見出し画像

ボイスコミュニケーションを優先した「ピーキーな」スピーカー:Creative T60

全世界16億48000万人のスピーカー沼に浸っている皆様こんにちは。数字がおかしい? 知ってて書いてんのくらいわかれ! 香月です。

さて、いつぞやキャンペーンに応募していたらしい製品が完全に忘れた頃に到着したという事で、今回はそんなCreative製スピーカーこと「Creative T60」のご紹介。

PC用スピーカーは「だいたいなんでも使えるリスニング用」か「DTMで使うモニタースピーカー」だけ、だと思ってました

画像1

本製品の特徴を紹介する前にちょろっと。PC向けに使われるデスクサイズのスピーカーといえば、「音楽から映画までとりあえずなんでもござれ」的な2ch、もしくは2.1chの、いわゆる「リスニングスピーカー」が低価格~中価格帯、高価格帯になると少し味付けが変わって音楽用や映像用、ゲーム用等で枝が分かれる感じですが、それにしても全体的に「リスニング用」と言ってよい製品がほとんどでしょう。一方で作曲等のDTMをはじめ、「音楽や音をイジる」という方向性で「リファレンスモニター」というジャンルもあり、こちらは価格帯的には安価でも5000円程度、高いものは上を見ればキリが無いレベル、と言った具合に二極化しているという認識でした。私も元々はいわゆる「リスニング用」の2.1chスピーカーを使用した後、現在は「リファレンスモニター」に分類される「iLoud Micro Monitor」という製品。ステレオ2chタイプでかなり小柄ながら、4つのアンプで50Wの出力を持ち、かつ音の傾向的には「無駄な味付けが無い」という、作曲環境には充分に適したものを使用しています。

お値段は左右ペアで4万円ほどなのですが、私が使っているのはボディカラーがホワイトの「Special Edition」というバリエーション。モノは一緒で色だけ違うのですが、これが例によって不人気なのか、黒の通常モデルより1万円も安価に入手が可能です。

カラバリモデルの「Special」とつくタイプの製品、とかく「Specialなのに通常モデルより人気が出ない」という製品が多く、本製品も見事に該当。基本的にPC周りの機材は黒メインで揃えるのですが、スピーカーくらいは少し色気があっても良いかなと思ったのと、とにかく1万円もお値段が違うという事で白を選択。一通り音のテストをしたのですが、これがまた見事に素直な音で、余計な強調などが無いというリファレンスモニターらしい仕様。それでいて、本体背面にある簡易的なEQスイッチの切り替えで設置環境に応じた音の出方を調整出来るという事で、なんやかんやで普段遣いしています。せっかくのリファレンスモニターなので、USB接続のオーディオインターフェイスこと「QUAD-CAPTURE」をPCとUSBで接続、そこからRCA(赤白)ケーブルで繋いでいますが、QUAD-CAPTUREもスッキリとして原音に忠実な音を出してくれる特性な事もあり、相性はなかなかのもの。また、後ほどサイズ比較をしてみますが、50Wクラスのリファレンスモニターにしては驚異的に小型で、しかもその中に左右2つずつアンプを搭載している事もあり、音源や音量によってはサイズから想像もつかないような音を出してくれます。どデカイ音で低音から高音まで、割れることも歪むことも無く素直な出力。なかなかいい買い物でした。

……というわけで、私の中では上記の通り、PC向けスピーカーは大きく2種類である、という認識でいたのですが……今回のCreative製スピーカーは音を聴いてみるとちょっと違う様子でした。

サイズ感は「ごくごく一般的なPC向けスピーカーサイズ」、設置にはさほど難儀しなさそう

画像2

(USB-C対応なので、iPadProでも使用可……なのですが)

