対談

電子書籍を端末の歴史から眺めてみる

小寺・西田の金曜ランチビュッフェ 32〜35号(2015年4月24日〜5月22日発行)

前回までの対談も電子書籍にまつわる話だったが、今回はハードウェアである、電子書籍端末の側から眺めてみようという趣向だ。お相手いただくのは、PC Watchで長く電子書籍端末のレビューを務める、山口真弘さんである。

山口さんは、パソコン周辺機器メーカー2社に勤務しつつ、兼業でPC/IT系ライターを始められたという、ちょっと変わった経歴を持つ。ライター専業になったのが2009年と、この業界にしては非常に新しい。

僕も同じく執筆業としては中途参入組なので、モノカキというよりは外野から見た電子書籍といったスタンスでお送りしたいと思っている。

電子書籍を端末の歴史から眺めてみる(1)
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小寺:山口さんが専業ライターになったのは2009年ということで、ちょうど電子書籍の端末がぽろぽろ出始めた時期ですよね。

山口:そうですね。ソニーのReaderとか、シャープのGALAPAGOSが2010年の暮れですので。

小寺:その話はおいおい後でやっていくんですけど。――近年言われている電子書籍のスタート地点って、おそらくソニーのLIBRIeと、パナソニックのΣBookとか、あのへんだと思うんです。

山口:あれが2004年ですね。

小寺:あの当時取材もしたんですけど。当時は電子書籍というか電子データの流通のルートがなく、それをいかにこれまでの流通経路を通しながら電子データも流すか、みたいなしくみづくりに、両社とも非常に腐心をしていらっしゃったところがあって。逆に言うと、それだけ抵抗も非常に大きかったということなんですよね。

でね、現時点では両方ともないということは、両方ともビジネルモデルとしては失敗してるわけじゃないですか。

山口:(笑)。ですよね。

小寺:(笑)。でもΣBookって、両面開きで液晶――液晶だったのかな? あれなんなのかな。

山口:なんでしたっけ。コレステリック液晶かなんかですかね。電池を抜いてもまだ文字が残ったままになる状態の。なので品質的にはDSTN液晶なんかとよく似ていて、お世辞にも見やすいとは言えない形でしたね。

・電子書籍端末に詳しい、ライターの山口真弘氏

小寺:そうなんですよね。当時はコストも当然かかったわけなのに、どうしても両面でやりたかった、というあたりがですね、いわゆる「本読み」の人の意見をまともに聞いちゃって、それで作った結果がアレ、っていう感じなのかなという気がするんです。

山口:あんまり量産のコストとかも関係なしにやってたという。

小寺:そうですよね。ま、だから、端末としては本読みの人はそりゃあいいかもしれないけど、ま、値段が……。あれ、37,900円もしたんですよ。

山口:ああ、それぐらいしてますね。

小寺:それで、量販店じゃなく本屋さんで売るんだ、と。

山口:そうですよね。普通の流通ルートに乗ってなかったですから。

小寺:新しいことをしたいんだろうなということがヒシヒシと伝わってはくるんですけど、結局、本屋さんもハードウェアを売るのには慣れてないわけだし、売ると言っても棚に並べるぐらいしかやりようがないわけで。

山口:ですね。今もhonto pocketとか、本屋で売ってる端末ってあって、実際に何度か買ったことがあるんですけれども、やっぱり店員さんが右往左往するんですよね。

小寺:ああー。

山口:まず、売り慣れていないというのがひとつと、店員さん自身が置き場所を知らなかったりですとか、そういうレベルで。それだけ台数が出てないというのもあると思うんですけれども、いわゆる1000円前後のものをたくさん売っていくような、そういうビジネスとはマッチしていない、という。それを強く感じますね。

小寺:まず本を読む土台を3万、4万出して買えということ自体が、いくら本が好きだからといって、そこはちょっとハードル高すぎだろ、というのはあの当時感じましたね。

山口:ですね。その状態が続いてましたね。まあ、コンテンツもそんなになかったですし。

小寺:LIBRIeは、まあ当時としてもサイズ感とか薄さとか軽さとか、今のとそんなに変わらないレベルではありましたね。

山口:そうですね。E INKがざらついているぐらいで、端末の軽さとかそのへんは十分なレベルでしたし。のちにKindleに真似されるだけのところはあったのかなという気はしますね。

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