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祝デビー

 これはどういう風(かぜ)なのかと思いました。2022年、ヤングシナリオ大賞の授賞式を終えてフジテレビを出たらよろけてしまうくらいの逆風が吹いていたのです。ああ、これは賞をもらっても脚本家として順風満帆とはいかないのだろうな。そんなことを思わせる風でした。

 風で思い出すのはそれより前の2016年、佐賀新聞社にいた頃、と言っても新人時代に辞めてしまったので元新聞記者なんていうとおこがましいのですけど、佐賀で毎年秋に開催されているバルーンフェスタを取材したときのことです。バルーンの搭乗ルポを書くのが新人の役割でした。空に浮かぶ無数のバルーンを地上から眺めたことはあったものの乗ったのは初めてで、あのとき上空に広がっていた無風・無音の世界がいまでも忘れられません。ベテランのパイロットの方が言うには、風に乗っているときは風を感じないのだそうです。

 お台場に吹いた逆風は、1年後追い風に変わりました。FMシアター『風がやむまでは』はバイクがすきなNHK熊本のディレクターさんからのご依頼でした。その方はバイクに乗りながら風がやむ感覚を味わったことがあるとのこと。それなら全国屈指のツーリングスポットである阿蘇を舞台にバイクと風でお話が書けると思いました。

 そういうわけで、いやどういうわけか、映画大学を出てテレビドラマの賞をもらい、ラジオドラマでデビューが叶いました。それもずっと書きたいと思っていた、風にちなんだ物語で。

 そういえば、バルーンのパイロットはこんなことも言っていました。「もし吹きつける風を感じたら、それは風向きが変わった合図です」。お前はまだ書いていいと言われているみたいに、一つの作品が終わる頃に次の作品のご依頼をいただきました。また風が吹いています。