見出し画像

「福岡市 教師によるいじめ」でっちあげ事件報道検証 5 ~週刊文春2003年10月9日号掲載西岡研介さんの記事~

「死に方教えたろか」と教え子を恫喝した史上最悪の「殺人教師」

ミッキーマウス」両耳を掴み体を持ち上げる。「ピノキオ」鼻をつまんで振り回す。こうした「刑」を生徒に執行していた悪魔のような教師。この教師にいじめ抜かれた九歳の児童は深刻なPTSDに陥り、飛び降り自殺さえ図った。母の涙の訴えに小誌記者は怒りに震えた-。

「この子には穢れた血が混じっているんですね」-。その男の言葉を聞いた瞬間ら母親はわが耳を疑ったという。
 男の名は「X(ここで男性教諭の実名が記載されています)」。ほんの三カ月前まで福岡市西区にある市立A小学校に勤務していた小学校教諭だ。
 X教諭は、熊本県出身の四十六歳。福岡市教育委員会などによると、民間会社勤務を経た、通信教育で教員免許を取得。一九九三年に福岡市に採用され、市内の別の小学校を経て、一九九八年からA校に勤務していたという。
 そのX教諭が、自らが担当する四年生の児童B君(9)の自宅を家庭訪問したのは今年五月十二日のことだった。B君の母親が重い口を開く。
「その日は『午後三時半に伺う』ということでしたが、先生は、家庭訪問を忘れていて、約束の時間から四時間も遅れて来たのです。『後日改めてお願いできませんか』とお願いしたのですが、『今日中に伺う』と強引に来られたのです」
 そしてB君宅を訪れたX教諭は、非礼を詫びるのもそこそこに、こう切り出した。
「B君って、"純粋"ではないんですよね」
 B君の母親によると、母方の曽祖父がアメリカ人で、その血を受け継ぐB君の顔立ちもはっきりしており、髪の毛も赤みがかっている。そしてB君はそれまで、自分の先祖を誇りにしていたという。
「それから家系の話をしつこく聞きだし、私の祖父がアメリカ人だと知ると、『血が混じっているんですね』と言い始めたんです」(B君の母親)
 その後もX教諭は母親を相手に延々と持論のアメリカ批判を展開したという。
「その言い方があまりに酷かったので、私が『それは差別ですか、学校では差別はいけないと教えているのではないんですか』と言うと、先生は『私も人間ですから』と開き直り、『建前上、差別はいけないことになっているが、私だけではなく、ほとんどの人が多少なり差別意識を持っている』などと言い始めたのです。
 さらには『日本は島国で純粋な血だったのに、外人が入り、穢れた血が混ざって、純粋な日本人が減っている』と外国人を差別する言葉を繰り返したんです」(同前)
 聞くに堪えない差別発言を交えたX教諭の"演説"は、その後三時間にわたって続き、X教諭がB君宅の「家庭訪問」を終えたのは、その日の午後十時半だったという。
 また、不幸なことに、家庭訪問のあいだ、別の部屋にいたB君が、たまたま教諭がいた今の近くを通りがかり、教諭の「穢れた」という言葉を聞いてしまったというのだ、
「Bは『穢れた』という言葉の意味が分からず、翌日、学校の図書館で調べたそうです。そしてその意味を知った後は、しきりに私に『僕の血は汚いと?皆と同じ赤いのに何で汚いと?』『顕微鏡で見たらわかると?うつらんと(伝染しないの)?』と聞いてくるようになったのです。私はBにそう聞かれる度に悲しく、やりきれない気持ちになりました」(同前)
 そして、その翌日から、X教諭の、差別意識に基づいた、B君に対する虐待が始まる。B君の同級生の保護者が今回、匿名を条件に証言してくれた。
「十三日の夕方、子供たちが皆、帰り支度をしている時のことです。X教諭がB君に『お前は十数える間に片付けろ』と言ったそうなんです。
 子供に聞いても、教室の後ろにあるランドセルを取り、机の中の文房具などを入れるのは、とても十秒では無理で、明らかに嫌がらせでした。
 さらにX先生は十秒以内に片付けができない場合は、自分が考え出した五つの『刑』からB君に選ばせ、体罰を加えていたそうです」
 この保護者の話によると、X教諭は、両耳を掴み、そのまま体を持ち上げることを『ミッキーマウス』、鼻をつまんで振り回すことを『ピノキオ』などと呼び、十数えるうちに片付けができない場合はそれらの『刑』を実行し、一連の行為を『10(テン)カウント」と名付けていたという。
「十秒で片付けられなかったB君が止む無く『ピノキオ』を選ぶと、X先生は鼻血が出るまで、B君の鼻を持って振り回し、そのおぞましい姿に他の子供たちもすっかり怯えていたそうです」(同前)
 この「10カウント」は、X教諭による虐待の事実が発覚する五月三十日まで毎日のように続けられたという。
「そしてX先生は、これらの『刑』をいつもニヤニヤ笑いながら実行していたらしく、その話を子供から聞いて、わたしもさすがにぞっとしました。
 しかもX先生はそれらの『刑』を実行するときに『恨むのなら、穢れた血を恨め』などと罵っていたそうなんです」(同前)
 一般に「体罰」は何らかの「罪」を犯した生徒、児童に対する罰として、身体的な苦痛を与えることと理解され、その是非には、賛美両論ある。
 が、前出の保護者の証言でも、B君の学校での行動には体罰に値するような「罪」は何一つ認められず、X教諭の行為は、もはや体罰以前の問題、まさに「教師による児童虐待」と言わざるを得ない。

