【読書記録】鹿の王 上下巻
おもしろかった。すごい、これは児童文学なのか?
作者は、上橋菜穂子さん。名前は知っていたけど、長いシリーズものだったから手が出せていなかった。「鹿の王」は上下巻だからいけるかなって読み始めたら、2日間であっという間に読み切れた本だ。
この方の読んできた本もすごい。文化人類学者かぁ。だから、この本も森の中の描写がきれいだったり、香りの感じ方、人の体の中と社会の共生というテーマのコラボを思いつけたのだろう。それを物語におこすって……かなりの労力。「鹿の王」は3年かかったという。文庫版も出ていて4冊になっている。
内容は、現代で言うと医療系ミステリーなのかな?でも、この時代背景とか考えると、医療というよりも医術か。狼に噛みつかれた男ヴァンと黒狼病から生き残った少女ユナが旅をする物語。かたや黒狼病を治す薬を開発している男ホッサルと助手の女ミラル。国の名前や人の名前がわかりにくいけど、だんだん慣れてきた。
気になったポイント
全世界で流行したコロナ。あの時を経験した今だからこそ、この物語を読むとおもしろいって思えたのだ。そもそも病気というものの正体って何だろう?そんな疑問をもったから。
少年と祖父の会話からスタートした物語。
この時点では、この少年が誰かは明かされていない。気になる所がから始まるのだ。光る葉っぱも、最後にちゃんと繋がっていく。
病が広がる前に何とかしたいと願うのが人情。
だからこそ、薬の開発をすすめていくチームがいる。これには、時間がかかるし、検体もいる。そこから弱毒薬をつくって注射する。しかし、この物語の世界には医術よりも祭司の祈りを信じる国もあった。
だから、注射なんてもってのほか!こんな人も存在している。ただ、だんだん遺伝の話になってくる。アカファ人には、もともと耐性がありそうだけど、他の民族は病にかかりやすいとわかってくる。だんだん戦争のような雰囲気になってくる。そもそも何でアカファ人は大丈夫なのか?病を戦争に使うなんて許せない!いろいろな思いが交差しつつ、アカファ人の住む土地にヒントがあるかもしれないと、どんどん話はすすんでいく。
この後、予防接種の知識と似たような話が続く。耐性の話が。この辺りを読んでいて、ちょっとはたらく細胞を思い出した。
普段は気がつかないけれど、無意識で働いてくれている身体。心臓だって自分で動かそうと思ってなくても動いてくれている。それを国に例えるならば、小さな小人たちがいつも心臓という名の血液ポンプを押してくれているという感じだろうか。この物語を読みながら、もう少し自分の身体に感謝しようと思う。頑張ってくれていてありがとうって。
これは、ホッサルのセリフだ。いろいろあって迷ったけど医術師としてできることをやるという思いが詰まっている。微苦笑を浮かべて言っていたから。人はいつか死んでしまう。致死率100%。だったら、ちっぽけな自分に何ができる?そう自分に問うて出た今の答えだった。
これは、私も感じる。ちっぽけな自分に今、何ができるのか?
こうして、読書記録を書いていて何になるのか。一生懸命書いて何になるのかわからない。でも書き続けている。
生きることは、もがくこと。
あとがきから
この3つから、長い長い物語を紡ぎ出してしまう作者を尊敬する。
それ、神業だから!ってこの文章を読んでいて思った。いいなぁ、私も3つからインスピレーションを得て書いてみたい。
じゃあ、書けばいいじゃん。だって、生きることはもがくことだから。
そんな声が心の内側から聞こえてくる。さぁ、もがいてみるか。今日も。
一応、物語の楽しい所はなるべくネタバレにならないように書いたつもりだ。「鹿の王」というタイトルの謎も読まないとわからないはず。
医療系でも大丈夫で、ジブリが好きで、王宮とか大奥とかに興味がある人で、魂の描写もOKな人は絶対楽しめると思う。そんな物語。
って、2015年本屋大賞受賞作品だからすでにみんな読んでるのか。
私だけだったかも、知らないの(笑)失礼いたしました。
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