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【寄稿】オンラインDJライブ時代のフロンティア:「VRDJ」とは

※本記事は「DJ&VJ Advent Calendar 2020」向けの寄稿記事です。

2020年も残り31680分となりました。今年は初頭から例のアイツの影響が甚大で、ことクラブイベント・ライブイベントは「ヤバいかも」どころかほぼど真ん中の当事者になってしまい、クラブ好きやライブ好きの皆さんは出演者だろうがオーディエンスだろうが辛い年になってしまいました。年があければ収束してくれる、という甘い希望的観測も持てない中、それでも様々な形でこうした文化を途絶えさせぬよう、これまた様々な形で苦心なさっています。

そんな中だからこそなのか、オンラインの動画配信サイトでの「DJ配信」というスタイルが一気に広がり、日本はもちろん世界中で様々なDJが、或いはバンドマン達がデジタルの魔法を駆使して新しい挑戦に飛び込んでいます。私としてはやっぱりリアルなクラブのリアルな音を全身に浴びるようなあの雰囲気が好きなので、また何の心配もなくギャーギャー騒ぎながら音楽に浸れる日が一日も早く来ることを祈っています。とかなんとか言いながら、せっかくの機会だしという事で新しいスタイルにもチャレンジしてみよう、という事で始めてみたのが、今回の主題たる「VRDJ」でした。今回はそんなVRDJの裏側をザックリとお話してみようと思います。

「VRDJ」って何?

そもそも何なのさ、って話なのですが、以前よりYoutubeを中心に、「Vtuber」というジャンルが確立していました。2016年頃、「キズナアイ」が活動開始して以来、どうやら日本発祥のネットミーム的な形で広がり始めた「リアルの姿を映すのではなく、2Dや3Dの『アバター』を動かしてトークやゲーム実況などをする」というジャンルはどんどんと拡散し、日本だけでなく世界にも進出していった事は、Vtuberファンで無いにせよ耳にしたり目にしたりした事はあるかもしれません。思いっきり大雑把に言うと、そんな「Vtuber」のスタイルでDJプレイを配信する、というのが「VRDJ」だと考えて頂ければだいたい合っています。

多少厳密な所を言えば、「VR」としては例のでっかいゴーグルみたいなの(HMD)を被って、まるで自分自身がそこにいるような仮想の世界に入って……という感じなので、Youtubeで(スマートフォンや普通のPCを使って)視聴したり配信したり、というのはちょっとだけ「VR」の語義から外れている感じもします。他にそう呼んでいる方がいるかどうかはわかりませんが、そんな事もあって私は「アバターDJ」と呼ぶことが多い感じです。収録なりライブなりでVRの機材を使ったりする事は確かにあるものの、実際にVRの世界で「出演者もオーディエンスもVR空間に入る」というものもあるので、という理由なのですが、まぁこの辺は言葉遊び的な感じです。本記事では主に「アバターDJ」と記す事にしますが、基本的には同じようなものと考えていただいて構いません。要するに「DJプレイを披露するVtuber」のことです。百聞は一見に如かず。とりあえずこちらを御覧ください。

全部ぶっ通しで見なくとも、飛ばし飛ばしで見て頂く感じで構いません。このように「バーチャルな姿(アバター)とバーチャルなハコでライブ、もしくは収録したDJプレイ」が、いわゆる「アバターDJ」です。

VRDJ・アバターDJの先駆者:DJ SHARPNEL氏

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アバターDJを語る上で欠かせないのが、このスタイルでのDJ活動を率先して行ったDJ SHARPNEL氏。氏のプロフィールにはこんな一文が。

2017年4月に現実世界での活動を終了し、SHARPNELSOUNDごと活動仮想化。現在は活動拠点をVR上に移し、VR内でDJ・ライブ活動中。
--DJ SHARPNEL
https://www.sharpnel.com/artists/dj-sharpnel

