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事実が歪められて伝えられている群馬の森朝鮮人追悼碑問題 4 〜東京高等裁判所判決〜

主文

1 原判決を取り消す。
2 群馬県知事が平成26年7月22日付けでした被控訴人の公園施設(県立公園群馬の森における「記憶 反省 そして友好」の追悼碑)の設置期間の更新申請に対する不許可処分(群馬県指令都第aaaaa-a号)を取り消す旨の被控訴人の請求を棄却する。
3 被控訴人のその余の請求に係る訴えを却下する。
4 本件附帯控訴を棄却する。
5 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 申立て

(控訴の趣旨)
1 原判決主文第1項を取り消す。
2 前項の部分につき,被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
(附帯控訴の趣旨)
1 原判決中,被控訴人敗訴部分を取り消す。
2 群馬県知事は,被控訴人が平成25年12月18日付けでした公園施設(県立公園群馬の森における「記憶 反省 そして友好」の追悼碑)の設置期間の更新申請に対し,これを許可せよ。
3 訴訟費用は,第1,2審とも控訴人の負担とする。

(略)

第3 当裁判所の判断

1 認定事実

 次のとおり付加訂正するほかは原判決の「事実及び理由」第3の1に記載のとおりであるから、これを引用する。なお、以下,書証の枝番号の記載は省略する。また,人証はいずれも原審におけるものである。
(原判決の付加訂正)
(1)26頁21行目冒頭から25行目末尾までを次のとおり改める。
「前記前提事実,証拠(甲2,3,8,9,11,13~16,18~31,47,48,52,53,56,58~63,74,乙1~4,11~14,18,19,証人F,証人G(以下「G」という。),証人Eのほか,後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。」
(2)27頁1行目の「旧建てる会は」の次に「,平成10年9月6日に結成され(甲1,55)」を加える。
(3)27頁13行目の「請願書を提出し,同請願」を「請願書(乙10)を提出して本件請願をした。本件請願」に改める。
(4)27頁22行目の「原告は」から23行目の「碑文案は」までを「旧建てる会は,平成14年4月頃,群馬県知事宛に,追悼碑の名称,形状,碑文等の案を提出した。このうち,名称の案は「記憶,反省,そして友好」とされ,碑文の案は」に改める。
(5)27頁26行目末尾に続けて「なお,旧建てる会は,上記案とともに「追悼碑,維持,管理組織について」と題する書面も提出した。同書面は,組織の名称をH会とし,会員を個人会員(旧建てる会の発起人,呼び掛け人,役員,その他追悼碑建立に尽力され,大きく貢献された人)及び団体会員(賛同団体,D,I)とし,結成につき,追悼碑建立後直ちに旧建てる会の組織を基本としてH会に移行する形で結成するとし,経費会計につき,旧建てる会から引き継ぐ維持管理資金を基金とし,必要に応じて寄付金を集めるなどとしていた。(乙11)」を加える。
(6)28頁1行目の「都市施設課は,」の次に「「強制連行」という文言が歴史認識に関わるものであり,日本政府の見解として認められていないことなどから,」を加え,8行目の「見直すよう助言した」を「見直すこと,④追悼碑の管理に当たる組織につき,「建てる会」とH会の両会則を整備し,会則中に「管理資金に施設撤去費を留保しておく」旨を明記すること,⑤会則中の会の任務につき,「設置許可の更新に関すること」を入れること等を助言した(甲2)」に改める。
(7)28頁17行目末尾に改行して次のとおり加える。
「 なお,被控訴人の会則(甲3)においては,被控訴人の機構である運営委員会が「設置許可の更新に関する」事務を処理すること,被控訴人の経費は会費,寄付金及び建てる会から引き継ぐ維持管理基金で運営し,維持管理基金には原状回復のために必要な資金として別途50万円を留保することが定められており(乙17も同様である。なお,甲3,乙17の関係については後記2参照),被控訴人は,原状回復のために必要な資金として定期預金50万円を保有している(甲15)。」
(8)28頁20行目の「増進し」から21行目の「である」までを「推進するために追悼碑の建立は極めて有意義であり,追悼碑の設置は歴史と文化を基調として建設されている本件公園の理念に合致し,本件公園は建立の地として最もふさわしい」に改める。
(9)28頁23行目末尾に続けて「なお,建てる会は,当該設置許可申請において,施設の管理の方法につき,H会がより善良な管理者として維持管理に当たるとしていた(甲13)。」を加える。
(10)29頁7行目冒頭から8行目末尾までを削る。
(11)29頁13行目の「運営員会」を「運営委員会」に改める。
(12)31頁13行目の「J」を「K」に改める。
(13)32頁21行目の「証人Fは,同月」を「Fは,同年5月」に改め,22行目から23行目にかけての「証人」を削る。
(14)33頁23行目の「証人」を削り,同行目の「平成17年5月14日」から24行目の「平成24年5月15日」までを「平成16年5月8日付けの朝鮮新報,平成17年5月14日付けの朝鮮新報及び平成18年4月25日」に改める。
(15)33頁26行目の「群馬県知事に対し」の次に「,本件設置許可処分につき」を加える。
(16)34頁17行目末尾に続けて「群馬県知事が被控訴人に対して再度の報告を求めている間の同年1月31日,本件設置許可処分に係る設置期間は満了した。」を加える。
(17)34頁18行目の「原告は」から19行目の「提出の求め」までを「被控訴人は,同年3月28日,控訴人に対し,群馬県知事からの同年1月10日付けの再度の報告書の提出の求め」に改める。
(18)35頁2行目の「本件更新」を「本件更新申請」に改める。
(19)35頁12行目から13行目にかけての「本件設置許可処分の更新を不許可とすること」を「本件追悼碑の設置について再許可をしないこと」に改める。
(20)35頁16行目の「本件更新」を「本件許可条件違反があったことから,本件更新申請」に改める。
(21)36頁2行目の「群馬県知事」の次に「(県土整備部長専決)」を加える。
(22)36頁3行目末尾に改行して次のとおり加える。
「ソ なお,被控訴人は,平成26年4月19日,「群馬における朝鮮人強制連行と強制労働」と題する小冊子を発行した。その表紙及び奥付けの被控訴人の名称下には「(L会)」との付記がある(甲10,74)。」

