近所のレンタルCDショップが潰れた。
「近所のレンタルCDショップが潰れる」
話を聞いたのは一か月くらい前のことだ。そして書いているころにはもう潰れてしまった。20年以上営業していたらしい。
自宅から頑張れば徒歩圏内と言えるくらいの立地にある。
しょっちゅう自転車を飛ばし、あるいは親の車に乗ってそのレンタルCDショップに行ってCDを借りてはiTunesにインポート、お小遣いを溜めて買った120GBの大容量ipodに音楽を入れる。
放課後、教室の窓から金木犀の香りが漂ってくる、聴覚には友人との雑談と、質の悪いスピーカーから流れる邦楽ロック。
そんな高校生活の一部を彩ってくれたものだった。
中学生くらいから利用しているから、新たにできたものではなく、いつでもあるものだった。
どうも建物ごと潰れるらしいから、新陳代謝の一種なのだとは思うけれど、寂しいものは寂しい。
サブスクリプションサービスの台頭で、業績は落ちたのだろう。
昔はフロアの半分がCDのブースだったけれど、今はカードやゲーム、オモチャがそのフロアのほとんどを占めていたのが悲しかった。
そこは尖っていたのか分からないけれど、本当に知名度がまるでないようなバンドのCDも扱っていて、もう僕のパソコンの内部にデータとしてしか存在していないような曲もある。ネット上にも落ちていないのだ。
サブスクでは聞けない曲なのである。
これはどんな記事になるのだろう。わからない。ただの日記になるかもしれない。
高校生と音楽
自己紹介記事で書いた、高校では軽音楽部だった。
0から1を作るような天才ではなかったので、基本的にはコピーバンドだった。
当然コピーバンドということは、音源が必要である。
今の子たちだったら、高校に持ち寄ったスマホでYouTubeでもなんでも、調べればその場ですぐ、無料で聞けるような環境があるだろう。CDなんて買う必要がないのである。
しかし、僕の時代は違う。
まずは音源がないと始まらない。
直接会う場で「この曲がいいよ」「このバンドがいい」「これは簡単そう」と言いながら、最終的にこの曲が良いだろうと見当を付けて、音源を入手するのである。
お金が自由に使える人だったなら、CDをいくらでも買って、自宅のコレクションを無限に増やしたことだろう、実際、めちゃくちゃギターの上手い先輩はそんな人だった気がする。
ところが、僕はお金のない高校生だった。そんな人間がどうやって音源を入手して、音源を持ち歩くのか。
CDを借りるのである。
CDを借りて、iTunesにインポート、ipodに同期という操作を繰り返して、僕は音源を持ち歩くことが出来るようになった。
それがなければ、きっと軽音楽部での活動は難しかっただろう。
もしあのレンタルCDショップがなかったら。僕はどうやって音源を入手していたのだろうと考える。
グレーなことをしなければ、音源を入手することができなかったかもしれない。
それだけでも感謝をするべきなような気がする。
僕の音楽嗜好は間違いなくラジオからの影響もあるけれど、形をしっかりと作ったのはこのレンタルCDショップだとも思う。
5枚で1000円
たしかCDは一枚300~400円くらいで借りることができたはずだ。新作なら400円で一泊とか、旧作なら300円一週間とかだ。
当時のアルバムというと、安くて3000円くらい、5000円を超えるものが普通だったように思える。レンタルは安いとは言え、サブスクとは比べ物にならないコストパフォーマンスである。
話を戻す。
そんな当時の金銭感覚の中、このレンタルショップは旧作ならかなり良心的な値段で一週間借りることが出来た。
アルバム、シングル問わず5枚まとめ借りで1000円の一週間レンタルというサービスである。
このサービスを当時の自分が利用しない手はなかった。
なんせ3枚借りるなら5枚借りる方が値段も安く、レンタル期間も長くなるといういかれっぷりだ。
だから、目当てのCD以外にも借りることがあった。
それはバンドサウンドではないけれど、単純に流行りの曲だったり、少しだけ気になっているバンドだったり、あるいはもうジャケット買いならぬジャケット借りだったり。
その中で嬉しい出会いとして書けるのが「LOST IN TIME」の「列車」という曲である。
今でも覚えている。
衝撃だったのだ。この曲を聴いた瞬間の風景も少しだけ覚えているくらいには。
当時はやたら評判の悪かったipodの付属イヤホンから流れる質の悪い音質でも驚いた。「あの頃はよかったなんて言いたくはなかった」の部分で、目線を思わず上げた。
こんなにマイナーなバンドも取り扱ってくれた。そして、その曲は今でも大切な曲だと自信を持って言える。
LOST IN TIMEはその中の一つで、他にも大切なアーティストはいくらでもある。
上の記事で同じように語った、ハンブレッターズのフェイバリットソングの中にあるような曲というのもここで借りなければ出会わなかったな。と思う。
レンタル落ちのCD
つぶれる少し前に時間が出来たので、最期に足を運んだ。
レンタル落ちのCDはちょっとした繁華街に行けばいくらでもワゴンで売られているけれど、ここはやっぱり尖っていて、サブスクにないCDが売られていた。上記の大切なアーティストのCDだった。
700円だった。帰宅してから冷房を付けて、久しぶりにCDコンポを取り出して聞き始める。
もう10年、20年前の曲だった。
けれど、その曲は猛烈に今の僕に刺さった。
やっぱり大好きなアーティストの声だ。信じられないくらい青臭くて恥ずかしい歌詞だった。
それでも、それでも時を経て、サブスクにもない曲は、たしかに自分に語り掛けてくれた。
こういう記事を書くのなら、この曲の曲名も、アーティストの名前も言うべきかもしれない。けれど、書くことができない。大切すぎる。
今の自分に刺さってしまった。なおさら今、書くことができなかった。
改めて、感謝を伝えてこの記事を終わりにする。
なんだかまとまりのない昔を語る記事になってしまったけれど、こんなのもたまにはいいだろうと思う。
ありがとう。
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