ランドセルをゴミ箱に放り込む

 「それでもB君は一生懸命に早く片付けようとしていたそうです。するとX先生は『ズルしたな』と因縁をつけ、ゴミ箱の中にB君のランドセルの中のものをぶちまけ、ランドセルまでゴミ箱の中に放り込み、上から足で踏みつけて『五秒で片付けろ』とB君に命じたというのです。
 この話を子供から聞いて、これは教師による生徒に対する『いじめ』だと感じ、何度も学校に訴えようと思ったのですが、子供が"人質"に取られていることもあり、言い出せませんでした」(同前)
 X教諭から繰り出される「刑」で、B君は口の中や耳を切るだけでなく、歯を折り、右太ももに加療三週間を要する打撲傷を負うなど毎日、傷だらけになって帰ったという。
「最初、鼻血で服を汚して帰ってきたので、理由を尋ねると、『分からないけど、出た』とこたえたので、遊んでいて打ったのかなという程度にしか考えていませんでした。
 その後も、毎日のように口の中や耳を切って帰り、帰宅すると「頭が痛い』と訴えるので、その都度、問い質すのですが、はっきりと答えない。
 そして、五月二十八日、ランドセルの中があまりにも汚いので、さすがに叱って問い詰めたところ、初めて泣きながら『10カウント』のことを告白したんです」(B君の母親)
 その後、母親が、B君の同級生や保護者らから事情を聞いたところ、約二週間に及ぶ、X教諭の虐待の事実が発覚。
 しかし両親からの訴えで初めて事実関係を知ったA校校長らは、教諭から事情聴取を行ったが、両親が求めていたにもかかわらず、頑なに担任を替えようとはしなかった。
「両親の訴えで、虐待が明らかになった後も、先生はB君の机を蹴ったり叩いたりして脅かし続け、『お前には生きとる価値がなかけん、死ね』、『お前が生きとるとは、死に方知らんとや、教えたろうか』などと、とても教育者とは思えない暴言を吐き続けていたそうです』(前出の保護者)
 そして、六月九日、A校の校長らは、X教頭に授業中、「監視役」をつけるという異常な措置に踏み切る。
「しかしX先生はなんと、『監視』の目を盗み、B君に対し、殴るなどの暴行を続けていたという言うのです」(同前)
 A校からの報告を受けた福岡市教委は調査に乗りだし、X教諭は六月二十四日になってようやく担任を外れた。