箱を開けてパッと製品を見た感じでは、いわゆるリスニングスピーカーの類だろうなと判断したのが今回の製品。机の上に置くにもほどよいサイズで、それでいながら最大60W出力となかなかパワフル。上の写真は12.9インチのiPadProと並べていますが、サイズ的には非常にちょうどよい感じです。オマケで14インチノートPCと並べたのがこちら。

画像3

(14インチのThinkPadE495と一緒に。狙ったかのようなサイズ感)

ノートPCと並べるといよいよサイズがぴったりで、もはやこれを狙ったとしか思えないようなサイズでした。で、実際にデスクトップPCと接続して、机上に配置したのがこちら。

画像4

(なんかディスプレイ斜めってるのは後から直しました)

ボディカラーが黒という事で圧迫感も無く、比較的コンパクトなので机上設置でも邪魔になりません。

ちなみに接続方式は複数あるのですが、いずれの場合にもACアダプタが必要となる為、裏側に伸びる配線は少し処理が必要です。音声ケーブル+ACアダプタ、もしくはUSB-Cケーブル(後述)+ACアダプタ、といった具合で、Type-CにおけるUSB-PDには非対応の様子。

サイズ感の比較として、先述した「iLoud Micro Monitor」と比較したのが以下です。

画像5

画像6

画像7

画像8

(MicroMonitorは前足を起こして上向きにした状態)

どちらもコンパクトではあるのですが、これがMicroMonitorだと50W、T60だと60W出せるスピーカーとはとても思えません。尚、写真の通りバスレフポートは背面に搭載、壁際に寄せて設置する際には、バスレフポートからの壁への反響には少し注意が必要かもしれません。いずれもニアフィールドタイプのスピーカーではありますが、MicroMonitorはすべての音が前面から出るのに対し、T60はバスレフポートから出る低音が一度後ろに出て、近接する壁などに反響して広がるスタイル。通常使用ならばともかく、低音を楽しみたい方は設置位置を若干前後させて、壁とのスペースを確保してみましょう。
(※ニアフィールドタイプ:要するに「リスナーから近い距離(≒ニアフィールド)で音を出すタイプのスピーカー。スピーカーの物理サイズや、ドライバー(丸いところ)のサイズが大きくなるにつれて、一般的に耳との距離を離して設置することになります)

近年のボイスコミュニケーションに最適化? そのまま使うと「とんでもないド高音」なCreative T60

画像9

(なにこのEQカーブ……)

さて、そんなわけでサクッと試してみました。T60はType-C経由のUSB接続で、内蔵DACが使用可能という事もあったので、PCとはType-Cで接続、M/B上のオーディオ機能を使わずにテストを行いました。

まずはイコライザー(EQ)を何も触らない状態で音を出してみたのですが、これがとんでもないド高音。たいていこの手のリスニングスピーカーはそれなりに低音が出るモンですが、さっぱり聞こえません。むしろ高音が耳に刺さって痛いレベル。テストでプレイしたのが「ファンタシースターオンライン2 NGS」というゲームタイトルで、元々いろいろなアクション時に「シュバッ!」のような鋭い高音が発生する場面が多いタイトルなのですが、もう大変です。とてもプレイしていられませんでした。

画像10

(私が「とりあえず」で設定する事の多い、映画向けプリセットEQ)

ということであまりにあんまりな音だった為、速攻でEQを設定。とりあえずプリセットで私が一般的なスピーカーやヘッドフォンで使用する頻度の高い、映画向け「ムービー」プリセットを選んだEQカーブがこちら。低音域が強化されつつ、低~中音域で一度絞って、以降は波打ちながら高め、といったカーブでしたが、これでもダメでした。まだフラットよりは多少低音がマシになったとはいえ、やっぱり高音がキツい。とにかく高音がキツい。何度でも言いますが高音がキツい。フラットの状態でアレだったので、これはもうハード(スピーカー本体そのもの)の特性であると判断するしか無いのですが、なんとかEQで改善しないものかと散々弄り倒した結果がこちら。

画像11

(なにこのEQカーブ:再)

