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『子どもの声を聴くってどういうこと?子どもの権利と子どもアドボカシー』ベネッセこども基金MeetUpイベントレポート

ベネッセこども基金では、子どもたちを取り巻く社会課題を一緒に考えるイベント「ベネッセこども基金MeetUp」を定期的に実施しています。 2022年11月に実施した「MeetUp2022 #1」では、「子どもの権利と子どもアドボカシー」をテーマに取り上げ、500名にお申込みいただきました。 
イベント全体は本記事の最後に掲載されている動画からご覧になれますが、イベントの要点をぎゅっとまとめましたので、ぜひお読みください。

西崎さんに聞く、「子どもの権利って何?」「子どもの声をどうやって聴く?」

第1部、最初の基調講演では、「公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」で子どもの権利についての啓発活動を行う西崎萌さんがご登壇くださり、子どもの権利について教えてくださいました。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、世界中の子どもたちの健康や安全、社会参加などを通して子どもの権利が実現されることをめざす国際NGOです。

まず初めに西崎さんが提示してくださったのは、10個の質問。次のうち、「子どもの権利」にあてはまるものはどれだと思いますか?みなさんも考えてみてください。

いかがだったでしょうか?
2「子どもは義務や責任を果たせば、権利を守ってもらうことができる」
7「子どもは知らないことが多いため、子どもにかかわることは全部大人が子どもに代わって決めるべきだ」は、ふさわしくない内容。
2と7以外は、すべて子どもの権利にあてはまる内容です。
 
学校の教員の方々に聞くこともあるそうですが、3・6・8は正答率がやや低い傾向が。学校現場などであまり尊重されていないという現状があると考えられます。
 
ここでは10個の質問を挙げましたが、実際には1989年に国際連合で採択された「子どもの権利条約」で54条まで定められています。

「子どもの権利条約」に日本政府が批准したのは1994年。しかし、2019年にセーブ・ザ・チルドレンが行った調査では、大人の4割以上が子どもの権利条約について「聞いたことがない」と答えています。学校の教員でも、約3割が「全く知らない」「名前だけ知っている」と答えており、まだまだ認知が低いのが実状。これからもっとたくさんの人に知っていってもらいたいですね。

子どもの権利は生まれたときからすべての人がもつものです。0歳の赤ちゃんでも生まれた瞬間から権利をもっています。権利が与えられるための条件なども一切ありません。


子どもの権利をもっているのは子ども自身。そしてその権利が守られるように保証する責任を負っているのは国です。もちろん身近にいる私たちのような大人一人ひとりが、その実現に向けて努力する必要があります。


子どもの権利の中には、特に大切なものがあります。それが次の4つの権利。

何かをするとき、決めるときには子どもの意見を聴いたうえで最善を選択していくのが大切だということになります。子どものいないところで子ども自身のことを決めたり、子どもの意見を無視したりしてはいけません。

もちろん子どもの声を聴くといっても、すべて子どもの言うとおりにするという意味ではありません。子どもの意見を聴いたうえで、難しい場合はなぜ難しいか、ほかにどんな方法がとれるかなどを話し合うことが大切です。また、「子どもの声」には「何がいい」「これがしたい」などの希望・要望だけでなく、子どもたちがどう感じているか、その思いや気持ちも含まれています。一方で、「意見を言いたくない」ということもひとつの意見表明であり、それらも尊重されるべきものです。
 
子どもの声を聴ける場面は日常の中にもたくさんあります。家庭であれば休みの日をどう過ごしたいか、学校であればどんな校則が必要か、新しく作りたい部活動はないか、クラスでどんな係があったらいいと思うか、などさまざまです。まずは大人が、子どもの声を意識的に聴くようにし、対話をもつということが大切です。

意見表明は赤ちゃんのときからできます。泣くことで要求を訴えていますね。それぞれの年齢に合った表現方法があります。小さい子どもでも意見を言いやすいように雰囲気を作る、代弁してあげるのは大人の役目です。

もうすぐこども家庭庁やこども基本法ができるなど、子どもの声を聴いて政策を作っていこうとしています。子どもの一番身近にいるパートナーとして、周りの大人たちが子どもの権利を守り、一人ひとりが自分らしくいられるようになっていくといいですね。

渡辺さんに聞く、「アドボカシー活動とは?」「海外・日本での事例」

続いての基調講演として、サイボウズ株式会社で虐待防止・学び場づくりなどの取り組みをされているほか、「一般社団法人子どもの声からはじめよう」の理事として子どもの声を聴く活動をされている渡辺清美さんがご登壇くださいました。「一般社団法人子どもの声からはじめよう」は、子どもの声が尊重される社会の実現をめざして、子どもアドボカシー活動の実践を行っている団体です。