あまり深く掘り下げるとそれだけで軽く本が書けそうなレベルになりそうなのでサラッと触れておくと、ハードコア主軸のDJにしてトラックメイカーであった氏が、新しい演出スタイルとして音楽系同人即売会で簡易VRゴーグルを使用してたり、その後「現実世界での活動を終了」というなんともインパクトのあるフレーズの通り、バーチャルな世界へDJ活動の拠点を移動したという流れで、配信で世界中のDJを繋ぐイベントでも、様々なDJが「リアルな姿とDJプレイをカメラで映す」というプレイをする中、上に載せたようなカッコ可愛い系女の子DJの姿で登場、チャット欄が大爆発なんて様子も見られました。

かくいう私もこのようなアバターDJをするにあたって、実は氏に直接メールをお送りし、どのような環境でプレイをされているのかご教示頂きました。突然の連絡にも関わらず丁寧に返答してくださった事には感謝するに尽きるのですが、その後電子書籍の形でマニュアルのような本を発行なさっています。

ぶっちゃけた話、こんな記事を読むくらいならこの本買って読んだほうがあらゆる意味で手っ取り早いのですが、今回は多少の機材や技術的な部分に触れつつも、「リアルのフロアやブースと違う演出」について、私なりの解釈を紹介していこうかなと思います。

アバターDJ時の使用機材・収録環境

さて、ここからは私の所で実際に使用している機材や環境について紹介した後、どんな流れでプレイを行っているかをこれまたご紹介。

使用機材:ハードウェア
HTC Viveフルセット
Valve Index コントローラ(単体販売)
Viveトラッカー2018 1個
アクションカメラ用カメラ固定キット(要加工)
PioneerDJ DDJ-1000 PCDJコントローラ
・rekordbox動作用ノートPC
・モーションキャプチャ・配信用デスクトップPC
BEHRINGER オーディオインターフェイス UCA222

使用環境:ソフトウェア
・rekordbox DJ(プレイ専用ノートPC)
・VirtualMotionCapture(VMC:モーションキャプチャ・配信用PC)
・Unity(配信用PC側、「バーチャルのハコ」を作って動かす為)
・OBS(配信用PC側、最終の映像キャプチャ、配信用)

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(配信用環境一式をまとめたデスク全景)

上記した他に、ライブ中の出音やチャット確認用、場合によりシーンスイッチを行う為ににタブレット端末を1~2台追加で設置しています。「Viveフルセット」と掲載しましたが、実はVive本体のHMDは使用していません。本来であれば頭のトラッキングはHMDで行うのですが、今回は別ツールとなるVMCを使用してトラッカーで頭の動きを取っている為、HMDは「繋いであるだけ」の状態です。使っていないなら外したい所なのですが、HMDが繋がっていないとVRシステムが正常に動作しなかったり、コントローラの受信元(レシーバ)がHMDに内蔵されている事もあり、実際のプレイ時には邪魔にならない所に置いてあります。

前掲した環境は「VMCでキャプチャした身体の動きをUnityに飛ばしてアバターを動かす」という環境で、このような使用方法の場合には有料版(PixivFanboxでの「支援」の形で入手)が必要になります。無料版の場合はUnityへの連動が行えず、VMC単体のウィンドウ内でモーションキャプチャした結果がアバターに反映されます。

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(ヘッドバンドを小加工して取り付けたViveトラッカー)

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(Viveトラッカーの装着イメージ ※借り物からの合成)

先の通り、頭の動きはHMDではなくトラッカーで行う為、トラッカーを頭に固定する必要が出てきます。トラッカーの底面には1/4スレッド、いわゆる「普通のカメラ固定用ネジ穴」が空いているので、ちょうどおでこ側にトラッカーを固定できれば何を使っても問題はありません。前掲したアクションカメラ向けキットの場合は1/4スレッドではなく、GoPro準拠のネジサイズを使用しているものも多いため、最初から「トラッカーを頭につける」という想定で作られたベルトを購入するのもひとつです。少々お値段はしてしまいますが。また、センサーで身体の動きをトラッキングするという仕組み上、アバターDJの時は「普通のDJ」の時よりもアクションを大きく取る必要があるので、ある程度しっかり固定されて、プレイ中にズレる事が無いようなバンドを選択しましょう。「ズレ」ではなく「ブレ」に関しては、最終的に見た時に(極端でなければ)曲にノッているようなトラッキング結果になる事が多いので、とにかく「ズレない」事を最優先に。