2 争点(1)について

 当裁判所も,被控訴人は民事訴訟法29条の「法人でない社団」に当たると認めるべきものであって代表者の定めがあるから,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法29条により,当事者能力を有するものと判断する。その理由は,原判決の「事実及び理由」第3の2に記載のとおりであるから,これを引用する。
ただし,原判決37頁10行目の次に改行して次のとおり加える。
「 そして,被控訴人は,前記1⑴エ及びオのとおり控訴人の助言も踏まえて結成されたものであり,控訴人が,本件更新申請の受理又は本件更新不許可処分に当たり,被控訴人の社団性に疑義を呈したことがあったとも認められ
ない。」

3 争点(2)アについて

 当裁判所も,控訴人は本件追悼碑の設置について更新申請を許可すべき一般的な義務を負わないものと判断する。その理由は,次のとおり付加訂正をするほかは,原判決の「事実及び理由」第3の3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の付加訂正)
 38頁8行目の「拒否を」から12行目の「予定している」までを「許否を判断する必要があり,設置された施設が法2条2条の「公園施設」に該当し,かつ,法5条2項の許可要件を具備する場合には,当該更新申請者に継続して公園施設の設置又は管理を行わせるべきでない十分な理由がない限り,更新申請を許可すべきものと考えられ,前記1⑴エ及びオのとおり,控訴人の助言も踏まえて,被控訴人の会則中運営委員会の事務に設置許可の更新に関する事務が加えられ,これに基づき被控訴人が本件更新申請をした本件のような場合(公園管理者において,設置許可に当たり,設置許可を受けた者以外の者が更新申請を行うことを予定していた場合)も同様であると解される。しかし,法が,設置許可に係る設置期間の満了後に設置許可が更新されることを原則として予定している」に改める。
(当審における補充主張に対する判断)
 原判決の「事実及び理由」第3の3(付加訂正後のもの。以下同じ。)に説示するとおり,控訴人は,本件追悼碑が法2条2条の「公園施設」に該当し,かつ,法5条2項の許可要件を具備する場合に限り,被控訴人に継続して本件追悼碑の設置又は管理を行わせるべきでない十分な理由がない限り,本件更新申請を許可すべきものと解すべきであるから,争点⑵アに関する補充主張については,争点⑵カ及び争点⑵aについての判断をした後に,必要に応じて判断することとする。

4 争点(2)イについて

 当裁判所も,本件許可条件は憲法21条1項に違反せず,無効ではないものと判断する。その理由は,次のとおり付加訂正をするほかは,原判決の「事実及び理由」第3の4に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の付加訂正)
(1)39頁4行目の「設置目的」の次に,「に加え,法5条に基づく公園管理者以外の者による公園施設の設置,管理は,その者に自由な表現活動を提供する手段として確保されているものとは解されないこと」を,8行目から9行目にかけての「利用に供される」の次に,「ことを確保するなど,当該公園管理者以外の者による公園施設の設置,管理が適切に行われるようにする」を,12行目の「するものである。」の次に,「法5条は,公園管理者以外の者に対し,公園の敷地に設置される施設の設置,管理を公園管理者に代わって行うことを許可するものであるから,その公園管理者以外の者が行う当該施設の設置,管理について宗教的及び政治的中立性を求めることに相応の理由があること,」をそれぞれ加える。
(2)40頁13行目の「平成14年4月」の次に「頃」を加える。
(3)40頁18行目の「上記訴え」から19行目の「碑文の案から,」までを「追悼碑設置を申請する団体の名称につき,「強制連行」を含まないものとし,碑文の案につき,上記訴えに係る部分を削除した上で」に改める。
(当審における補充主張に対する判断)
(1)被控訴人は,本件許可条件に,表現の自由に対する規制目的としての正当性は認められない旨主張する。
 しかし,本件設置許可処分は,本件公園における本件追悼碑の設置許可にすぎず,被控訴人が本件追悼碑の設置の方法によって本件公園において表現活動をすることを許可したものではなく,本件公園における被控訴人の表現活動自体に関わるものではない。また,本件設置許可処分に付された本件許可条件は,控訴人が,「M会」という名称であった旧建てる会に対し,①追悼碑設置を申請する団体の名称を「N会」とすること,②碑文案にある「強制連行」の文言を「労務動員」に改めることなどを助言し,旧建てる会がこれを了承したという経緯を踏まえ,本件追悼碑が本件公園に設置される公園施設として許容されるためには,宗教的・政治的に中立なものであることが必要不可欠であると考えられることから定められたものであり,本件公園における被控訴人の表現活動自体を制約する趣旨のものではない。被控訴人の上記主張は,その前提を欠き,採用することができない。
 被控訴人は,法8条の解釈として,本件許可条件の趣旨目的が他の公園利用者による公園の利用を現実に損なうような宗教的・政治的行事を禁止するものと解せば,これを正当化することができるところ,被控訴人が本件追悼碑前で開催した各追悼式によって,本件公園の他の利用者が本件公園の利用を妨げられた事実はないから,控訴人の本件許可条件の適用は憲法21条1項に違反する旨主張する。しかし,法8条(旧8条を含む。)の解釈として,本件許可条件の趣旨目的が他の公園利用者による公園の利用を現実に損なうような宗教的・政治的行事を禁止するものであるとの限定的な解釈を採ることはできないし,そのような解釈を採らないことが違憲又は違法であるということもできない。被控訴人の上記主張は,前提において失当であり理由がない。
(2)被控訴人は,「政治」,「政治的」という概念はそれ自体広汎な概念であり,具体的な定義や説明がなければ「政治的行事」の範囲が明確化されることはなく,本件許可条件は,明確性原則に違反するなどと主張する。
 しかし,本件許可条件は,不特定の者を名宛人とするものではなく,直接には本件設置許可処分を受けた建てる会を,実質的には,本件設置許可処分時に本件追悼碑の管理に当たることが予定されていた被控訴人を名宛人とするものであったと認められるところ(原判決の「事実及び理由」第3の1(付加訂正後のもの。以下「認定事実」という。)⑴エからキまで参照),「強制連行」という用語は日本政府が認知しないものであり,「労務動員」を「強制連行」と評価することは日本政府の見解に反することになるという控訴人及び旧建てる会の共通認識の下(甲74,証人G),認定事実⑴ウからキまでの経緯を経て本件設置許可処分に至ったものであり,原判決の「事実及び理由」第3の4(付加訂正後のもの。以下同じ。)⑵に説示するとおり,本件許可条件にいう「政治的行事」には,少なくとも本件追悼碑に関し,政府の見解に反して「強制連行」という用語を使用し,歴史認識に関する主義主張を訴えることを目的とする行事(国内外の政治問題にまで発展することもあり得るものである。)を含むことを,旧建てる会の後継組織であり,旧建てる会の構成員らによって結成された被控訴人も認識していたと認められる。
そうすると,被控訴人においては,追悼式において「強制連行」という用語を使用した発言があった場合には,当該追悼式が本件許可条件にいう「政治的行事」に該当し得ることを認識していたと認められる。
 Gの供述(甲58,証人G)中,上記認定に反する部分は,上記本件設置許可処分に至る経緯に照らし,採用することができない。また,控訴人が,
旧建てる会,建てる会及び被控訴人に対し,本件許可条件にいう「政治的行事」の内容を具体的に説明した事実がなかったことは,被控訴人の認識に関する上記判断を左右しないというべきである。
 以上によれば,本件許可条件が明確性原則違反を理由に憲法21条1項に違反するということはできない。
(3)被控訴人は,来賓の発言に強制連行の文言があれば,それだけで追悼式が政治的行事とされることとなり,過度に広範な規制となるなどと主張する。
 しかし,追悼式の臨席者が政治的発言をした場合に本件許可条件の違反の有無を判断するに当たっては,当該政治的発言をした者と追悼式の主催者である被控訴人との関係,当該政治的発言の状況等を考慮して,本件のように追悼式が政治的行事であると認められる場合に限り,本件許可条件違反とされるのであるから,過度に広範な規制になるということはできず,被控訴人の上記主張を採用することはできない。

