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映像「『flows』を見る/読む」のこと①

2022年12月8日20時40分、今年の夏に、iwao galleryで行った自主企画「『flows』を見る/読む」の記録映像を何度も見ながらこの文章を書き始めている。無性に書きたくなってしまった。映像の撮影・編集は岡安賢一さんにお願いし、イベント「『flows』をめぐって」にご出演いただいた方・関係者の方々に確認をしていただきながら、公開の準備を進めてきた。まだこの時点では公開しておらず、明後日2022年12月10日、『flows』の主役と言っていい、私の父・小金沢啓一の命日での公開(YouTube)を予定している。12月3日に一周忌を終えた。

私のパソコンには、昨年の12月9日に書いた、こんな文章がデータとして残っている。

2021年12月9日
午後3時10分、母から電話を受ける。来年2月に職場にて開催される卒業制作展のオンライン・ガイダンス中であったため、すぐ出られず、何度か掛け直すが通話中が続く。もともと、母は私に対して日中に電話をしてくる人ではなく、そもそも電話をすること自体が多くない。近年は父の容体に関することが中心だったから、今回もすぐそれと理解したが即座に出られなかった。しばらくして繋がると、病院から母宛に電話があり、よくないのだと言う。COVID-19もあって2年弱会っていない父の身体は、母から聞くことが中心で、それが、私が考えていた以上に厳しいものであることを知ったのも最近のことで、今週末の11日はお見舞いに行く予定であったが、そういう状況ですらないことを電話で知った。私が所属するコースの同僚である教職員には話をしていたこともあって、授業のことをはじめ担当している仕事のことを申し訳なく思ったが、急ぎ帰りの支度をさせてもらい、大学から一度自宅に戻り、万が一に備えての衣服も用意してから、今日は朝から何も食べていなかったため長距離ドライブの前に食事をとり、途中ガソリンも満タンにし、約350キロの道を行った。

2021年12月9日の日記より

普段、こういう日記を残しているわけではないのだが、この日は、これからの時間がなにか決定的な時間になるだろうことが予感されて、書き残しておく必要があるのではないかと思ってのことだった。覚えているのは、これを、もう四半世紀前、私が中学2年生の頃にできた実家の二階、6畳程度の一人部屋のベッドで横になりながら打ち込んだということ。のちに、写真集『flows』に収録する文章のベースになるのだが、このときは、そんなことはまったく考えていない。「約350キロの道を行った」あと、父が病気のため実家を離れ暮らしていた施設へ、翌日母・弟とともに行くことを思いながら、まず実家に前泊した夜に書いたのだ。
だが、結局、生きている父と会うことはかなわなかった。

「生きている父と会うことはかなわなかった」ということが、葬儀の模様を吉江さんにお願いし、その写真を見て写真集を作りたいと思い平野さんにデザインをお願いし、その制作の過程のさなか、知り合ったiwao galleryの磯辺加代子さんにご協力をいただいて、自主企画を立ち上げるということにつながる。その記録映像や、こうした文章もその流れと共にある。

母の正恵はそういう私を見て、「(亡くなった)お父さんのことを考え続ける」ことについて心配もされたのだが(それは、あまり考えすぎて気を落ち込ませないようにという母の優しさである)、それで苦しんでいるということではなく、なにか考えなければならない切迫感があり、ただそれはあくまで自分の問題であり続けていると思う。「自分の問題」とは、私が職能としているキュレーターや教員としてということを超えて、一人の人間として、人はどう生きて/死んでいくのか、その間に人と人はどう関係しているのか、ということだ。『flows』と呼ぶことになった一冊の写真集に関するさまざまなことは、この、きわめて個人的な動機と欲望から生まれ、派生している。

それを、こうしてnoteであるとか、そのほかのSNSであるとか、何かしらで伝える、ドキュメントをYouTubeで公開する、ということの矛盾はわかっている。個人的なものを個人的なもののままとどめればいいではないか、とも思う。

けれども、見てもらいたいと思う。写真集『flows』、自主企画「『flows』を見る/読む」、そのうちのイベント「『flows』をめぐって」、そして、これから公開予定の映像では、家族の死という出来事が、写真、写真集、イベント、映像と、さまざま、転がり続けている。きわめて個人的なことが、どこかの、誰かに、流れ、行き着くことがあるのだろうか、あって欲しい、という気持ち。それが、誰に頼まれているわけでもないもの・ことを作りながら、根源にあるのかもしれないと気づかされた。

そう、気がつき、求める人が、見知らぬたった一人でも。でも、誰もいなくても。


◉映像「『flows』を見る/読む」
https://youtu.be/FacHmillP5k

出演:小金沢智、平野篤史、吉江淳、前野健太
会場:iwao gallery
撮影・編集:岡安賢一
スペシャルサンクス:山本直彰
収録:2022年8月19日・20日
公開:2022年12月10日0時0分
32分13秒

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