ちなみにこのバンドをつけてDJをする際、ヘッドフォンは問題なく使用可能です。トラッカー自体がおでこ側にある為、ヘッドフォンのバンドが当たらないようにさえ気をつけてあげれば、普段どおりヘッドフォンでCUEモニターを取る事が出来ます。もっとも、イヤフォンを使ってあげたほうが色々邪魔にならないのは言うまでもありません。

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(Valve Indexコントローラ。BS1.0/2.0両対応である他、単品購入可能)

コントローラはVive付属のもの(ワンドコントローラ)でも全く問題ないのですが、Indexコントローラに置き換えると指の動きを細かく表現出来るようになります。また、手の甲部分に固定するバンドがある為、コントローラを持ったままDJデッキのツマミやフェーダを操作したり、両手を広げた状態でアクションをしても、そのままアバターへ動きが反映されるようになります。特にデッキ操作時の動きは「なんかDJやってるっぽい」感が出せるのでオススメ。Vive付属のワンドコントローラはサイズがかなり大きいため、仮にテープか何かで手に固定しても、DJデッキの操作が行えない為、以前ワンドコントローラを使用していた際は「デッキ操作時はミキサー部分にワンドコントローラを置いて、さもミキサーをいじっている」ような雰囲気でプレイしていました。参考までにその時の動画がこちら。

(下を向いて両手が中央付近に隠れるようになってる部分がデッキ操作時)

この動画を収録した当時は手元が見えない状態だったので、ある意味それほど問題も無かった頃でした。その後、Indexコントローラに持ち替えてデッキ上の手の動きまで見せるようになった時に、ちょっとした問題が発生。

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(4chあるミキサーの内側、1/2番を使用した場合の手元)

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(同・外側の3/4番を使用した場合の手元)

このように、内側の1/2番を使用した際、コントローラ自体の大きさも相まって、操作中にコントローラがぶつかって支障が出る状態に。4chタイプでなくとも、DDJ-400のような小型の2chタイプだと同様の問題が発生するので、ここは慣れの世界になります。4chタイプで外側が使える場合には、2枚めの写真のように外側3/4番を使ってあげると、DDJ-1000でギリギリなんとか「コントローラがかする程度」まで余裕が出来るので、4chコントローラをお持ちの方はこちらを試してみると良いかなと思います。

(手元が完全に映ってるパターン。実際にもほぼ同じ動きでプレイ中)

「これから機材を導入する」という方であれば、アバターDJに限って言えば「Valve Index」がもっともオススメ出来るセットになります。HMDの映像がキレイになっている分、PCへの負荷は大きくなりますが、ベースステーションも新型になっており、かつ最初から指認識の可能なコントローラが付属しています。追加でトラッカーを使用することも可能なので、全体的な性能も相まって一度買えばそこそこ長く使える製品です。「とりあえず安価に!」という事であれば中古で初代Viveを導入するのも手ですが、部屋の角に設置するベースステーションが実は結構繊細な機材で、これが故障する可能性が高いため、積極的にオススメはしません。

お金も手間もなるべくかけずにアバターDJをしたい

「贅沢言うんじゃありません!」というツッコミはさておいて、せっかく機材を導入したなら、まずはやってみたいですよね。そんなわけで、とりあえず手っ取り早くアバタープレイが可能な「Vカツ」を使用したアバターDJの環境をザックリ紹介します。こちらでは(外部ツールを導入しない限りは)トラッカーで頭の動きを取る事が出来ない為、HMDを使用する事にはなります。また、モーションキャプチャ、及び配信用PCに関してはVRシステムが問題なく動作する「VRReady」環境である前提になります。