5 争点(2)ウからオまでについて

 当裁判所も,本件更新不許可処分は憲法21条1項及び31条に違反せず,被控訴人が開催した追悼式のうち,本件発言2,本件発言3及び本件発言5があったものは,いずれも政治的行事に該当し,被控訴人は本件許可条件に違反したものと判断する。その理由は,次のとおり付加訂正をするほかは,原判決の「事実及び理由」第3の5から7までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の付加訂正)
(1)43頁3行目から4行目にかけての「平成25年12月25日」を「平成25年12月24日頃」に改める。
(2)45頁7行目の「同人」を「O運営委員」に改める。
(3)45頁17行目から18行目にかけての「追悼碑建立の集い」を「追悼碑建立記念の集い」に改める。
(4)46頁3行目末尾に続けて「控訴人は,被控訴人が故意又は重過失により自白を繰り返していたというべきであって錯誤を否定すべき特段の事情があるから,自白の撤回は許されないと主張するが,本件全証拠によっても,被控訴人が故意に真実に反する自白をしていたとは認められず,被控訴人が真実に反する自白をしたことに重大な過失があったことを根拠付ける事実も認めるに足りないから,控訴人の上記主張を採用することはできない。」を加える。
(5)49頁6行目の「証人G」を「G」に改める。

