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菅野完さんの田中角栄や大平正芳推しに思うこと

田中角栄内閣の総辞職後の自由民主党への影響力

田中角栄や大平正芳なんて高望みはせんけども、せめて梶山静六や野中広務が生きてたら、
「海洋放出やりました!」
「中国からアヤつけられました!」 「農林水産大臣が『想定外だった』って発言しました!」
ってアホな段取り、絶対許さんかったやろね。
自民党の統治能力が急激に劣化しとる。

@noiehoie

 自由民主党という非常に大きな組織の中では、時として個人の意思が組織を動かしていく局面があるものの、個人の力は非常に小さく、同じ意見を持つ者が力を合わせる派閥や議員の連合体によって組織を動かすのが通常です。例えば、福田赳夫内閣の時代に外交を中華民国から中華人民共和国へシフトして日中平和友好条約を締結しようとする動きがありましたが、中華人民共和国との国交正常化を成し遂げた田中角栄元総理大臣が内閣に対して影響力を発揮する局面はありませんでした。そればかりでなく、日中平和友好条約の締結を目指す福田赳夫総理大臣自身が岸信介元総理大臣、石井光次郎衆議院議長などの中華人民共和国より中華民国との外交を重視すべきであると考える自由民主党の長老への対応に追われていたのです。そして、日中平和友好条約交渉における田中角栄元総理大臣の存在感は、中華人民共和国の一行が田中角栄元総理大臣のもとを訪問したぐらいでした。

寝業がまったくできなかった大平正芳総理大臣

 大平正芳総理大臣は、総裁公選で福田赳夫総理大臣を破って総理大臣になりましたが、寝業のできない政権運営で混乱を招きました。
 当時の予算は、大蔵省が内閣の意向を受けてその承認のもと予算案を作成し、その予算案に野党が修正を求め、与党である自由民主党の党役員が野党と協議を行なって修正箇所を最小限におさめ、修正した予算案が国会で議決されるという流れを経て成立していました。
 大平正芳総理大臣は、大蔵省の官僚出身ということもあって、大蔵省が作成した予算案をそのまま成立させることにこだわって、野党ばかりでなく野党との協議をなした自由民主党の党役員からの不満も噴出させ、結果として当時としては初めての衆議院予算委員会における予算案否決という結果を招きました。
 その後、党勢拡大を狙ってなした衆議院解散後の総選挙において、一般消費税導入という増税を公約に加えて選挙に臨み、惨敗した三木武夫元総理大臣の議席数を1議席下回る結果となりました。その後の四十日抗争において、非主流派である中曽根康弘衆議院議員の福田赳夫元総理大臣をはじめとする実力者に進退を預けて実力者会談の結果大平正芳総理大臣の続投が決定されればそれを認めるという提案を「党の機関ではない」と蹴り、進退を預けるという寝業ができずに自由民主党の混乱を招きました。その後、ハプニング解散を経て心労が重なった大平正芳総理大臣は選挙期間中に帰らぬ人となっています。

菅野完さんに見る「ジョン・レノン症候群」

 昭和の終わりや平成の初期にジョン・レノンを大きく評価する発言をなす者の発言が大きかった印象を持っています。

「ジョン・レノンが生きていれば、この混乱した世の中でどのような楽曲を生み出したのだろうか」

などとその音楽活動における「if」を夢想するのはいいとしても、

「ジョン・レノンがいればもう少し戦争を防ぐことができたのではないか」

などにおいては失笑するしかありません。
 私はビートルズの時代からジョン・レノンの楽曲は好きで聴いていますが、音楽活動以外のジョン・レノンの言動は首を傾げるものが多いと感じています。その言動はジョン・レノン自身の一般人とは異なる感覚からもたらされたもので、その特別な感覚が人に訴えかける楽曲を生み出すものなのかもしれませんが、友人としてそのような人物がいたり、SNSでそのような人物が発信をなしていたりすると戸惑う方が多いのではないでしょうか。
 つまり、ジョン・レノンがあの事件で命を落とすことなく現在も生きていたとすれば、数多くの素晴らしい楽曲が生み出されていたかも知りませんが、英国や米国のタブロイド紙でそれ以上に話題を提供していたのではないでしょうか。そして、優れた才能よりも常識的な価値観が重視される政治の場面では、ジョン・レノンが影響力を与える余地はほとんどなかったでしょう。
 そのようなすでに亡くなっている者を過大評価する思考を私は「ジョン・レノン症候群」と勝手に呼んでいますが、菅野完さんの過去の政治家に対する評価が「ジョン・レノン症候群」の疑いのあるものが非常に多いように感じていますし、歴史的な評価としては凡庸な政治家にすぎなかった大平正芳元総理大臣や、政治的な才覚はそれなりにあったものの自身の金銭問題によってその活動の場が限られてしまった田中角栄元総理大臣を推して現在の政治家を批判する菅野完さんの立ち位置を見ると、彼もまた「ジョン・レノン症候群」となってしまったのかと感じざるを得ません。何よりも、現在において田中角栄元総理大臣や大平正芳元総理大臣がいたとすれば、田中角栄元総理大臣の金銭疑惑や大平正芳元総理大臣の政治家としての資質を厳しく批判する急先鋒に菅野完さんがいるのではないかという疑念を振り払うことができないのです。