必要なソフトウェア・データ類:
・OBS(各種データの合成、音声入力、配信)
・DJブース画像(画面の縦1/3程度を目安に)
・Vカツ(アバター作成後、VRモードでグリーンバック化)
・背景画像・動画(黒背景や壁紙的なテクスチャパターン等)
 →※オプション:ミュージックビジュアライザ(音楽を拾って自動で映像を生成するツール。使いやすさ的にはVSXu等)

こんな所です。準備するもの自体はそこまで多くはありません。これらをOBSの中でそれぞれ並べていきます。例としては以下。

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(Vカツを使用したアバターDJ時の各構成)

OBS自体がレイヤー機能を持っている為、それらを上手に使って配置を行います。最終的な絵面を想像しつつ、手前から奥へ並べる順番を決めていきます。画像ではさらにブースの中央や左右に動画が入っていますが、これに関しても同様。サイズや比率調整も全てOBSで行うので、必要となるソフトウェアが最小限に抑えられるのがメリットです。

ブースサイズ、特に高さに関してはアバターとの兼ね合いにもなりますが、先述した「ワンドコントローラでデッキ操作時にコントローラを置く」事を想定するのであれば、まっすぐコントローラを置いた時に肘くらいまで隠れるような高さにしたり、セパレータを作ってあげると良いと思います。私のパターンではブースの中央部分にのみセパレータを追加して、手元が完全に隠れるようにしました。なおこれらに関しては3Dモデルではなく、全て2Dの「画像データ」として用意します。多少画像編集に慣れている方なら、割とポンと作れるくらいにはザックリしたもので構いません。

さて、もっとも問題になるHMDの装着方法ですが、通常通り装着すると視界がHMDに覆われて、DJデッキが全く見えなくなります。実際には鼻のあたりに隙間があったりするので、頑張ればそのまま出来ない事もないのですが、HMDでトラッキングをするのであればこんな感じの装着方法になります。

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(左が通常時、右がアバターDJ時)

至ってシンプルな解決方法で、HMD自体の固定位置を目元ではなく額の位置で固定するようにバンドなどを調整します。画像の中で赤矢印がモーションキャプチャ時、さらに言えば最初の調整(キャリブレーション)時の「正面」を示すもので、右画像で水色の矢印はHMDをずらす事で確保出来る視界、緑の矢印は「額に固定した分ズレが生じるHMDの高さ」になります。今回の環境でVR機器そのもののコントロールを行う「SteamVR」では「正面はどちら向きか」「部屋の広さはどの程度か、或いは歩き回らない前提か」「HMDやコントローラの高さ基準はどこか」といった初期のキャリブレーションがある為、HMDを上方向にズラして装着する際にはキャリブレーションを再度実行して、上方向にズレた事を認識させる必要があります。また、この装着方法の場合にはヘッドフォンは物理的にバンドが干渉して使用出来ない為、CUEモニター等はイヤフォンで行う事になります。

これらの設定さえ出来てしまえば、あとはVカツでアバターを制作し、VカツのVRモードでモーションキャプチャが出来ればもう配信準備はOKです。ちなみに今回はrekordbox用のPCと配信用のPCを分けて使用していますが、マシンパワーが充分であれば1台のPCで完結させる事も可能です。ただ、負荷のかかり方で音飛びなどが発生する可能性もある為、PCDJ用のPCはそれとして使用しつつ、DJデッキの「Master」からの出力を、オーディオインターフェイスを通して配信用PCに接続、モニタースピーカーはそのまま「Monitor」出力に接続するか、モニター出力がないコントローラの場合はマスター出力から分岐させてスピーカーを繋ぎます。分岐アダプタ自体は100円ショップなんかで手に入るので、強烈に音質を気にしなければお手軽ではあります。

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(「Vカツ」エディット画面。選ぶだけのお手軽仕様)

「Vカツ」自体がかなり前の時点でアップデートが止まっている様子(少なくとも公式サイトにValve Indexの表記ナシ)ではありますが、服装などのバリエーションはともかくとして必要な機能は揃っている為、まずはお手軽にという事であればこれを試してみる事をオススメします。なんたって無料ですから。

モーションキャプチャはどれだけの数を使う?