6 争点(2)カについて

 当裁判所は,原審と異なり,控訴人が,本件追悼碑が本件公園の効用を全うする機能を喪失し,「公園施設」(法2条2項)に該当するものではなくなったと判断したことに違法はないものと判断する。その理由は,次のとおりである。
(1)ある施設が都市公園の効用を全うするか否かは,個々の公園の特殊性に応じて,具体的に決すべきであると解される。そして,引用に係る前記前提事実(付加訂正後のもの。以下同じ。)⑵及び⑶のとおり,本件公園は,都市住民全般の休息,鑑賞,散歩,遊戯,運動等総合的な利用に供することを目的とする総合公園であり,都市における良好な景観の形成,緑とオープンスペースの確保を通じて豊かな人間性の確保と都市住民の公共の福祉増進をはかることを設置目的としており,本件追悼碑は,わが国と近隣諸国,特に,日韓・日朝との過去の歴史的関係を想起し,相互の理解と信頼を深め,友好を推進するために有意義であり,歴史と文化を基調とする本件公園の効用を全うするものとして設置されたものである。
(2)引用に係る前記前提事実及び認定事実のとおり,控訴人は,戦時中に群馬県内で亡くなった朝鮮人,韓国人の追悼碑を本件公園に設置することを希望していた旧建てる会との協議において,当該追悼碑に関し,日本政府の見解として認められていない「強制連行」の文言を使用して歴史認識に関する主義主張を訴える行為をすべきではないとの考えの下,当初,申請団体名及び碑文にあった「強制連行」の文言を見直すように助言したところ,旧建てる会がこれを了承し,碑文の「強制連行」の文言も「労務動員」という言葉が使われることになったものであり,このような経緯の後,群馬県知事は,建てる会からの申請に対し,「設置許可施設については,宗教的・政治的行事及び管理を行わないものとする。」との条件(本件許可条件)を付した上で本件設置許可処分をしたものである。このように,群馬県知事が本件許可条件を付したのは,本件公園が地方自治体である控訴人の設置,管理する都市公園であり,その効用を全うするために設けられる公園施設(法2条2項)も一般公衆の自由な利用に供する目的をもって設置されるべきであるところ,本件追悼碑は,本件設置許可処分により本件公園の敷地の一部を相当長期にわたり占有することになることから,宗教的・政治的に利用されるものではないことが必要不可欠であると判断したものと考えることができる(原判決の「事実及び理由」第3の4,甲31)。この点は,証人Eが,県立公園は県民一般の皆さんが遊びに来る憩いの場であるのに,それが特定の人の考え方を発表する場であったり,特定の宗教のために利用される場であったりすると,それを不快に感ずる方たちも出てくるから,公園管理者の県としては,それを防ぐため,あらかじめ特定の政治活動,特定の宗教活動に使われないようにする趣旨の条件を付したと思う旨を証言しているとおりであり(証人E27頁),また,控訴人が,「記念碑」(法2条2項6号,法施行令5条5項1号)は,「たとえ平穏な態様であっても,政治上の目的又は宗教上の目的等のために利用されるものであってはならないと解される」(原判決の「事実及び理由」第2の4⑵イの控訴人の主張)とか,「政治上の目的又は宗教上の目的等のために利用されるものではないものに限定されるというべきであ」る(原判決の「事実及び理由」第2の4⑵ウの控訴人の主張)とかと主張し,あるいは「法の沿革及び目的,都市公園が,一般公衆の自由な利用に供する目的をもって設置される公共施設であること並びに関係法令において,都市公園を住民の思想伝達の場として機能させることに着目した規定が見当たらないことから,政治上の目的又は宗教上の目的等,特定の目的のために利用される記念碑は,一般的に都市公園の効用を全うしないと考えられるためである」と主張している(控訴理由書6頁ほか)ことからも,理解することができる。
 そして,本件設置許可処分の根拠となっている法5条は,公園管理者以外の者が公園施設を設け又は管理しようとする場合,当該施設が「当該公園管理者が自ら設け,又は管理することが不適当又は困難であると認められるもの」又は「当該公園管理者以外の者が設け,又は管理することが当該都市公園の機能の増進に資すると認められるもの」のいずれかに該当するときに限り申請が許可される旨を規定しているが(同条1項,2項),この規定は,法2条に規定する公園施設の設置,管理を公園管理者以外の者に委ねたにすぎないものであって,公園管理者以外の者に対して表現活動の場を設定するなど表現活動への援助の仕組みを設定したものということはできない。また,法8条(旧8条)は,公園管理者は,法5条1項(旧5条2項)の許可に都市公園の管理のため必要な範囲で条件を付することができると定めていることは,既述のとおりである。そうすると,被控訴人が公園管理者以外の者として公園施設である本件追悼碑の管理をすることになること,本件追悼碑が本件公園の敷地の一部を相当長期にわたり占有することになること,公園管理者である控訴人としては,本件追悼碑について,宗教的・政治的に中立な存在であることや都市公園内にある教養施設としての効用を全うすることを確保する必要があること(なお,控訴人自身が,公園施設について宗教的・政治的行事及び管理を行ってはならないことはもちろんのことである。)等の事情に照らせば,群馬県知事が本件設置許可処分をするに当たり「設置許可施設については,宗教的・政治的行事及び管理を行わないものとする。」との本件許可条件を付したことには十分な根拠があり,本件許可条件の付与は適法なものということができる。
