「福岡市 教師によるいじめ」でっちあげ事件報道検証 6 ~週刊文春2003年10月30日号掲載西岡研介さんの記事~
史上最悪の「殺人教師」を擁護した史上最低のテレビ局
小誌十月九日号が報じた史上最悪の「殺人教師」ことX教諭(46)が遂に提訴された。壮絶ないじめを受け、今なお深刻なPTSDに苦しむ九歳の児童を励まそうと五百人以上の弁護士が原告代理人に名を連ねたが、対するX教諭は、福岡市教委が下した大甘処分すら不服として申し立てを行い、さらにはこの「殺人教師」を擁護するテレビ局まで出てきた。
その一つが、十月十三日に放映された日本テレビの「ザ・ワイド」。番組の中で。X教諭はカメラに背を向け、音声を変えて登場し、「『血が穢れている』とは言っていない」、「『死ね』という言葉は一切使っていない」などと釈明した。
事件発覚当初から、児童と両親の代理人を務める大谷辰雄弁護士は、X教諭の言い分をタレ流すテレビ局の姿勢にこう疑問を呈する。
「彼(X)の釈明を報じることも、『報道の自由』なのでしょうが、彼の言い分を公共の電波で流すのなら、なぜ同時に、これまでの彼の証言の移り変わりや、証言の信憑性を検証しないのか。それをせずに、彼が今何を話しているかを報じることに一体、何の意味があるのでしょうか」
福岡市教委はX教諭に対し、「停職六カ月」の処分を下したが、処分理由には次のような言動も含まれている。
《当初は事実と認めていた内容の多くを否定または変更し、関係者全般に混乱をもたらし、校務に支障を生じさせた》
つまりX教諭は「市教委公認の嘘つき教師」というわけだが、「ザ・ワイド」以上に関係者の気持ちを逆撫でしたのが、テレビ朝日の朝の看板番組「スーパーモーニング」だった。
十月十四日に放映された同番組に登場したX教諭は、自宅の居間らしき部屋で、リポーターのインタビューに応じているのだが、画面の片隅に、小誌十月九日号が報じた、「妻名義」で行っている「ネットワークビジネス」のダンボール箱がはっきりと映っていたのはお笑いだ。
インタビューの中でX教諭は「ザ・ワイド」に”出演”した時以上に自己弁護に終始。ミッキーマウスやピノキオなどの”刑”を「こんなことするよと『紹介』しただけ」とワケの分からない言い訳を展開した挙句、「(児童が)PTSDになるということ自体、本当に信じられない」とまで言い放った。
さらに同番組では、X教諭が五年前に事故で生徒を亡くした、などという今回の事件とは何ら関係ない、お涙ちょうだいのエピソードも挿入。
最後には変換された音声だけの「この教師を知る人」なる正体不明の人物が登場し「(X教諭の虐待は)考えにくい。体罰とかあるなら卒業生が、先生頼ってくるとか、人気があるようなことはないと思うんです」などとコメント。これでもかといわんばかりに、この史上最悪の「殺人教師」を擁護したのだ。
「万が一、児童がこの番組を目にしたら、彼がどれほど傷つくか、もしテレビ局に”良心”があるなら、あんな放送はできないと思うのですが・・・」(前出・大谷弁護士)
テレビ局に”良識”を求めるのは、八百屋で魚を求めるようなものなのか・・・番組の最後で「木内希」という女性リポーターは臆面もなくそう言い放ったのだ。
「学校の関係者によりますと体罰によって怪我をしたという児童が出たということが噂になったという事実が無いんです。これだけのことがあれば、児童間では話は広まるし、父母の耳に入るはずです。取材の範囲ではそういった事実は出てきてないんですよ」
事件発覚後の七月七日、小学校では、X教諭のクラス全員のうち、出席していた二十八人から聞き取り調査を実施。八割が「X教諭の体罰を見た」と告白し、六割が「差別的発言を聞いた」と証言している。さらに同校の教頭は児童の耳の怪我を確認しており、弁護団は、X教諭の虐待で折られた児童の歯の一部を証拠として保管している。
また福岡法務局人権擁護部第二課は、人権侵犯事件の疑いが強いとして、事件発覚直後から調査に着手。校長、X教諭両名から数回にわたる事情聴取を行っている。
木内リポーターは果たして、これらの「事実」を全て確認した上で、前述のような発言を行ったのだろうか。
X教諭の「反論」のタレ流しについて、日本テレビ、テレビ朝日に質した。
「当番組では二日間にわたり原告側、教育委員会、学校長の主張も十分に伝えており、当事者のインタビューを放送するのは客観報道として当然のことと考えている」(日本テレビ広報部)
「取材上のことでお答えはできませんが、引き続き取材を継続していくつもりです」(テレビ朝日広報部)
これらの回答にはさすがの大谷弁護士も怒りを隠さない。
「日テレは『客観報道として当然』というが、児童や両親がいつ、あなた方に『私たちの主張を報じてください』と頼んだのか。勝手に押しかけ、PTSDに苦しむ児童や、疲弊した両親を直接取材しようとするから、それを止めてもらう代わりに、代理人の私が取材を受けたに過ぎない。
テレ朝は取材というが、代理人の私にすら取材しないまま、あの番組を放映した。裁判準備が落ち着き次第、強く抗議するつもりです」
罪なき子供を自殺寸前まで追い詰めた挙げ句、今なおウソで塗り固めた証言で、自己を正当化しようとする教師と、その教師の「反論」をタレ流し、さらに児童や両親を追い込もうとするテレビ局。あなたがたには果たして、人間の良心というものがあるのか?