さて、モーションキャプチャの話に戻ってきましたが、基本的に現在販売されているVRシステムの「標準構成」で言えば、頭、両手の「3点トラッキング」が基本になっています。上半身どころか、頭と手の位置だけではあるのですが、前述「Vカツ」も含め、この3点のトラッキングから逆算して全身の動きをある程度再現する「IK」というシステムが使われていることが多く、大抵の場合追加トラッカー無しでも問題なく体の動きを取ることが出来ます。特にDJの場合は原則として「ブースの高さより下、だいたい腰回りから下は画面上映らない」「プレイ中の様子に限っていえば、あちこち動き回る事も無い」という事で、腰から下のトラッキングは不要ですらあります(足を蹴り上げるようなアクションをするなら別ですが)。ジャンプなどの動きも同様に、頭や両手の位置を検出してそこから逆算してくれるので、基本的に対応可能です。実際、「Vカツ」を使用したアバターDJの時には頭(HMD)、両手(コントローラ)の3点トラッキングでプレイを行っていました。

ただ、注意点として「体全体の『向き』は『頭』のトラッキングを基準に行う事が多い」という事で、リアルなプレイ環境でDJデッキ(VRでいう「正面」)から離れた位置にPCを設置した場合、そのPCを見た時に頭のトラッキングに引っ張られて、体全体がその方向に向く事があります。こればかりはどうしようもない部分で、Vカツ自体が追加のトラッカーに対応していない為、「選曲を行うPCを可能な限り正面方向に近づける」「サブディスプレイをコントローラの真ん前に置いて正面を見ながら選曲ができる」ような環境を工夫してあげる必要があります。私の環境でもDJデッキの真正面にサブディスプレイを配置して、rekordboxの画面を全てそちらに移動させてプレイしています。

より自然な動きを再現する為に「腰トラッキング」を追加

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さて、そんな環境から現在のUnity使用環境へ移行したわけですが、どうしても3点トラッキングだと身体の動きが不自然になる事があります。例えば「両手を大きく上に上げて右に振って、かつ頭も右に振った」場合だと、全ての対象が右に寄っている為、身体や腰も右についてきます。アクションの内容にもよりますが、「手と頭は右だけど、腰やお尻は左にしたい」という場合も出てくるかと思います。かくいう私もそんな場面が多発したため、さらに一箇所、腰にトラッキングセンサーを追加しました。頭、両手、腰の「4点トラッキング」の環境です。また、この環境に移行した時点で頭のトラッキングは前述の通りHMDではなくトラッカーで行っている為、DJデッキに繋がっているヘッドフォンのケーブル以外は「全てワイヤレス」という環境になりました。ヘッドフォンの使い方を工夫してあげれば、ブースの中でくるくる回ったりするような大きなアクションも可能です。HMDで頭のトラッキングをしていた頃に比べて、頭の重量物もなくなった為、Indexコントローラの大きさにさえ慣れてしまえばほとんど現場DJと差のないプレイが可能で、しかもそれが(腰回りから上に関しては)全てアバターに反映されます。Vカツの時点でもそれなりにプレイ中の動きがバシッと反映されていましたが、さらにリアルな動きを作ることが出来るようになりました。

Unity環境は自由度が高い分、敷居も高め

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さて、そろそろ本記事も佳境に差し掛かってきました。Unity環境でプレイするにあたって、VMCを始め様々なツールを併用する事になるのですが、そもそもの「ハコ」も主にUnity上で作成します。上の画面では背景のスクリーン部分が抜けていますが、実際にはここにミュージックビジュアライザのスクリーンを3枚横並びに設置しています。ライティングやそれぞれのオブジェクトの質感を設定する「シェーダー」などに関しても、最終的に収録環境はUnityそのもので行う為に、言ってしまえば「なんでもアリ」で作ることが出来る自由度の高さがあります。