「頭おかしいんじゃないの?」と言われても文句が言えないレベルのカーブになりました。というより、もはや「カーブ」じゃないです。「坂」です。低音域をほぼ限界まで引っ張り上げて、中音域は多少残しつつ、とにかくキツすぎた高音域を徹底的に絞った設定。最終的に一番「これなら普通に使える」という音になったのがこのEQ設定で、いままでサッパリ聞こえなかった低音も、ようやくバスレフポートが仕事を思い出したようでしっかり響きつつ、あまりにキツすぎた高音もおとなしくなっており、全体的にバランスの取れた音になりました。「EQみたらどう考えてもド低音なのにバランスが良い」という42みたいな理解に苦しむ回答を得たわけですが、このあたりまで調整してあげると、60Wという大出力や比較的小型なボディによる配置の自由度が活きてきます。基本的にスピーカーは正三角形(左右間隔、及び左右から人間の耳への距離)で配置する事がもっとも望ましいので、その配置を取ることも楽ちん。多少上向きに角度がついているので、ドライバーからの音も極端な環境ではない限り綺麗に耳に届いてくれます。

さて、この強烈に極端な音の特性ですが、本製品では「ボイスコミュニケーション」、要するにボイスチャットをかなり意識した製品となっており、それ故に「人間の声が聞き取りやすい」という特性を狙った結果、このようになったものと思います。これまた一般論ではありますが、基本的に人間の声は低音域が弱く中高音に寄っている傾向にあり、また低音域は人間の声「以外」の音でノイズになってしまう事が多いこともあり、あえて低音をバッサリ切って中高音に振ったのだろうと判断しています。どれだけ声が低い男性でも、意外と周波数帯で見るとそこまで低くなかったりはします。少なくとも楽器で言うエレキベースやバスドラム、極低音のシンセのような低音で喋る人間はそう多くはありません。

実際、今回のキャンペーンに関するリーフレットが製品に同梱されていたのですが、その「ボイスコミュニケーション」の点もかなり強調された内容になっていました。テレワークだなんだと通話会議の頻度が多くなった事もあり、そういった層に対するアピールを行いたい製品である事は間違いないのですが……というわけで次の項目。

接続形態は多岐に渡るも、「設定を変えずに普段遣い出来るか?」という点では疑問符

画像12

(ボイスコミュニケーションのテスト用にと同梱されていたイヤホンマイク。性能はお察し)

本製品は前面部にイヤホンやマイク等の接続端子が搭載されており、USB接続したスピーカーにこうしたイヤホンマイクの類を接続することで、PC上ユーティリティで設定可能になるノイズキャンセリングなどを使い、快適なボイスコミュニケーションが行える、というのがウリの一つになっていました。ノイズキャンセリングの効果はそこそこといった感じで、よほど大きな騒音が起きなければ会話に支障が出るようなノイズ混入は無く、たしかに快適でした。

一方、本製品から「音を出す」方向での接続に関しては、先の通りオーディオケーブル、USB接続内蔵DAC使用、Bluetooth接続とバリエーション豊富で、自由度の高い接続が行える事は確かです。Bluetooth接続バージョンは5.0とほぼ現時点での最新バージョンとなっており、音質もなかなか良好。USB-C接続が可能という事で、スマートフォンやiPadの一部のような、外部入出力にType-Cが使用可能なデバイスにも直結させる事が出来ます。

ただ、EQを通さない接続方法で使用した場合には先に出た「ド高音」の状態になるほか、BluetoothではaptX等に対応しておらず、映像系のコンテンツで使用した場合には明確に遅延が判別出来ます。当然ながらリズムゲームなんてもってのほか。そういった意味では、「器用貧乏」というか、「とりあえず繋げられるけれどまぁ色々とそれなり」といった感じの製品になってしまっている感が拭いきれません。

