第2回 逆噴射小説大賞のオノレを振り返る


プルルルル……
プルルルル……

「アー」
『モシモシ、フカボリ出版のマギーですが』
「アーはいはい。上から85、61、90のマギーちゃんね」
『セクハラですよ』
「ほいじゃバイナラ」
『あの』
ブツッ プー、プー、

プルルルル……
プルルルル……

「アー、お掛けになった番号は――」
『フカボリ出版のマギーです』
「ワシ忙しいンよ」
『第2回逆噴射小説大賞』
「アー」
『結果発表から1週間ほど経ちましたが、お気持ちは』
「アー? お気持ち?」
『ええ。2次選考、唯一の4作通過者。しかし最終選考には1作も……』
「第3部がね」
『第3部?』
「ソ。読み始めてンの。ニンジャスレイヤー。寝かせとったから。これが面白くってのう。ワシも岡山に行こうかのう。オンセン。湯治。ヤクザ天狗が入ってきたらどうしようコワイ!」
『そうですか。で、小説大賞の結果について、お気持ちは』
「お気持ちって言われてものう」
『色々とお考えになられたのでは』
「サー。そんなモンはどっかに消えてしもうたのう。雲が散るようにパーッと」
『消えてしまった』
「ソ。パーッと。ワシにゃワカランから。難しいこと」
『皆さん色々と考えて、今後の糧にしておられるようですが』
「ソウネー」
『思い出せませんか』
「ソダネー」
『残念です』
「DA.YO.NEー」
『……黒霧島1.8リットル・チューパック1年分』
「あれは忘れもしない1月21日の夜ワシは最終選考に残った作品と聡一郎氏の選評に目を通しひとつの結論に達した、そうワシには決定的に足りていないものがあ――」
『あの、』
「るそれは読者をグッと没入させるパワー爆発力インパクト古臭いだけで終わらぬ設定の目新しさ面白さ書き手の熱やエネルギー衝動と――」
『あの、もう少しゆっくりお願いします』
「アー?」
『今おっしゃった考えについて』
「アレー? どっかに消えてしもうたのう。雲が散るようにパーッと」
『コーン茶大容量ティーパック、1年分』

「……」

『家でしこたま召し上がってますよね。焼酎のコーン茶割り』

「……ン”ン”。コホン。エー。……ワシが言わずとも結果を見て…… よく考えてみればアンタにもわかることだが、整理しよう」
『はい』

「2次選考に5作中4作が通った。それぞれテーマが違う作品だ。これはつまり平均的に、まずまず悪くないパルプ冒頭800字を書く力があると認められた。そう考えられる」
『ええ』

「ただそれだけなンよ」

『……と、言いますと』

「あなたソコソコ器用でしたね、ってだけ」
『それはそれで、認められたということでは』

「どうだかねえ。2018年の第1回はパルプのパもわからず10作投稿して、2次通過は1作。その1作が最終選考に残った。まぁラッキーパンチと言われればそれまでよ。……で、それから1年、ワシなりに筆力を鍛えてきたつもりで、通過も増えた。喜ぶべきことかもしれん。……しかしのう、通過した4作すべてにおいて昨年に勝る ”チカラ” を発揮できなかった。これは厳しい現実よ」
『チカラ』

「チカラってのは、一言でいやぁ ”面白さ” だ。最終選考に残したくなるような、大賞と推したくなるような、800字でビンビンに、ギンギンに伝わる面白さ。……ワシの場合はな、”この作品には欠けていました”、ってレベルじゃねぇのよ。4作すべてにおいて足りなかった。これはつまり作品ごとの良し悪しだとかそういうレベルじゃなくてな、ワシそのものの発想力が…… シンプルに言っちまえば面白さに欠けていたンよ」

『……そこまで言い切るのはどうでしょう。主催者も繰り返し言っていました―― このコンテストは冒頭の書き出しを競うかなり尖ったもので、仮に賞を得られなくても、そのまま書き続けていけば一個の作品としてアッと驚く内容に仕上がる可能性も当然あります……と』