ただし、そもそもUnity自体が「3DゲームやVRゲームを開発する開発環境」というものなので、Vカツの時のような「操作の8割マウスで行ける」とはなりません。カメラの位置すらも手打ちなので、Vカツプレイの時よりもさらに「実際に映る映像を想像しながら、数値に置き換えて打ち込む」という作業が待っています。また、そのカメラひとつとっても「正面一箇所だけに置くのか、複数箇所に置いて切り替えるようにするのか」「複数置くならいくつ置くのか」など、なかなかに悩ましい内容が出てきます。これまた例として以下の動画をまずはザックリ見て頂きましょう。

この動画の収録あたりから、「自動でカメラが移動するドローンのようなもの」を追加で設置しており、カメラ配置としてはフロア側からブースを向いた状態で「正面」「左下からの見上げ角度」「右下からの見上げ角度」「DJデッキほぼ真上からの見下ろし」「ドローン的な動くカメラ」の計5つを配置しています。最初の4つに関しては全て位置固定なので、少しUnity操作に慣れればさほど難しくはないのですが、ドローンのように動くカメラに関しては「アニメーション」という機能を使って座標指定を行う必要が出てきます。ザックリ言えば「そのカメラはどういうコースで、どんな速さで移動するのか」を打ち込む作業です。

その他、映像的に「映える」ハコにする為に、照明類もいくつか導入していますが、これらに関してはUnityの公式コミュニティで「アセット」として、アニメーション的な動きも全て設定済みのデータが無償・有償問わず公開されています。現状の私のハコで言えば、レーザー・ストロボ・ミラーボールの照明類、及び左右奥のPA、ブース上に走っているフレーム、そしてDJデッキのモデルが全部ひとまとめになって販売されているアセットを使用しています。

VR系のSNSで「ワールド」などを作る際には、それらのソフトウェアの制限や仕様に沿った作り方をしなくてはなりませんが、今回はそういったソフトウェアを使わず、「作るのも動かすのもUnity、それをOBSで取り込んで配信」というスタイルなので、シェーダーやモデルの数、3D系でよく言われる「ポリゴン数」の制限も(PCの性能次第ですが)全く無い為、ハイポリゴン(≒キレイなモデルに映る)のオブジェクトもガンガン使っています。同様にカメラアングルや外部のミュージックビジュアライザ画面取り込みに至るまで、Unityで対応出来る内容であればいくらでも使える為、トラッカーの数も含めて、VカツでのプレイやVR系SNSでのプレイよりも映像的な品質は格段に向上します。

アバターそのものはどうする?:VRM仕様を優先的に

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さて、ここまで来てまたさらに難問が、というのも酷な話なのですが、一番重要と言っても過言では無い「アバター」に関して。前述の「Vカツ」で制作したアバターは書き出し機能は「一応」あるものの、特定のプラットフォーム(ニコニコ立体、及びバーチャルキャスト)のみの対応である為、Unityをはじめ他ツールやソフトウェア環境で使用する事は出来ません。そのため、別途制作をするなり購入するなり、といった事が必要になるのですが、制作に関してはPixivが提供している「VRoid Studio」というソフトウェアが比較的簡単に使用できるモデリングツールとなっています。

ただ、あくまでも「比較的」であり、3Dモデリングの知識が全く無い方にはかなりハードルが高いのも事実。実際私も何度も挫折しました。そんなわけでもうひとつの手段「既製品を購入する」という方法を検討する事になるのですが、こちらはVR系SNSの普及に伴って大量に販売されています。お値段や品質も様々なので、お気に入りのモデルを探す旅に出る事になるでしょう。日本での販売サイトとしては、同じPixivが運営している「Booth」が有名所で、こちらでは主に「VRChat向け」として様々なモデルが販売、あるいは無償公開されています。

