見出し画像

カーネーションの花言葉

────エッセイ

母の日最大の仕事はお絵かきだ。

上の子が小学生にあがったとき、母の日カードにメッセージを書くようになった。つたないけれど一生懸命書いた「ママ ありがとう」の文字。カードをもらった妻は涙ぐんでいた。

子どもたちが大きくなり、カードに下の子のメッセージが加わった。年を重ねるにつれ、子どもたちも年頃になって。照れくさいのか、メッセージは短い定型文みたいになった。それでは毎年変わり映えしないので、ぼくが絵を添えることにした。

サッカー教室に通いだしたときはサッカーボールを。中学生にあがったときは学生服を。その年に何かしら関連するものをイラストにして、子どもたちのメッセージに添える。いつか妻が読み返したときに、その年のことを少しでも思い出せるように。

昨日の昼間、ちょっとした家族ケンカがあった。たいした内容ではないけれど、晩御飯も少しだけ重い雰囲気。ぼくは子どもたちに頼んでおいたカードのメッセージが心配で。ヤケになって「今年は書かない!」と言い出すのではないかとヒヤヒヤした。子どもが寝る間際、「メッセージよろしくね!」とLINEを送った。すぐ既読はついたけど返信はなし。どうなることかと心配しながら眠りについた。

朝起きて、ここに入れておいてね、と伝えた引き出しを開けた。そこにカードがあってホっと一息。絵を描こうとカードを開く。その年によってメッセージのボリュームが変わるので、空きスペースを確認して何を描こうか考える。メッセージに絡めた絵にすることもあるので、子どもたちの文章を読んだ。

まだ誰も起きていない、朝のリビングでひとりジーんときてしまった。特別に感動する言葉ではないけれど、そこにはきちんと感謝の言葉が書いてあって。あぁ、ちゃんと気持ちを切り替えて書いたんだな、と感心した。

昨日のケンカと普段の感謝は別物だけど、小さな子どもでは切り替えづらい。大人でも難しいときはあるし。普段は無口な子どもたちが、こんなことを考えているんだと、背が伸びただけじゃなくて、内面も成長してるんだと感じられて嬉しかった。

そんな気持ちを噛みしめながら、イラストを描いた。今年はシンプルに赤いカーネーションの絵だ。花言葉どおりの子どもたちのメッセージ。これ以上ぴったりくる絵はないと思う。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?