政策提言ももちろんその一つなのですが、個別に意見や願いを聴き、本人が望む場合、気持ちを表明できるよう支援する活動もあります。子どもの声からはじめようでは、チームで児童相談所の一時保護所を訪問し子どもとコミュニケーションを重ねています。


子どもは大人とのパワーバランスにおいて不利な状況におかれることがあります。また集団の場では声の大きい人の意向で物事が決められてしまいがちです。一人ひとり意見を聴かれる権利はあるのですが、不安定な状況のなか声をだしにくい子どもたちもいます。

子どもたちが安心して意見を言える環境づくり、信頼関係づくりがまずは大切ですね。

各国で子どもアドボカシーが実践されています。子どもアドボカシーを一言で言うと…、こんなふうに表現されています。

アドボカシーの担い手は、大きく5つに分けられると言います。子ども自身によるセルフアドボカシーが中心です。それぞれの立場からアプローチして子どもの声を聴けるとよいですね。

また、子どもアドボカシー活動を行ううえで大切にされている理念があります。

子どもの声が聴かれることは今後は特別なものではなく、当たり前の生き方として定着していくことが望まれます。
 
実際に活動を行ううえでは、次の6原則にのっとって行っていくことが大切です。

1は、子どもがこれまで奪われてきた主導権を取り戻せるように、子ども自身の力を信じ、力の回復を応援すること
2は、子どもの願いによって導かれるものであること
3は、利害の対立から自由であること
4は、利用者の同意なしに漏洩しないこと
5は、特定の誰かだけではなくみんなの声を聴くこと。アクセスしやすいものであること
6は、取り組みに子どもの意見を取り入れて作ること
を重視しようとするものです。

イギリスではアドボカシーサービスの設置が自治体に義務づけられ、公的サービスとしてアドボカシーを行う人が活動しています。

スウェーデンでは子どもの権利条約は国内法にもなり、より実効性をもたせようとしています。

子どもの権利に関する絵本や教材もたくさんあります。例えば子どもの権利の絵本がハンバーガーセットのおまけになることもありました。企業の作る商品や、街中の公園などにも啓発メッセージが掲げられているのだそう。日常的に目に触れる機会があると、多くの人にメッセージが伝わりそうですね。
 
東京でも、児童相談所の一時保護所を訪問して子どもたちの声を聴く活動などが行われています。

基本的に子どもが話したいと思うタイミングで話を聴くようにしており、訪問日以外の期間に話したいことが出てきた場合は、「おはなしクーポン」で予約をするそうです。

カードを使って子どもの権利について知り、気持ちや考えを話すワークショップも子どもが声を上げやすくなる工夫の一つです。

誰かに何かを伝えたいときは「子ども自身が伝える」「アドボケイトと一緒に伝える」「手紙で伝える」といったやり方の中から子ども自身が選びます。
意見表明があった場合は、児相と団体との間で、できる限り子どもの希望が叶えられるよう調整が行われます。

西崎さん・渡辺さん・なおとさんによるパネルディスカッション・質疑応答

ここからは、西崎さん、渡辺さんに加え、自身も社会的養護を経験され、現在は「一般社団法人子どもの声からはじめよう」でアドボケイトとしても活躍されているなおとさんにもご参加いただき、気になるトピックやご質問についてみなさんにお話を伺いました。

渡辺さん:公立の学校で別室登校している生徒さんの「おしゃべり会」に参加するなか、音楽の授業には出づらいけれど音楽は好きなんだと話してくれて。やってみたいことを聴くうちに「ボイストレーニングをやってみたい!」と盛り上がり、ボイトレの機会を提供することになりました。先生でも保護者でもない会社員が子どもの声を聴き、共に学びの機会をつくることもでるのだなと思いました。
 
なおとさん:児童相談所への訪問は1~2週間に1回など「点」での活動ですが、コミュニケーションを重ねていくとやがて「線」としてつながり、徐々に打ち解けられるようになります。初めは探り探りだった子どもと理解し合い、感情を共有し合えた瞬間は、やはり心が揺さぶられますね。
 
西崎さん:家庭でのエピソードになるのですが、私がこういう仕事をしているからか、子どものほうも「ゲームをもっとやりたいというのが自分の意見表明だ!」などしっかり主張してきます。ゲームをやりたいという子どもの気持ちと、寝るのが遅くなることでの健康面の利益との兼ね合いなどについても説明しますが、「最善の利益って?」ということについては納得いくまで話し合いが続くこともあります。

西崎さん:まずは教員の皆さん自身が知ることが必要ですよね。教員になるときに全員必須で子どもの権利条約について学習するようにするとか、学習指導要領に必須事項として盛り込むなどが必要かなと思います。
 