ネズミ講まがいの”副業”被害も

「しかし、全てが遅すぎました。問題発覚後も、PTAの広報誌などに載ったX先生の写真などを見ると、興奮状態に陥り、私が抱きしめても、吐きながら、『絶対、仕返しに来る』と震えて、泣くんです。
 また、X先生が担任を外れた後も、胃痙攣や体の震え、嘔吐が止まらず、六月二十九日には、激しい腹痛を訴えたあと、発作を起こし、意識不明になったこともありました。
 一時は本当に血が『穢れている』と思い込み、マンション六階から飛び降りようとしたことさえあったんです。
 カウンセリングを受けている臨床心理士の先生には『恐怖とストレスが強い』と言われました」(B君の母親)
 そして今なお、B君は心理発達相談科の医師や、カウンセラーにかかっているが、担当医によると、『目を離すと自殺しかねない危険な状況が未だに続いており、虐待によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断した」という。
 X教諭が担任を外された二カ月後の八月二十二日、事件を調査していた福岡市教委は、全国で初めて「教師によるいじめ」の事実を認定。X教諭に対して懲戒処分を下した。ところが、その処分内容は驚くほど甘いものだった。地元の市教委担当記者が語る。
「処分は『停職六カ月』。つまりXは、来年二月末には復帰する。市教委は『直ちに教育現場に戻すわけではない』というが、二月末からは彼に我々の血税が払われるんです。
 また市教委幹部は『懲戒処分に次ぐ重い処分』などと胸を張っているが、本来、子供を守るべき教師が、子供をあれほどまでに虐待し、なぜ懲戒免職にならないのか。
 またXは、事件発覚直後のA校の内部調査に対して体罰の事実を認め、臨時保護者会でも『いじめだった』と認めていたにもかかわらず、市教委の調査には一転して否認を続けている。
 市教委はXを担任から外した後、『市教育センターで研修させ、今まで自分のやってきた事を振り返ってもらっている』などとヌルいことを言っているが、自分の罪も認めないような輩が一体、何を振り返り、何を反省するのか」
 この処分内容について、小誌も市教委を質したところ「保護者の証言を得、他の児童の聞き取りをしながら、事実認定を進めたが、確認ができない部分も多くあるので、懲戒免職ではなく、停職六カ月が相当と判断した」という。
 教師が児童を、自殺寸前に追い込むまで虐待した事実だけでは、懲戒処分には不十分とでもいうのだろうか。
 ならばもう一つ、この「X」という人物に、教育者としての資質がかけらもないという”証拠”をお見せしよう。
 なんとX教諭は教師という立場を利用して、保護者らを対象に”副業”を営んでいたというのだ。X教諭の「副業の被害にあった」というA校の保護者が証言する。
「X先生は二、三年前からダイエット食品などアメリカの商品を扱う『ネットワークビジネス』を始めたそうです。
 名目上はX先生の奥さんが販売していることになっているのですが、実際に保護者に薦めるのはX先生本人。ネットワークビジネスといっても、『子』を増やしていくネズミ講まがいのもので、X先生から勧誘された保護者は数えきれないほどです。
 またそのやり方が強引で、保護者に直接電話して勧誘したり、車で保護者を家まで迎えに行ってセミナーに送り届けたり、果ては子供に対し『君のお母さんは太っているので、このままだといつ死ぬか分からない。先生の薦めるダイエット食品を飲んだほうがいい』などという脅迫まがいの勧誘をしていたとも聞きます。
 これらのX先生の強引な勧誘にはさすがに保護者からも苦情が出て、A校の前校長、前教頭から何回も注意をされたにもかかわらず、止めようとはしませんでした。
 アメリカ人に対する差別意識を振りかざす輩が、その国の会社のネットワークビジネスに嵌っているとは笑止千万だが、この保護者の中には今も、五、六年生の保護者を中心に二十人近くの、X先生の「子」がいるという。
「X先生の問題が発覚した直後、一部の保護者の間で、X先生の職場復帰などを求める署名を市教委に提出しようという動きがあったのですが、呼びかけの中心メンバーがX先生の『子』の保護者だったんです」(前出・保護者)
 教師も教師なら保護者も保護者・・・。開いた口がふさがらないとはこのことだが、この件について福岡市教委は『ダイエット食品の販売は妻名義で行っており、妻の仕事を手伝っているだけで、自分は販売していない』と答えたため、(公務員の兼業を禁止する)地方公務員法には抵触しないと判断した」と答えた。
 しかしX教諭は、なんと『停職六カ月』の処分を受けた後も、ネットワークビジネスの「子」である保護者宅でダイエット食品のセミナーを行っているというから驚く。
「X先生が処分を受けた約二週間後の九月初めのことでした。A校近くのマンションの傍にX先生のマイカーが路上駐車してあったのを複数の保護者が見ています。
 それでX先生の『子』の保護者に聞いてみると、その日はこのマンションに住む『子』の自宅で『お茶会』名目でダイエット食品のセミナーが開かれたというのです。
 司会はなんと、X先生本人。これだけを見ても、X先生が全く反省していないことは明らか」(前出・保護者)
 一連の事実関係を質そうと、小誌記者がX教諭の自宅を訪れた九月十一日にも、「停職」中にもかかわらず、留守。翌日、改めて電話で取材を申し込むと、こちらが身分を明らかにするや、「お断りします」と一方的に電話を切った。
 さらにその翌日、外出先から帰ってきたX教諭は、自宅前で記者が待っている事に気付くと、突然、ギアをバックにいれて反転、その間、窓越しに記者が何を問い掛けても、薄ら笑いを浮かべて無視するという、とても「教育者」とは思えない態度で対応した。
 また文書でも再三申し込んだが、今日に至るまで、X教諭から何の回答もない。
 さらに二十三日には、X教諭が処分後の二十一日に「担任」を騙り、B君の同級生宅に電話。「Bがお宅のお子さんを一学期に七十回も叩いた」などとウソの中傷電話を入れていたことも判明した。
 このためB君の両親は、X教諭と福岡市を相手取り、損害賠償を求める民事訴訟を起こすことを決意。今後は法廷で、全国で初めての「教師による児童虐待」の全貌が明らかにされることになる。
 本来、子供にとって最も安全な場所であるはずの学校で、「教師」という権力者に虐待され、今もなおPTSDに苦しめられ、もはや生きる気力も失いつつあるB君。一方、そのB君を苛め抜いた男は、停職処分を受けたにもかかわらず、未だに「教師」の肩書を利用し、”副業”で私腹を肥やしている・・・。
 学校は一体、誰から何を守っているのだろうか。