 それにもかかわらず,旧建てる会の後継団体である被控訴人が平成17年,平成18年及び平成24年に本件追悼碑の前で開催した各追悼式において,被控訴人の事務局長,共同代表又は来賓が,「強制連行」という文言又はその趣旨が含まれる本件発言2,本件発言3及び本件発言5をしたものであり,これらが政治的発言に当たり,本件追悼碑を管理する被控訴人自身が,その碑文に記された事実の歴史認識に関する主義主張を訴えるための行事(政治的行事)を行ったものといえることは既述のとおりである。このような被控訴人の行為により,本件追悼碑は,政治的争点に係る一方の主義主張と密接に関係する存在とみられるようになり,中立的な性格を失うに至ったものというべきであって,その結果,本件追悼碑の設置期間が満了する平成26年1月31日の時点において,公園施設(法2条2項6号にいう教養施設)として存立する上での前提を失うとともに,設置の効用(日韓,日朝の相互の理解と信頼を深め,友好を促進するために有意義であり,歴史と文化を基調とする本件公園にふさわしいもの)も損なわれたものということができる。被控訴人が上記の本件許可条件違反をした後の平成24年5月以降,認定事実(5)ウからキまでのとおり,本件追悼碑を巡って街宣活動,抗議活動等が活発化し,本件公園内及び本件公園付近でも街宣活動等が行われ,平成25年の追悼式については公園利用者の安全の確保の観点から本件追悼碑の前で行うことを回避せざるを得ない状況に陥ったことが認められるが,これらの事態は,被控訴人が本件許可条件に違反する行為をしたことに起因して招来されたものというべきである。
 以上のような経緯を踏まえ,群馬県知事は,本件更新不許可処分において,本件各発言が「政治的行事及び管理」を禁止した本件許可条件に違反する行為であること,このような違反行為が繰り返し行われた結果,本件追悼碑の目的は,日韓,日朝の友好の推進という当初の目的から外れてきたこと,本件追悼碑は,存在自体が論争の対象となり,街宣活動,抗議活動などの紛争の原因になっており,都市公園にあるべき施設としてふさわしくないことを理由として,本件追悼碑が法2条2項の公園施設に該当しないし,法5条2項1号,2号の公園施設にも該当しないと判断したものであるが,既に述べたところからすれば,本件追悼碑はその設置期間が満了する平成26年1月31日の時点で既に法2条2項の公園施設に該当しないものとなっていたから,群馬県知事の上記判断には正当な理由があるというべきである(本件発言1及び本件発言4が前記のとおり本件更新不許可処分の理由として用いることができないとしても,本件更新不許可処分の判断は,本件発言2,本件発言3及び本件発言5がされたことなど,既に述べた事情に基づいて維持することができるものというべきである。)。
 なお,認定事実⑸イ,ク及びコのとおり,控訴人の担当職員であるFは,平成24年5月頃には,既に同月15日付けの朝鮮新報の記事を確認していたのに,控訴人は,平成25年10月頃に,平成17年5月14日付け,平成18年4月25日付け及び平成24年5月15日付けの各朝鮮新報の記事を確認するまで何らの調査を行わず,平成25年12月24日頃に,上記各朝鮮新報の記事が事実と相違ないかについての報告を求めるまで被控訴人に対する事実確認をしていない。しかし,一方で,Fは,証人尋問(調書18頁)において,平成24年5月頃に朝鮮新報の記事を確認した後,約1年半もの間,調査及び事実確認を行わなかった理由について,本件更新申請がされた段階で処理すればよいと考えていた旨供述しているし,控訴人としても,平成25年12月24日頃には被控訴人に対する事実確認もしているのである。このように,Fが,本件設置許可処分を取り消す対応を考えておらず,本件更新申請がされた段階で処理することを考えており,控訴人もこのような考えに沿った対応をしていた事実があるとしても,これらのことが,控訴人が被控訴人の本件許可条件違反を放置したことや,軽く受け止めていたことを示すものとはいえないし,また,本件更新不許可処分の判断の適否に影響を及ぼすような事情であるということもできない。
(3)これに対し,被控訴人は,法2条2項の「公園施設」該当性について,その施設が都市公園の機能を増進させているか否かという観点から判断すべきであり,社会情勢の変化や群馬県議会での議論を考慮すべきではないなどと主張する。しかし,法2条2項が都市公園の効用を掲げていることからすれば,「公園施設」該当性については,その施設の効用又は機能ではなく,当該都市公園の効用を考慮すべきであり,現実に当該都市公園の効用を全うする機能を営むものであるか否かを当該都市公園の設置目的その他当該都市公園に関わる一切の事情を考慮して判断すべきものと解されるから,被控訴人の上記主張を採用することはできない。
 被控訴人は,本件追悼碑は,過去の歴史を学び将来の平和に役立てようという記念碑であり,都市公園に設置する「教養施設」としてふさわしく,歴史と文化を基調とする本件公園の効用を全うするという機能は失われていないなどと主張する。しかし,本件追悼碑が設置された当時に上記のような性格や機能を有しており,また,本件条件違反によっても本件追悼碑に刻まれた碑文の文言に変わりがないとしても,その管理者である被控訴人が,本件追悼碑の前で,強制連行又はこれと同趣旨の文言を用い,その碑文に記された事実の歴史認識に関わる主義主張を訴える行事を繰り返し行ったことにより,本件追悼碑が政治的争点(歴史認識)に係る一方の主義主張と密接に関係する存在とみられるに至り,中立的な性格を失ったものということができる。そうすると,本件許可条件違反及び本件追悼碑を巡るその後の経緯によっても,本件追悼碑がなお教養施設としてふさわしく,かつ本件公園の効用を全うする機能を有するという被控訴人の上記主張は採用することができない。