「確かに。それも事実。実際、このコンテストじゃ落ちるだろう名作が世の中にはごまんとある。だからワシも ”逆噴射方式に囚われない作品を書くぞ!” そうやって意識的に何かを書く時はあるだろう。世の中の作品に対して逆噴射的にこの冒頭はダメ、みたいな判断をくだすのはアホ。……でものう。このコンテストに参加したワシは、冒頭800字で勝負する土俵に自ら上がったわけだ。尖ったコンテストってのは承知のうえで。ここで一発ブチかましてやるぞ! ってな。他のエンタメや他の小説があふれまくりの大海原で、ふと視界に入ったその800字。それだけで、続きを読みたくなる。気になってしょうがない。自然とページをめくりたくなる。読み手を掴んで離さない魅力的な設定、舞台、構成、他にはないギラリとした何か。そしてパワー。最後まで突っ走る推進力、脳を揺さぶるインパクト、爆発力、先の読めない展開。そして読み手はどんどんその世界に没入していき……まあ、そういう根本的な ”面白さ” を最初の800字をブッコんで見事に表現してやろうと思った」

『……』

「しかし、それができなかった、いや、表現できたつもりでいたのがそもそも厄介。これは自覚しなきゃならん」
『……しかし、そういった面白さに欠ける作品が4つも2次選考に残るのでしょうか』

「ズズ…… ココア美味しい」

『投稿後のリアクションも多く、数名の方が大賞予想に貴方の作品名をあげていたようですが』
「ソウネ、嬉しいね。正直ワシも最終選考に残るんじゃ…… なんて能天気に思っとった。今考えりゃ根拠のない自信だが、いい弾は撃てた、と」
『手ごたえがあった』
「ソ。ワシは2回目の参加にあたってな、事前に考えて、考えて挑んだ。ワシなりの ”パルプ” とは……ってな。それを徹底的にやった。……だが、それがズレちまってたのさ」

『ズレ、とは』

「ソウサネ……。まずワシが徹底したのは語り口だ。言葉の選び方。切り取り方。次へ次へと読んでしまうようなテンポ。キレ。気持ちよさ。セリフについても、地の文についても、この1年で自分なりに手癖にしてきたモンを、意識して、拘り抜こうと考えた」
『なるほど』

「それと、醸し出す雰囲気だ。これは完全にワシの好みだが、ハードボイルド、モノクロ、どこか抑揚を抑えたような。動きのひとつひとつ、セリフのひとつひとつがキマってる、クールな作風にしたかった。ギャンブル中毒と女ドワーフの奴もな、あれはあれで考えた。最後に投稿した作品だけが異質だが、あれも茶化すとかふざけるなんて一切思っとらん。ワシも登場人物も、全員顔がマジだ。マジでやるから面白い」
『はい』

「もうひとつ。800字の先、自分でもラストまでグイグイ書いちまいたくなるような…… そんな物語の全体像がイメージできるか。ワン・アイディアでチャンチャンしない、期待感のある作品にできそうか。この辺りもじっくり考えた」
『はい』

「アー、エー、他にもまあ色々あるんだが、あとは800字で勝負するための構成だな。設定開示で終わらせないとか、どこで何を提示するとか、まあホラ、第1回でもさんざん言われていたポイントはクリアせねばならんと考えた。800字ならではの留意点も」
『ええ』

「……で、だ。これだけ話してアレだが…… これらはすべて道具だ」
『道具、ですか』
「ソ。道具。ワシは道具を選び、磨いて、人に見せて、それだけでよし上手くいった、なんて思っとった。結局のところ、さっきツラツラと挙げた ”面白さ” が足りなきゃダメだ。”もっと続きが読みたい” とワクワクさせる面白さが足りなきゃ…… 道具なんて化粧にしかならん。ワシの作品は古臭い。それを小手先だけでどうこうコネクリまわしていた。審査員はそれを見抜いた。ワシのスッピンを…… 今はそれを自覚しとる」

『……次回に向けての課題は、そのあたりでしょうか』

「次回?」

『はい。第3回の開催が宣言されていました』

「アー、どうだろか。小手先でどうこうできる課題じゃないからのう。今は出る出ないなんてわからん……。それにちょっと参加を躊躇っちまうような些細なコトもあった。ま、ワイワイ皆んなが楽しく挑戦できりゃいいんだけどネ。年に一度の腕試し。ガチンコフェスティバル…… いいネ」

『……そうですか。お話が伺えてよかったです』
「ハイハイ、黒霧島とコーン茶よろしく」
『えっ、何のことでしたっけ』
「アー?」
ブツッ プー、プー、
「死」


【おしまい】



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