各販売モデルに関してはそれぞれに利用規約が定められており、例えば「Youtube等、VRSNS以外での使用のOK/NG、アバターを使用した動画の収益化のOK/NG」など、そこそこ細かく指定されているので、この部分を見落とすことの無いようにしましょう。また、人気アバターに関しては「着せ替え」用の衣装モデルが別途販売されているものも多く、こちらも主にUnity上で行うことにはなるのですが、同じアバターモデルで服装を変えてイメチェン、なんて事も容易なモデルもあります。編集用テクスチャデータが同梱されていれば、何らかの画像編集ソフトを使って自由なデザイン(形はそのままで色やマーキング等)を作る事も出来ます。上に掲載した私の使用中のアバターで、タンクトップ部に「キックは多くて速くて強いのがエラい」という実に頭の悪そうなデザインもサクッとテクスチャをいじったオリジナル。ちなみに私が使用しているアバターはこちらです。

髪の毛のふんわり感や目の雰囲気など、Unityでこのデータを開くとマウスだけでカスタマイズが出来るお手軽アバターで、ポリゴン数も多い為非常にキレイに映ります。髪の毛の色や目の色などもテクスチャで変更可能。ちなみに性別や見た目に関して言えば、「9割以上女性アバター、半数以上はケモミミ(猫耳とか犬耳とか)が生えてる」というとてつもないバイアスがかかった市場なので、男性アバターを探し出すのは至難の業。探している時間の代わりにVRoidの使い方を勉強したほうが早いんじゃないかレベルです。

注意点として、これら「VR系SNS」、特にVRChat向けに制作されているモデルは、それらのソフトウェア向けの設定で作られており、Unity画面上でモーションキャプチャを行ってライブを行うには不向きな設定になっています。この点に関しては「VRM」という一種の標準規格がある為、VRMデータが同梱されているモデルを購入する、もしくは購入したデータからVRMモデルを書き出す等、VRM形式に対応させる作業が必要になります。VRM自体には表情の数や使用可能なシェーダーなどの制限がかなりあるのですが、最終的にはUnityに戻して動かすため、「一度制限をクリアした状態でVRM化、その後もう一度Unityに取り込んで各種設定類をもとに戻す」という手順を踏んであげることで、シェーダーなどの制限を回避できるようになっています。「一度VRMで書き出す」という部分に関しては、モーションキャプチャで使用するVMCが「Unityだけでなく、VMC側でもモデルを読み込む必要がある」為の作業で、ここで使用可能なのがVRM形式のモデルである為。

という、まぁまぁややこしくて頭がゴチャゴチャになりそうな部分が「ハコを作る時」「アバターを設定する時」と最低2つ存在するため、正直難易度は高めといえば高めです。その点はある程度覚悟の上でとなりますが、もし実際にやってみたい、機材類は揃っている、という方がいれば、可能な範囲でお手伝いは出来るかもしれませんので、ご一報頂ければと思います。

応用編:リアルな現場にアバターDJを持ち込む

ここまでザックリと「VRDJ」「アバターDJ」のスタイルについて、あちこち脱線しつつご紹介してきましたが、せっかくなので応用編。「アバターDJを現場でやろう」の簡易版です。こちらのTweetで撮影して頂いた動画がまさにそのシーンなのですが、この時私はDJとVJ双方をやっていたので、「VJの特権なのよね」とばかりに突っ込んでみました。

序盤に紹介したDJ SHARPNEL氏は実際に現場にVR機材を持ち込んで、「スクリーンの後ろ側でDJをしつつ、モーションキャプチャしたアバターのDJ風景をスクリーンに出す」という完全リアルタイムだったのですが、さすがに色々と機材運びが厳しかったので、「最初の3~5分、もしくは2曲分くらいを事前に自宅で映像と音を収録」した動画を流しつつ、VJ用PCからオーディオインターフェイス経由でミキサーの空いているチャンネルを借用、そのチャンネルから音を出すというスタイルで行いました。想像以上にウケが良かったので、また別の機会にもやるかもしれません。