 上記の点に関し,原判決は,「政治的発言に該当する本件発言2及び本件発言3がなされていたにもかかわらず,平成24年5月15日付けの朝鮮新報が同年4月21日開催の追悼式に関する記事を掲載するまでは,被告に対しても本件追悼碑に関する抗議や意見の電話及びメールが寄せられたことはなかったのであり,原告が追悼式を開催及び運営するに当たって支障や混乱が生じたことを認めるに足りる証拠はないから,……原告が,本件追悼式について政治的行事を行った事実があることをもって,直ちに本件公園の効用を全うする機能を喪失していたということはできない。」と説示する。しかし,本件追悼碑が本件公園の効用を全うする機能を有するかどうかは,控訴人が本件追悼碑の前で追悼式を開催及び運営するに当たって支障や混乱が生じるかどうかという点のみが判断の基準ではないから,原判決の上記考え方を採用することはできない。
 被控訴人は,特定の民族の犠牲者に対する記念碑は,多くの公立公園に存在し,地方自治体の管理する敷地にも存在する旨主張し,上記主張に沿う証拠(甲80)を提出する。しかし,既に述べたとおり,本件追悼碑を管理する団体である被控訴人が,繰り返し本件追悼碑の前で政治的行事を行うという本件許可条件に違反する行為をしたことにより,本件追悼碑が,政治的争点(歴史認識)に係る一方の主義主張と密接に関係する存在とみられるようになり,中立的な性格を失うに至ったものであること,しかも,本件追悼碑を巡って街宣活動等が活発化したことから,群馬県知事は,本件追悼碑の目的が,日韓,日朝の友好の推進という当初の目的から外れてきたこと,本件追悼碑は,存在自体が論争の対象となり,街宣活動,抗議活動などの紛争の原因になっており,都市公園にあるべき施設としてふさわしくないことを理由として,本件更新不許可処分をしたものである。このように,本件更新不許可処分は本件追悼碑に係る個別具体的な事情に基づいてされたものであるから,被控訴人の上記主張によっても,その公園施設該当性に係る結論が左右されるものではない。
 被控訴人は,平成24年4月21日に開催された追悼式の後,本件追悼碑前で追悼式を一切行っておらず,仮に,本件許可条件に違反し本件追悼碑が政治的性質を多少なりとも帯びた事実があったとしても,本件更新不許可処分がされた平成26年7月22日までに2年3か月が経過しており,本件追悼碑が帯びた政治的性質は消失した旨主張する。しかし,本件全証拠によっても,被控訴人が開催した追悼式を契機として現実化した政治的な紛争が,その後の時の経過により落着していたと認めるに足りず,上記説示のとおり本件追悼碑がもともと政治的な対立をもたらす潜在的な危険性を有するものであることも考慮すれば,被控訴人の上記主張を採用することはできない。
 なお,F及びE副知事の供述(乙18,19,証人F)中には,本件更新不許可処分に当たり,本件追悼碑に関する抗議活動や本件設置許可処分の取消し等を求める請願の採択の影響を受けてない旨を述べるかのような部分がある。しかし,これらの部分が,本件更新不許可処分について,控訴人に対する抗議活動等に屈し,又は群馬県議会における請願の採択に盲従したものであることを否定するにとどまり,本件公園内及び本件公園付近での街宣活動等の事実や請願の採択を考慮したことを否定する趣旨でないことは,F及びE副知事の供述全体を検討すれば明らかである。
(4)さらに,被控訴人は,被控訴人が控訴人に示した代替案には,当分の間,本件追悼碑前での追悼式の開催を自粛するという案が含まれていたから(認定事実⑸ス),控訴人は代替案を真摯に検討すべきであった旨主張するが,上記⑶に説示したとおり,追悼式を契機として現実化した政治的な紛争がその後の時の経過により落着していたとは認められないこと,本件追悼碑がもともと政治的な対立をもたらす潜在的な危険性を有するものであることからすれば,控訴人が被控訴人の代替案を採用しなかったことをもって,本件更新不許可処分に裁量権の逸脱濫用の違法があるということはできない。
 被控訴人は,本件追悼碑の撤去は,村山談話(甲49)や日朝平壌宣言(甲50)において示された過去の植民地支配に対する謝罪と反省の意思を否定する行為である旨主張する。しかし,本件追悼碑が公園施設としての効用を失い,公園施設に該当しなくなったことに基づいて控訴人が本件更新不許可処分をしたことは,本件公園の公園管理者として法律に従った行為をしたにすぎないのであり,村山談話や日朝平壌宣言の内容についての賛否を示す行為をしたものではない。また,村山談話及び日朝平壌宣言の内容を検討しても,本件公園の設置目的又は効用を損なう存在となり,法2条2項の公園施設に該当するものでなくなった本件追悼碑について,本件更新不許可処分の結果,被控訴人においてその撤去を余儀なくされることになったとしても,村山談話及び日朝平壌宣言の趣旨に反するということはできない。被控訴人の上記主張を採用することはできない。
 その他,本件更新不許可処分について,群馬県知事がその裁量権を逸脱したことを基礎付けるような事情を認めることはできない。
(5)以上によれば,本件追悼碑は,本件公園の効用を全うする機能を喪失し,「公園施設」(法2条2項)に該当するものではなくなっていたから,本件更新不許可処分は適法である。

