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税理士のビジネスモデル3 バランス型 小成功者

今年の夏頃出す、ウェルスダイナミクスとビジネスモデルの本の全10章から第4章のビジネスモデルの部分を抜粋加筆してチラ見せしています。

バランス型モデル 小成功者


小成功者としての理想像

今回、約40名の税理士にインタビューしたところ、現状で、一番多かったのがこのバランス型モデルです。将来的にもバランス型モデルが良いという人が多い結果になりました。

フリーランス型から始まり、顧客対応のできるスタッフを雇用することで複数の「プラクティス」を持つことで「ビジネス」レベルの事業体に成長することができます。

個人・法人の決算申告、相続税の申告などひととおりの業務を行い、スタッフ数は5名から10名。年少規模は1億円、所長の個人所得3000万円で、重要な顧客以外は社員に任せることで、所長は、現場を離れることができます。社会的地位もあり小成功者として士業のひとつの理想像です。

バランス型モデルの失敗例

バランス型モデルでの失敗例は、受けられる仕事は何でも受け、がむしゃらに働いて、忙しくなったら人を雇い、その人件費を稼ぐためにさらに忙しく働くことを繰り返すうちに、規模的には、「ビジネス」レベルになったというパターンです。
まるで離島のドクターのように、ありとあらゆる仕事を引き受けるので、所長自身が現場から離れられず、労働環境もブラックで社員の入れ替わりが激しく採用コストもかかり資金繰りも厳しいという状況です。これは、かつての私です。体育会系で、頼まれると嫌と言えない性格の人が陥りやすいパターンです。

この悪いパターンに陥らないために何に気をつければ良いのでしょうか?

それは、ビジョンとバリューを明確にすることです。簡単に言うと、何をやるのか、何をやらないのかを決め、それをスタッフと共有することです。

とりわけ何をやらないのかを決めることがとても大事です。「融通の効く税理士さん」とか「親切な税理士さん」と呼ばれたら危険信号だと思いましょう。

自己啓発系のセミナーなどで、「頼まれ事は試され事。」とか「頼まれたら、はいかYESしか答えはない。」という思考が成功につながると耳にすることがあります。
しかし、士業、特に税理士業においてこれを実践することは、とても危険です。
税理士法では、「税理士の業務は、税務代理・税務書類の作成・税務相談と規定され、独立した公正な立場において、納税義務の適正な実現を図ることを使命とする」とされています。

納税者に公正な立場でアドバイスをすると「あなたは、税務署の味方なの?」と言われることが良くありますが、本来税理士は、税務署の敵でも味方でもなく、中立な立場なのです。

しかし実情は、中小企業とその家族の味方になって、個人・法人両方の難しい厄介事一切の相談に乗ることが税理士の仕事だと思われているのではないでしょうか?

スナックのママが倒れたら

以前、インターネットで私の事務所を見つけて、少し癖のある経営者が訪ねてこられました。仮にAさんとしておきます。Aさんが話されるには、理想の税理士を探している最中とのことでした。Aさんは次のようなストーリーで理想の税理士像を説明されました。

Aさんの知り合いのスナックのママが病気で倒れた時に、スナックの顧問税理士の女性スタッフたちが交代で、ママの不在中お店を切り盛りしたのだそうです。
「これこそが、私の理想の税理士です。近藤先生は同じことができますか?」

「頼まれ事は試され事」と言うとあとで後悔することに

法律上の税理士の役割と、顧問先企業が考える税理士像には大きなギャップが存在します。そのような状況の中で、「頼まれ事は試され事」と見栄を張ってしまうと、後で後悔することになるでしょう。

特に業績が悪い顧問先を担当する際には注意が必要です。税理士は顧問先の苦しい財政状況を知り、経営者が苦労している姿を目の当たりにしますから、つい同情してしまうことがあります。場合によっては、経営者からの依頼を受けて資金を融通したり、借入金の連帯保証人になることもあります。

税理士の片思い

税理士は経営者のことを親身に考えますが、多くの場合、それは片思いに過ぎません。倒産した会社を多く見てきた経験から、資金繰りに苦しむ人の精神状態は通常ではありません。彼らは役者になり、何とかして資金を調達しようと善良な人を演じます。自己破産して借入金が免責されると、まるで記憶喪失にでもなったかのように、借りたお金のことはすぐに忘れてしまいます。
倒産前に資金援助をしても、それは死に金に終わることが多いので、本当に助けたいなら再生のための資金を援助するべきだと思います。

やらないことをリストアップしてみる

話をもとに戻すと、バランス型モデルの税理士は、やらないことを決めることが重要ということで、もう少し具体的にしてみましょう。

やらない客層を決める 
年商規模の大きすぎるところ、少なすぎるところ。脱税思考の強いところ、お金のないところ、高圧的な態度をとるところ。資料をなかなか送ってこないところ。オンラインミーティングができず、毎月必ず訪問する必要があるところ。電話やFAXでしか連絡できないところ。

やらない業種・業態を決める 
例えば、建設業、製造業、卸売業など在庫が多く、工数がかかる業種。支店や店舗が多いところなど 

やらない地域を決める 
自動車や電車で1時間以上かかるところなど
このように、自分が嫌な経験をしたことや、社員のモチベーションが下がるところ、工数がかかり採算性が低くなるところをリストアップしてみると良いと思います。

ランチェスターの弱者の戦略
やらないことを決めると、やることや、理想の顧客像が浮かんできます。ウェルスダイナミクスのプロファイルに応じて自分がフローに乗れる方向性に向かうのも良いと思います。

ランチェスタ―の弱者の戦略というものがあります。中小企業にとって、とても有用な教えだと思います。広い戦場で戦う場合、離れた場所で大砲を打ち合うと大砲の数の多い強者が圧倒的に有利です。しかし狭い戦場に持ち込むことで活路を見出すことができます。宮本武蔵は、一乗寺下り松の決闘で100人近い吉岡一門と戦ったとき、田んぼの畦道などを使い常に1対1の状況を作ったと言われています。

このことから、経営リソースを狭い範囲に集中することが弱者にとっての得策となり得ます。例えば、歯科医院専門や、不動産オーナー専門など、業種を絞って成功している例も多く見受けられます。

このあとで紹介する専門特化型モデルと異なるのは、ここでの業種の絞り込みのポイントは再現性です。顧問先によって処理内容の違いがほとんどなく経験年数が少ないスタッフでも顧客対応が可能で、同じ業種を担当するので、その業種に対する知識も蓄積されていきます。

保険診療が中心の歯科医院や不動産賃貸業は、毎月確実に売上が入金されますので経営が安定しています。そのため処理工数に対する売上が高く、貸し倒れの心配もありません。

また、ライバルの少ない地方都市で、地域を絞り込み、その地域でトップシェアをとる戦略も良いでしょう。

採用の問題

経験者や資格保持者は、ホワイトな職場環境の大規模な税理士法人を希望することが多いようです。しかし採用についても、ビジョンとバリューを明確にして特色を打ち出すことでうまくいっている税理士事務所もあります。スタッフが全員女性で女性しか採用しないという税理士事務所にはものすごい数の応募があるそうです。また、今なら在宅勤務者を積極的に採用することでうまくいっているところも多いです。

このように、バランス型モデルは、成り行きに任せた漫然とした経営をせず、ビジョンとバリューを明確にすることがとても大切です。

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