渡辺さん:訪問している学校で子どもの権利についてのカードを紹介したところ、まず学校の先生に権利のワークショップをやってほしいといわれました。先生に機会を提供していくのも大事かなと思います。
 
西崎さん:教育委員会やPTAに、当事者である子どもが不在というのも気になっています。一緒に参加して意見を言えるといいですね。
 
なおとさん
教員免許を取る際に学ぶのはいいなと思いました。ほかにも、日常の中で広報やキャンペーン広告など、少しずつでも自然と情報が目に触れるようにするのもいいかと思います。

西崎さん:保護者と子どもはすでにパワーバランスがあることを意識することですかね。目線を合わせる、寄り添う、うなずくなどして、気持ちを受け止めていることを表現しましょう。それから大人自身もちゃんと自分の権利が守られていること、子どもを気遣えるコンディションであることも、つい忘れがちですがとても大切だと思います。

なおとさん:自分自身が児童相談所の一時保護所に入ったとき、権利について書いてある冊子をもらったんですが、そのときはそれどころじゃなくてまったく読めませんでした。ふだんから日常的に情報が目に入ることがあれば、少しずつ触れることができたんじゃないかと思います。何度も、少しずつ伝えていくことが大事かと思います。
 
渡辺さん:スウェーデンでは子どもたちが有名な楽曲の替え歌でミュージックビデオをつくり公開し「やめてといおう」と自分の体を守る権利について広まったたそうです。動画や音楽は、気軽に触れられますし皆さんのなかに強く印象を残せる可能性があります。
 
西崎さん:人権についての理解というと抽象的になってしまうのですが、実際の場面や行動に落とし込んで、本当に守れているか?とケースごとに考えていくと良いのかなと思います。

渡辺さん:言葉で表しにくくても、身体で表現していると思うのでやはり観察が大事です。ケアする、されるという関係だと言いづらい場合もあるので、第三者のかかわりがあるといいですね。

なおとさん:自分はどちらかというと言えない子どもだったので、どっちがいい?と聞かれても、(できるだけで幸せだから)どっちでもいいかなって思っちゃうんです。でも、そのとき言わなくても、自分はこう思ったとか、この人にこう言いたいって思った、ということを心の中で受け止めてあげると、整理がつきやすい気がします。
 
西崎さん:インターネットでの調査でも、「自分が何をしたいかわからない」という子どもが多いということがわかっています。意見を言ったら怒られるという経験がそうさせているのかもしれません。気持ちをちゃんと言えていないんじゃないか?と問いかけ続けることも必要だと思います。

渡辺さん:背景もちがいますし、制度を導入したからといってすぐに変わるわけではないかもしれませんが、やはり市民の活動の積み重ねや工夫が大事という点は同じだと思います。
 
西崎さん:スウェーデンで体罰を禁止したとき、反対意見も多くありましたが長い時間をかけて土壌を育んでいったそうです。海外の事例をそのまま日本にもってきて、すぐ同じようになるわけではないと思いますが、長い時間をかけて人の意識を変えていく努力をしていくことが大事だと思います。

なおとさん:やはり一緒にいること、一緒に遊ぶことが一番です。体育館でボール投げをすると不思議と心も打ち解けますね。意見カードは32種類あり、よく使われるのは「もっとゲームをしたい」「学校に行く日を選びたい」「もっと遊びたい」「ゆっくり休みたい」などでしょうか。しっくり来るものがないときは、吹き出しだけが印刷してあるカードに自由に気持ちを書いてもらいます。自分の選んだカードに動物のクリップをはさんで、表現してもらいます。

渡辺さん:子どもの声を聴こうとする人が多ければ多いほど、子どもの願いがかなえられることが多くなります。アドボケイトを育成する講座もやっているので、興味があればぜひご参加ください。
https://kodomo-no-koe.qloba.com/
 
なおとさん:今日は活動に際しての自分の気持ちも再確認することができました。もっと知りたいことがありましたら、Twitterなどにもぜひお寄せいただければと思います。
 
西崎さん:子育て中の方へのヒントがたくさん載っている「おやこのミカタ」という子育て情報のページをセーブ・ザ・チルドレンで作っています。ぜひお子さんとのかかわりに際して参考にしていただけたらと思います。https://www.savechildren.or.jp/oyakonomikata/
 
 
「子どもの権利」や「子どもの声を聴くこと」は、一人ひとりが自分らしく尊重されて生きるために欠かせないことなのだとわかりました。一人でも多くの人にこのことを知ってもらい、子どもも大人も誰もが大切にされる社会にしていきたいと願います。まずは自分の身近にいる子どもたちのことを気にかけ、対話することから始めたいと思います。


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