7 争点(2)aについて

 上記6のとおり,本件追悼碑は法2条2項の「公園施設」に該当するものではないから,被控訴人は,法5条2項の許可要件中「公園施設」であること以外の許可要件の具備の有無にかかわらず,同条1項の許可を受けることはできないことになるが,事案に鑑み,念のため,これらの許可要件の具備についても判断することとする。
(1)法2条2項の「公園施設」の中には,売店,飲食店,宿泊施設等のように公園管理者が自ら経営するのが必ずしも適当でないものがあり,財政上,技術上その他の理由により公園管理者が自ら設け,又は管理することが困難であったり,意欲のある地域住民が公園の管理に参画することや専門的ノウハウを有する民間事業者等が設置,管理を行うことなど,公園管理者以外の者が設け,又は管理する方が都市公園の機能の増進に資するものもあることから,法5条は,公園管理者が第三者に公園施設を設け,又は管理させることができるとし,他方で,都市公園の自由利用の原則からして,第三者による公園施設の設置又は管理を無制限に認めることはできないことから,これを,①公園管理者が自ら設け,又は管理することが不適当又は困難であると認められるもの(同条2項1号),②公園管理者以外の者が設け,又は管理することが当該都市公園の機能の増進に資すると認められるもの(同項2号)に限定したものと解される。
 そうすると,法5条1項の許可は,講学上の特許に当たり,同項の申請をした者の人格,識見,経験,技術,手腕,財力等を考慮して与えられるものであり,公園管理者は,申請に係る公園施設が同条2項において明文で定める許可要件を満たし,かつ,上記事項を考慮して,申請をした者に公園施設の設置又は管理をする者としての能力及び適格性があると認める場合に限り,許可をすることができると解される(争点⑵bに関する控訴人の主張のとおり,この場合でも許可をすべき義務を負うものではない。)。そして,同条1項の許可に付した条件に違反している者に対し公園管理者が当該許可を取り消すことができることを定める法27条1項2号に照らせば,法は,法5条1項の許可の申請があった場合において,公園管理者が,法8条により法5条1項の許可に都市公園の管理のため条件を付する必要があると認めるときは,許可を受けようとする者にその条件を遵守する意思及び能力があることについて審査することを予定していると解されるのであり,条件を遵守する意思及び能力の存在も上記能力及び適格性の一要素であると解される。この点について,控訴人が,法5条2項は公園施設の設置・管理者が公園施設を設置・管理する能力及び適性を備えていることも当然に要求している旨,被控訴人が本件許可条件に違反して本件追悼碑前で政治的行事を行ったことからすれば本件追悼碑を設置・管理する能力及び適性を欠いている旨主張するのは,上記解釈に沿うものである。また,認定事実⑴ウからキまでのとおり,控訴人が,本件追悼碑の設置許可の申請前に,旧建てる会に対し,追悼碑の構造,碑文の内容,追悼碑の維持管理,設置場所の周辺環境についても善良な注意を払うべきこと等のほか,「宗教的・政治的行事及び管理は一切行わない」ことを含む11項目の条件を提示し(乙1),碑名及び碑文のほか,申請団体の名称,追悼碑の管理に当たる組織の会則の整備,施設撤去費の留保等についても助言を与えるなどして,追悼碑の設置を許可することができる状況を整えた上で,建てる会の本件追悼碑の設置許可の申請を受け,本件設置許可処分をしたことも,上記解釈に沿うものと認められる。
(2)被控訴人は,本件追悼碑の設置・管理の能力及び適性に関する控訴人の主張が時機に後れた攻撃防御方法に当たると主張する。しかし,控訴人が被控訴人に本件追悼碑を設置・管理する能力及び適性が欠けることを根拠付ける事実として主張するのは,被控訴人が本件許可条件に違反して本件追悼碑前で政治的行事を行ったという事実であり,これは,原審以来,争点⑵オ等に関し十分に主張立証がされてきたところである。また,法5条2項は公園施設の設置・管理者が公園施設を設置・管理する能力及び適性を備えていることも当然に要求している旨の控訴人の主張は,上記⑴に説示したとおり正当なものであって特異なものではない。そして,一般に,取消訴訟においては,別異に解すべき特別の理由のない限り,行政庁は当該処分の効力を維持するための一切の法律上及び事実上の根拠を主張することが許されるものと解すべきところ(最高裁判所昭和53年9月19日第三小法廷判決・裁判集民事125号69頁参照),本件においては,上記特別の理由があるものとは認められず,控訴人が,本件更新不許可処分の理由の一つとして,被控訴人に本件追悼碑を設置・管理する能力及び適性が欠けていることを追加して主張することは許されるというべきである。被控訴人は,控訴人は被控訴人の管理能力や適性について第一次的判断をしていないから,上記のような主張(理由)の追加は許されない旨主張するが,控訴人が法2条2項の「公園施設」該当性及び法5条2項の許可要件の具備について第一次的判断をして本件更新不許可処分をしたことは明らかであり,法5条2項の許可要件の範囲内で主張(理由)の追加をすることは許されるというべきであるから,被控訴人の主張を採用することはできない。
 そうすると,本件通知書において,被控訴人に本件追悼碑を設置・管理する能力及び適性が欠けることが本件更新不許可処分の理由として明示されておらず,F及びE副知事の供述(乙18,19,証人F,証人E)中にも,法5条2項の許可要件の一つとして被控訴人の本件追悼碑の設置・管理の能力及び適性の有無を審査したという趣旨の部分が見当たらないという事情を考慮しても,被控訴人に対し,更なる主張立証の機会を与える必要があるとは認められないから,本件追悼碑の設置・管理の能力及び適性に関する控訴人の追加主張を許すことにより,訴訟の完結を遅延させることとなるとは認められない。
 したがって,被控訴人の行政事件訴訟法7条,民事訴訟法297条本文,157条1項の申立ては却下することとする。
(3)被控訴人は,本件追悼碑の設置・管理の能力及び適性に関する控訴人の追加主張は著しい不意打ちであり,訴訟上の信義則に違反し許されないとも主張する。しかし,上記⑵に説示したところからすれば,控訴人の追加主張が,訴訟法上の信義則に違反し許されないと解すべき理由はない。
(4)⑷ 被控訴人は,控訴人には,本件更新不許可処分をするに際し,事実関係及びそれに適用される法律上の見解について公正かつ慎重に調査検討すべき義務があり,その義務に重大な違反がある場合には,本件更新不許可処分の取消事由になる旨主張する。しかし,認定事実⑸に認定した本件更新不許可処分に至る経緯からすれば,控訴人は事実関係について公正かつ慎重に調査検討をしたというべきであり,法2条2項の「公園施設」該当性及び法5条2項の許可要件の具備についての判断に裁量権の逸脱濫用があったとも認められない。そうすると,仮に,被控訴人が主張するような義務を控訴人が負うものとしても,当審において被控訴人に本件追悼碑を設置・管理する能力及び適性が欠けていることを追加して主張したことをもって,控訴人に本件更新不許可処分を取り消さなければならないような重大な義務違反があったと評価する余地はないというべきである。
(5)そこで,前記⑴の解釈に従い検討すると,原判決の「事実及び理由」第3の7(付加訂正後のもの)に説示するとおり,平成17年4月23日,平成18年4月22日及び平成24年4月21日各開催の追悼式はいずれも政治的行事に該当するものであって,これらを開催した被控訴人は本件許可条件に違反したものというべきであり,本件許可条件が付された経緯にも照らして考えれば,被控訴人に本件許可条件を遵守する意思又は能力があるとは認め難く,法5条2項の許可要件を満たさないというべきである。
 したがって,本件更新不許可処分に裁量権の逸脱濫用の違法があったということはできない。
 被控訴人は,公園施設の設置及び管理の能力に関し,被控訴人に本件追悼碑及びその敷地の清掃と本件追悼碑の倒壊や破損等の危険等に対する安全点検の能力がある旨主張するが,前記⑴に説示したところからすれば,このような能力の存在は,許可の必要条件ではあっても十分条件ではないというべ
きである。また,被控訴人は,本件追悼碑の前で追悼式などの集会を開くことは,公園管理者である控訴人の許可を得れば被控訴人でなくとも可能であり,許可がなければ,被控訴人であっても集会を開けないのであるから,本件追悼碑の管理には含まれない旨主張するが,本件追悼碑の維持管理のために結成され,これを目的とする被控訴人の会則(甲3)において,その任務及び事業として,本件追悼碑を常に美しく保存し,維持管理補修を行うことに加え,年1回以上の追悼行事を行うこと等も掲げられており(2条),被控訴人は追悼式を本件追悼碑の維持管理と密接不可分のものと位置付けているものと認められ,現に追悼式を主催したのであるから,被控訴人の上記主張を採用することはできない。
 なお,控訴人が,本件更新申請前に,被控訴人に対し,本件追悼碑前の追悼式における発言について具体的に指導したことがあったとは認められず,また,控訴人は,平成24年5月頃に同月15日付けの朝鮮新報の記事を確認した後も平成25年10月頃までその余の記事の確認をすることもなかったものであるが,このような事情は,本件更新不許可処分時における被控訴人の本件追悼碑の設置・管理の能力及び適性の有無に関する判断を左右しないというべきである。
(6)以上のほか,本件追悼碑が法2条2項の「公園施設」に該当するものではないことからすれば,本件追悼碑が法5条2項各号に該当する余地はないから,本件更新不許可処分中,この点の判断についても,裁量権の逸脱濫用の違法はないというべきである。

