしょう。
死を疎むことなく、死を焦ることもなく。
ひとつひとつの欲を手放して、
身じまいをしていきたいと思うのです。
人は死ねば宇宙の塵芥。せめて美しく輝く塵になりたい。
それが、私の最後の欲なのです。
思い通りにいかないことが多い人生のなかで、「生きてよし、死んでよし」と思わせてもらえる拠りどころが仏教の教えかもしれません。
今日もお寺の本堂を開けて、仏さまと一緒に皆さまのお参りをお待ちしています。ようこそ、ようこそ。
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このコラムを書いたお坊さんは…
霍野 廣由 (覚円寺 副住職) さん
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