梅棒『OFF THE WALL』個人的感想。

梅棒『OFF THE WALL』感想をレポートちっくに書いてみる。

ひとりの振付を生業とする者のあくまで個人的意見だ。

以前みた梅棒の舞台で(確か超ピカイチだったと思う)ハッと気付いたことがある。
”梅棒の振付は、ハッピーを基準に作られている”

「観客」と一括りに語られることも多いが(「社会」とか「世間」とかもそうね)当たり前だがその席に座るのは様々に心を持ったひとりひとりの人間である。素直な人も、やっかいな人もいる。僕は梅棒がラスティネイルや箒星を踊っていた頃から今日の躍進に至るまで、割とたくさん梅棒を見てきたファンのひとりだが、この日は朝から心閉じ気味で、身体も重く、家を出るか出ないか悩みながらもドロドロと会場に向かい、不機嫌な子どものように客席に身を埋めた。

結果として、僕はスタンディングオベーションをしていた。
悔しくも、心をこじ開けられた。
個人的には、今まで見た梅棒公演の中で一番好きな作品だった。

10回目にして、キャスト梅棒のみ。
フライヤーには原点的革命的、と書かれている。
これまで様々なゲストダンサーを呼び、規模感もどんどん拡大し、言わば”手を広げていった”梅棒だと思うが、ここで原点回帰をしたこの公演をみて感じたこと。それは、梅棒によるダンス言語は、やはり梅棒が一番の語り手だった、いやここははっきり言おう、梅棒によってしか語れない域があるのだということ。言わばネイティブなのだ。梅棒ネイティブたちだけで早替えを繰り返し、時空や宇宙を移動し、世界観は外部に拡散されるのではなく舞台上にぎゅっと凝縮され、僕たちの胸へと混じりっ気なく届く。
これまでたくさんの素晴らしいダンサーが梅棒ワールドで暴れてきたが、そのこれまですらフリであるかのように、僕には感じられた。

ダンサー的視点で正直に言っておくと、梅棒のメンバーよりダンスのうまいダンサーはいくらでもいる。というか、梅棒はどちらかというとダンスがヘタである。(ダンス技術面を担っているのがかずやさんや拓矢さんだと僕は思っている)だが、1秒漏らさず面白く舞台に存在しようとする気概、それを実現するアイデアとセンス、自分の担うキャラクターの掘り下げ方(キャラクターを掘り下げる作業はまぁ舞台人としては当然と言えるが、ダンサーは実はそういう経験が少ない人も多い。それはそれで理由もある)、そして全力感。
僕は、スイーツくんの踊りが大好きである。彼が花道で踊っていたあるシーンでは、客席の誰もが彼を本当に応援していたと思う。そういう鬼気迫るものが感じられる踊りが僕は好きだ。
つまり。梅棒のダンスはめちゃくちゃ上手いのだ。心が上手い。そしてそれを全員がずっと共有してきたからこその、ネイティブさなのだと思う。そして梅棒の振り付けはダンス漬けのダンス玄人に向けられていない。梅棒の振り付けはハッピーを基準に作られているのだ。

演出面、ストーリーテリングはもはや教科書である。僕は梅棒の舞台をみるといつも演出のお手本みたいだなと感じる。
今回は特に昔ながらの梅棒らしい熱い展開で、奇を衒わず、お客の期待を超え続けた感じ。その「誰も置いていかねーぞ感」に、強い志を感じるし、(この表現があっているかわからないが)ピクサーみを感じるのだ。ピクサーみたい、というのは僕が思う最高の褒め言葉だ。子どもも楽しめるほどわかりやすく大人も楽しめるほど深い。どんなにそれが難しいことか。(ちなみにピクサー作品をみると僕は決まって落ち込む。こういうのが正解だ!と言われたような気がして、それが自分にはないから。。と、この話はもういいや)展開も王道なのだが、その王道というのは、死ぬほどたくさんの工夫を凝らさないと成立しないものだと思う。邪道好きも黙らす力が真の王道なのだ。
僕は、本当の感動は自分の中で発生しないと感じられないと思っていて、外側が1から10まで感動を提供してはダメなのだ。梅棒は、そのドアのすぐ近くまでエスコートしてくれる。それでいて、最後の一押しは自分で開けさせてくれる。だから優しい。もちろん、自分で進んでドアをこじ開けたい人や、隠された鍵を探したい人もいるんだけど。

個人的に、ラスボスの存在が頭を離れなかった。なぜ、あの子がみんなを脅かす存在になってしまったか。僕は「自己否定感」だと思う。良かれと思って規律正しくしていたのに、裏で嫌われている。自分は愛されていないのだという感覚は、自己否定感へと真っ直ぐ直通する。その根拠はコックリさんという実態のないものであるにも関わらずだ。彼女は自己否定感に取り憑かれ、それは他者を否定する心に化けてしまったのだ。化け物が生まれるのには理由がある。「自己否定」こそ闇を生む温床なんだ。

さらに個人的にツボだった重箱隅ポイントは、縄跳びに偶然入って男の子が恋するくだりで、右側にいたとり残された子の棒立ち感のうまさだった笑(確かとしょさんかな?)「えっ(思考停止)」て感じが最高によかった。

まだまだ語りたいことはあるが、この辺にしておこう。
この文を、裏で多くの仕事をして支えているかずきさん、そして演出部や衣装部や、スタップの皆様に敬意を込めて。

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