8 争点(2)キ及び当審における争点(2)アの補充主張について

(1)被控訴人は,本件追悼碑の設置期間の更新に対する合理的な期待や利益があったとして,群馬県知事は,被控訴人に対し,本件更新不許可処分をせずに,将来に向けての指導や一定期間について更新を認めるなどの配慮をすべき義務があった旨主張する。
 しかし,被控訴人は,認定事実⑴エ及びオのとおり,控訴人の助言を踏まえて,原状回復のために必要な資金として50万円を留保しており,更新許可を受けられない事態を想定していたと認められるし,原判決の「事実及び理由」第3の3に説示した法5条3項の趣旨からすれば,本件追悼碑が法2条2項の「公園施設」に該当せず,法5条2項の許可要件を満たさないと認められる場合に,控訴人において,設置期間の更新に対する被控訴人の期待や利益に配慮し,被控訴人に対し,将来に向けての指導や一定期間について更新を認めるなどの義務があったと解することはできず,被控訴人の上記主張を採用することはできない。
 なお,本件更新不許可処分により本件公園の公園施設としての設置が認められないとしても,本件追悼碑を他の場所に移転することは可能であり,本件公園に設置されるのと全く同一の態様であるとまではいえないとしても,その建立の趣旨を活かすことができるものというべきである。
(2)また,被控訴人は,①本件追悼碑は,碑文に労務動員による犠牲者に哀悼の意を示し,それへの反省及び日韓・日朝の友好を推進していくという内容が刻まれており,表現活動としての実体があるが,国家は,自ら設定した表現活動の場から恣意的に表現活動を追い出したり,拒否したりすることは許されない,②本件追悼碑は創造的な彫刻であり,有形文化財としても評価し得るものであるところ,控訴人の文化基本条例によれば,控訴人が,本件追悼碑の設置期間の更新について,その表現内容を理由に不利益処分を行うことは許されない,③歴史と文化を基調とする本件公園の管理者である控訴人は,設置許可を受けた本件追悼碑に対し不当な差別的取扱いをすることは許されない,④本件追悼碑は,建てる会が570万円の費用を投じて設置したもので,過去の事実を後世に残すために相当長期の設置が見込まれていること,被控訴人は,本件追悼碑の前での追悼式における発言について指導を受けたことがないこと,法5条3項が定める期間の更新は,これを拒否すべき特別な理由がない限り認めるべきものとされていることからすると,被控訴人は設置期間の更新について合理的期待を有しており,かつ,その期待は法的保護に値する人格的利益に当たるとして,上記①~④の事情によれば,控訴人は本件追悼碑の設置期間を更新すべき義務があると主張する。
 しかし,既に述べたとおり,本件追悼碑を管理する団体である被控訴人が,繰り返し本件追悼碑の前で政治的行事を行うという本件許可条件に違反する行為をしたことにより,本件追悼碑が,中立的な性格を失うとともに,政治的争点に係る一方の主義主張と密接に関係する存在となり,しかも,本件追悼碑を巡って街宣活動等が活発化したことから,群馬県知事は,本件追悼碑が本件公園の効用を全うする機能を喪失し,公園施設に該当しなくなったものと判断して本件更新不許可処分をしたものである。そうすると,群馬県知事が判断の根拠とした上記の事情は法5条3項が定める期間の更新を拒否すべき十分な理由に当たるということができるのであり,たとえ本件追悼碑の碑文に労務動員による犠牲者に哀悼の意を示し,それへの反省及び日韓・日朝の友好を推進していくという内容が刻まれており,その彫刻としての価値が高く,被控訴人が本件追悼碑の設置の更新について合理的期待や法的保護に値する利益を有していたなど被控訴人主張に係る事情があるとしても(なお,旧建てる会の後継組織である被控訴人が,追悼式において「強制連行」という用語を使用した発言があった場合には,当該追悼式が本件許可条件にいう「政治的行事」に該当し得ることを認識していたと認められることは,前記4の当審における補充主張に対する判断⑵で説示したとおりである。),これらが群馬県知事による本件追悼碑の公園施設該当性の判断や本件更新不許可処分の当否に影響を与えるものということはできない。

9 争点(2)クについて

 被控訴人は,本件追悼碑前で政治集会が開催されなければ公園利用者の安全等が害される危険は生じないから,被控訴人に対し本件追悼碑前での追悼式を行わないように指導すれば足り,本件追悼碑を撤去する必要性はなく,本件更新不許可処分は本件許可条件の目的を達成するための手段として必要な限度を超えており,比例原則に反し違法である旨主張する。
 しかし,本件更新不許可処分は,本件許可条件の目的を達成するための手段としてされたものではなく,本件更新申請に対し,本件追悼碑が法2条2項の「公園施設」に該当せず,法5条2項の許可要件を満たさないという判断に基づきされたものである。そして,前記6に説示したとおり,この判断が被控訴人の本件許可条件違反(本件追悼碑前での追悼式における政治的発言)の事実のみならず,本件追悼碑自体が政治的な紛争の原因となっていることを考慮したものであることからすれば,被控訴人の上記主張を採用することはできない。

10 本件取消しの訴えについて(小括)

 以上のとおり,控訴人が,本件追悼碑は法2条2項の「公園施設」に該当せず,法5条2項の許可要件を満たさないと判断したことに違法はないから,効果裁量に関する争点⑵bについて判断するまでもなく,本件更新不許可処分は適法であり,本件取消しの訴えは理由がない。

11 本件義務付けの訴えについて

 本件義務付けの訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号に規定する義務付けの訴えであり,同法37条の3第1項各号に掲げる要件のいずれかに該当するときに限り提起することができるところ,本件においては,本件更新申請に対し本件更新不許可処分がされ,かつ,本件更新不許可処分は取り消されるべきものではないから,本件義務付けの訴えは,上記要件のいずれにも該当せず,不適法なものというべきである。

12 結論

 よって,本件更新不許可処分は適法であり,本件取消しの訴えは理由がないから,控訴人の本件控訴に基づいて,原判決中,本件更新不許可処分の取消しに係る請求認容部分を取り消した上,当該部分に係る請求を棄却すべきであり,これによれば,本件義務付けの訴えは不適法であるから,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法304条にかかわらず,原判決中,本件義務付けの訴えに係る請求棄却部分を取り消した上,本件義務付けの訴えを却下すべきであり,また,本件附帯控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。