見出し画像

映像「『flows』を見る/読む」のこと②

本日2022年12月10日、映像「『flows』を見る/読む」をYouTubeで公開した。2日間の記録を32分13秒の映像にまとめてくれたのは、岡安賢一さん。彼とは、彼の拠点とする群馬県中之条町の芸術祭「中之条ビエンナーレ2013」に、私がイマジンというグループで参加した際に知り合った。そのとき、私が立案した企画を岡安さんは面白く思ってくれ、その後、初めて会ったのはいつ・どのような機会だったか覚えていないが(岡安さん、ごめんなさい)、私が2015年、同じく群馬県に新設される太田市美術館・図書館の準備室に勤めるようになってから、だんだんと、ワークショップや展覧会場の記録の仕事をお願いをしていた。

中之条町で生まれ、東京の日本映画学校でドキュメンタリーを学びながら、その後生まれ育った郷里に戻り、映像の仕事をする岡安さんのいわゆる「美術」との遭遇は、中之条ビエンナーレが非常に大きかったと聞く。岡安さんは今でも、僕は美術の専門家ではないという言い方をするが、日々居住する土地(群馬県)で生まれる美術や表現と呼ばれる何かに触れ、最初は自ら飛び込み、いずれ求められるようにしてそれらの記録に携わり続けている岡安さんの目と言葉。それは、専門であるかどうかを問わずして、目の前にあるもの、目の前で生成される(されている)ものに対してどう誠実に向き合うか、という点で、職能こそ違うものの、私が仕事とするキュレーターと近しい性分を共有していると思っている。

岡安さんとは、特に太田市美術館・図書館の仕事で、そして私が太田の仕事を退職してからもたびたび仕事をお願いをしてきた。いま、私のYouTubeアカウントの「ライブ」以外の「動画」映像はすべて岡安さんに作っていただいたものだ。太田市美術館・図書館のこと、アーティスト(大小島真木さん、山本直彰さん)へのインタビュー、そして活動(パラレルモダンワークショップ)のドキュメント。さらに、日本画家の谷保玲奈さんとの仕事(通称「チーム谷保」)がある。今回の「『flows』を見る/読む」も、その流れの中にあるものだ。

小金沢智
https://www.youtube.com/@koganezawas/videos

もう付き合いが長くなっているということが前提となるのだと思うが、岡安さんは、こういう人やもの、状況を撮ってもらいたいと話をすると、ではこう撮りましょうと提案をしてくれる。それは杓子定規な答えではなくて、人やもの、状況に対して彼の考えるベストの方法・手法を考えてくれる。こういう内容だからこう撮ろう、こう編集しよう、ということは、プロフェッショナルならば当たり前のことであるのかもしれないが、それは、撮る対象や、クライアントから伝えられる内容に対するビデオグラファーとしての「問い」や「解釈」、なにより物事に対する柔軟さが彼の中になければ存在しえないだろう。そしてそれは彼の仕事に対する矜持(そう彼自身は口には出さないが)なのではなかったか。もっとも、近年の私と岡安さんの関係は、良い意味で、私が一方的なクライアントでということではないのだが。

前置きが長くなってしまったが、今回、岡安さんには8月19日のイベント「『flows』をめぐって」([トーク]小金沢智、平野篤史、吉江淳[ライブ]前野健太)を中心にしつつ、その前後の時間(8月19日と20日の日中)にも現場に来てもらい、撮影をしていただいた。写真集を見に来てくださっている方々に、自ら声をかけ、その場面を撮影していいか、基本的には声をかけつつ、一方で、対象によっては逐一そうせず、いきなりカメラを出して撮り始める、という場面もあった。その、撮るべきもの、状況に対する嗅覚というものが岡安さんにはおそらく経験によって備わっていて、それが彼の作る映像を貫いているのだと思う。私が最近はほとんど、撮影内容に対して共有すべき内容はもちろん話をしながら、撮影・編集にあたって事細かな指示などはせず全面的に任せているのは、その信頼による。事後的に、編集内容に際してあそこはこうして欲しいなどと言ってしまっているのは、ただ私の至らなさである。(なお、この写真集の話は前々から岡安さんとしていて、自主企画に先立つ6月だったと思うが、私から写真集を岡安さんに差し上げている)。

さて、岡安さんが今回の映像についてFacebookで投稿してくれた際、こんなことを書いている。

『flows』という美しい写真集と、それに纏わる一連の撮影と聞いた時に「三脚を使って撮ろう」と思いました。なんだそんなことか、と思われると思いますが、そういう姿勢で挑んだ映像です。

投稿を読んで、あ、確かにそうだったな、と思ったのだったが、撮影にあたってどのような機材を使うか・使わないかということは、ただそれがどういうシチュエーションであるかということを超えた、対象に対する「解釈」があってこそ成り立つものだろう。思えば、『flows』という写真集は、はじめは写真家の吉江淳さんの葬儀に対する解釈が、次いで写真集を編んでくださったアートディレクター・デザイナーの平野篤史さんのその写真に対する解釈が、そして、自主企画に際しては岡安賢一さんによる写真集とその場所に対する解釈が、と、多くの方々の解釈によって成り立っている。そこには、私の意志というものも少なからず入っている(伝えている)が、こうなるのか、という率直な驚きが、どの場面でもあった。だから、今日公開した映像で、私は終始、平野さん、吉江さん、前野さんの言葉に対して驚き続けている。見てくださった方は、何をそんなに自分のことなのに大きな声を出したりしているのだと思うかもしれないが、それは、『flows』の前後で、私が皆さんにほとんど身を任せた結果である。不思議なことだと思う。

岡安さんが「三脚を使って撮ろう」という姿勢で作ってくださった映像、そこで何が撮られたのかを、ぜひご覧いただきたい。


◉映像「『flows』を見る/読む」
https://youtu.be/FacHmillP5k

出演:小金沢智、平野篤史、吉江淳、前野健太
会場:iwao gallery
撮影・編集:岡安賢一
スペシャルサンクス:山本直彰
収録:2022年8月19日・20日
公開:2022年12月10日0時0分
32分13秒

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?