この時、収録する動画と音楽に関しては「スタートの曲の頭は出来るだけフラットな(FXなどを当てない)状態に、2曲めが終わった後は4つ打ちキックをループさせた部分を長めに取る」というデータを準備、私自身はDJブースに立ちつつ、VJの操作が出来るようにマウスやコントローラをブースまで引き込んで、動画再生→前DJから音を繋いでアバターDJの音に切り替わってからそちらの演出、2曲めが終わった後のループ部分で私自身のリアルのDJで次の曲へ繋ぐ→アバターが手を振っているあたりでサラッとフェードアウトして通常のVJ素材へ戻す、という流れで行いました。その後は普通にDJをしたのですが、ちょうどリアルのブースと向かいあわせの壁側にVJの映像が飛んでいた為、「さもフロアの2箇所にDJブースがある」ような演出になりました。なかなかおもしろかったです。

この時の音自体は手元の(リアルの)ミキサーを経由してPAから出ているので、入っているチャンネルのフェーダなりツマミなりを操作すれば、そのまま音に反映されます。収録時点でFXを当てていたものの、少し物足りないなと思った時にはさらに現場で直接追加演出が出来る環境でした。

このような演出を行うにあたっては、まずそもそもから「ミキサーのチャンネルが最低1本、完全にフリーで空いている」事が前提になる為、事前にイベント主催者へ確認したり、お店の設置機材をチェックしたりと多少事前準備は忙しくなります。また、当日の状況次第でこの演出が確実に出来るとは言い切れない為、「アバターDJを組み込んだ演出」と「通常通り時間いっぱいリアルでプレイする演出」の2つを検討・準備して、当日の環境に合わせる事になります。

段階を追って演出の規模を拡張できるVRDJ、「バーチャルだからこそのハコや映像演出」も楽しめる新しいスタイル

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そんなワケで、今回は「VRDJ」「アバターDJ」に関しての寄稿という事で、上っ面をサラッと拾うような形で紹介してきました。機材面や技術面の敷居が高い事は否めませんが、「バーチャルならでは」の演出が出来る(360°空が映る中で「浮かんでいるような」ブースでDJをしたり)事や、なんならそのまま「Vtuberデビュー」出来ちゃったりとか、色々と可能性があるスタイルだなと思います。普通に(自宅などでのプレイをカメラで撮影して流すような)配信DJをするのももちろん面白いですし、昨今の情勢には合致しているのですが、リアルな姿でのDJであれば、やっぱり現場で爆音を浴びて楽しみたいもの。そういう意味で、逆に「リアルな現場では実現が難しい」という演出もバンバン出来てしまうVRDJ、アバターDJは、通常のDJ配信とはまた異なる楽しさがあるなと思います。

一昔前、Vtuberが出始めた頃なんてのは、3Dモデルひとつで3桁万円だったりとか、それはもう大変な時期で一般人が手を出せるようなレベルでは無かったわけですが、ここ数年でそのあたりの敷居も一気に下がってきました。また、アップデートが止まっているとはいえ、ある程度のオリジナルアバターで気軽にアバターDJをライブする方法もあります。せっかく自宅引きこもりにならざるをえないこんな時期なので、もしも興味のある方がいたら、是非チャレンジしてみてはいかがでしょうか。

今回の記事ではVR機材を使用・流用した内容での紹介でしたが、この方法以外にもモーショントラッキングが出来るカメラ(ゲームセンターの「DanceEvolution」で使用されていた「Kinect」等)や、ソフトウェアによっては普通のWebカメラで身体の動きをトラッキング出来るものもあるようです。例によって「絶対こうしろ」というお約束があるわけではない世界なので、コスト面も含めて「どんな事が出来るだろう? どんな事をしたいだろう?」を考えながら調べ物をしてみると、少しワクワクできるかもしれません。

そんなワケで、例によっていつもの如く乱筆散文になってしまった感はありますが、VRDJ、アバターDJのプレイヤーとして、ざっくりご紹介しました。この記事から、皆さんにさらに興味を持っていただけると嬉しいなと思います。諸々の問題がなければ、我が家で実際にVRシステムを使ったアバターDJの体験も出来たりはするので、健康面・衛生面の問題がない場合には是非体験してみて欲しいなとも思います。ご興味のある方はご連絡ください。