総評:「仕事で使う」と割り切って使うならアリといえばアリ、「多用途で使い回す」にはかなりキツいか

画像13

(素性は悪くない……と言えない、もうひと押しが欲しかった製品)

そんなワケでざっくりレビューをしてきた本製品ですが、最初は作曲向けに使うようなリファレンスモニターである「iLoud MicroMonitor」と比較することそのものが、本製品にとって不利な比較にならないだろうか、と心配していたものの、蓋を開けてみると「それどころじゃねぇよ!」という強烈な味付けの本製品、かなり用途が限定されるか、使用用途に応じてEQの設定を変更する必要があるなど、かなりクセの強い製品でした。念の為オーディオケーブルでの接続でもテストを行いましたが、こちらの場合はその出元(M/Bオーディオインターフェイスなり、別接続のDACなり)で調整することになるので、結局は同じということにはなるのですが、アプリ設定等が行えない環境(Bluetooth等)で使用するにはかなり覚悟が必要になりそうです。

ボイスコミュニケーションに重点を置いているという点では、音の性格は決して悪くなく、声を聞き取りやすいという設計はよく考えられています。故に、テレワーク等で「会議に使う用のノートPC」などを一台置いてあるような環境であれば、設定を多少調整するか、最悪無調整のフラットでも非常に使いやすいでしょう。

一方で、一台のPCで複数の事を行う、要するに「オンライン会議もするし音楽も聴くしゲームも遊ぶし動画も見るし」といった多用途で使用するには、少し敷居の高い製品ではないかなという印象があります。EQにプロファイルが個別に存在しているわけでもなく、起動したソフトウェアに合わせたEQ割り当てをしてくれるわけでも無いので、どうしても気になる場合にはすべて手作業で設定を打ち直すことになります。

ド低音、ド高音のような「ピーキー」な設定に関しては、単純に好みの問題だけでなく、「いくら低音が(高音が)好きでも流石にこれは……」となりうる部分でもあります。また、用途特化型の製品ではその点がより顕著になり、とにもかくにも使い勝手に直結して影響してきます。

何度も書いているように、ボイスコミュニケーション、つまりは「人間の声を聴く」という点においては、本製品は非常に優秀です。下手なヘッドセットを使うくらいなら、本製品で聞いたほうが楽に聞こえる、言ってしまえば「眼の前で普通に会話している」のと同じレベルで聴くことが出来ます。メーカーのCreativeがウリにしているだけの事はある性格の製品です。一方で上記のような弊害が出てしまっている点もあり、それゆえ本製品に「SoundBlaster」のブランド名がつかなかった(ユーティリティやDACの使用技術としての表記はアリ)理由なのかもしれません。「SoundBlaster」のブランド名がつく製品群では、大抵の場合「どんな場面でもソツなくこなす」という性格が多く、映画でも音楽でも通話音声でもどんと来い、的な部分があるのですが、本製品ではそれをあえてせず、ビジネス用途に振った、ということでしょう。

とはいえ、最大出力60Wという高出力が可能な製品で、EQ調整でかなり化けるものであった為に、この点は残念だったかな、と判断せざるを得ない印象です。EQ設定周りがすべてソフトウェア制御な為、スピーカー側にハードウェアスイッチを設けて「低音・高音強調」等がハードウェアで行えるような設計であれば、あるいはもっと大化けした製品だったことでしょう。マイナーアップデートか新製品か、いずれかの際にそういったアップデートが施される事を期待するばかりです。

改めてCreative製スピーカーのラインナップを見てみると、「SoundBlaster」のブランドを冠している製品が非常に少なかったことに驚きました。「GigaWorks」シリーズでもゲーム用途に最適化しているので、この付近を狙ってみるのもアリかもしれません。ちなみに私はDTMを始めるまでは徹底してCreative製品のサウンドボードを追加装備して音を出していたくらいにはCreative信者でした。今でも決して嫌いになったわけではなく、かなり好みの音を出してくれるメーカーです。