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【規制改革】調剤の一部外部委託を考える

2023年9月6日に大阪府が国家戦略特区制度を利用した「調剤の一部外部委託」に取り組むことが発表されました。

https://www.pref.osaka.lg.jp/hodo/index.php?site=fumin&pageId=48799

規制改革推進会議に取り上げられ、近年賛否問わず色々な意見が出ている規制改革ですが、今回はどのような「外部委託とは」「どのような影響があるのか」などを考えてみたいと思います。


外部委託に関する規制緩和は既定路線

「調剤の一部外部委託は解禁されるのか?」と疑問に思う方も多いと思いますが、情報を集めてみると「ほぼ解禁は規程路線」と言えます。
調剤の一部外部委託に関しては規制改革推進会議で議論され、その後厚生労働省における薬剤師に関する検討会やWGでも検討されてきました。

検討会等の議論を見ていても、当初は「外部委託の是非」について議論されていましたが、途中から「どうすれば出来るのか」という解禁ありきでの議論に変わっています。

その背景として、政府が出した「規制改革実施計画」があります。

厚生労働省は、調剤業務の一部外部委託 (薬局における調剤業務のうち、一定の薬剤 に関する調製業務を、患者の意向やニーズを 尊重しつつ、当該薬局の判断により外部に委 託して実施することをいう。以下同じ。)の際の安全確保のために委託元や委託先が満たすべき基準や委託先への監督体制などの技術的詳細を令和4年度に検討し結論を得 たことを踏まえ、調剤業務の一部外部委託を 行うことを可能とするための法令改正を含 む制度整備を安全確保を前提に早期に行う ことを検討する。

令和5年6月16日「規制改革実施計画について」閣議決定

議論を通り越して、法改正を含む制度整備を行うことを内閣が閣議決定してしまいましたので、どのような形であれ「外部委託は解禁する」ということが分かります。

今後、今回の行われる「実証実験」を踏まえた検討、そして薬機法改正が行われ早ければ2024年4月には解禁されるが考えられます。

補足:法律改正には国会での審議が必要となります。早ければ年末の臨時国会で審議されると予想しています。

調剤の一部外部委託とは

「調剤の一部外部委託」とはどういうことをするのか。対物から対人業務への移行を進める中で、対人業務に取り組めない理由の一つに「調剤業務の負担が大きく、対人業務に取り組む余裕がない」ということが挙げられています。

調剤業務は「処方箋の受付」から始まり、「薬学的分析と調剤決定」、「薬剤調製業務」「監査」「服薬指導」「投薬」と流れていく中で、「薬剤調剤」に係る対物的な業務を委託することで、薬剤師業務に余力が生まれ、作られた時間を対人業務に向けられると言われています。

「外部委託」に対して「他企業への委託」と考えている方も多いですが、薬局の許可は店舗ごとであり、受け取った処方箋の調剤は同一店舗で完結されなければいけないのが現在の法律です。同一企業であれ、他の店舗で調剤を行うことは認められていません。今回外部委託という用語が使われていますが、正確には

「外部委託」・・・企業を超えた外部委託
「内部委託」・・・同一企業内で店舗を超えた外部委託

の2つに規制緩和が進められています。

規制緩和で目指す薬局業務の効率化とは

規制緩和の目的は「薬局」(特に個店)の調剤業務の負担を軽減することと言われています。しかしながら実際には、同一店舗間で調剤業務をより効率よく進めることが目的と言えるのではないでしょうか。

今回、大阪府で薬局を展開するファルメディコ㈱が音頭を取っていますが、調剤センター構想(内部委託)に関しては2016年10月24日の日経新聞で「クオール、在宅患者の処方薬 調剤専用拠点に集約」という記事で、調剤センターで一括調剤を行い、ヤマトホールディングスと提携し配送を行うという記事が出ています。

https://www.nikkei.com/article/DGXLZO08700170T21C16A0TJC000/

当然ながら、この仕組みは法律に抵触するため、実現はしていません。

在宅専門薬局が在宅医療への取組ともに広まってきていますが、基本的には各店舗で「外来+在宅」の業務に取り組んでいると思います。「外来」と「在宅」では業務フローが異なります。各店舗ではフローが異なる業務が混在することで、分包機の取り合いや調剤カゴが高く積みあがるなどの課題を抱えているところもあると思います。

このような状況に対し調剤業務(在宅処方箋)を外部委託することで、各店舗における業務フローを簡素化することができます。調剤センターでは調剤業務を効率化することができ一石二鳥となります。

「在宅専門薬局を作ればいいのではないか」という考えもありますが、そこには調剤報酬上の評価などが入ってくるのでそう簡単にはできないといった背景があります。

外部委託で薬局運営はどう変わる

外部委託解禁を望む声もあれば、懸念する声もあります。外部委託解禁によるメリットは薬局によって異なると言えます。

【規模のある企業】
各店舗で受けている施設調剤等をセンターで集中して行えることで業務の効率化が図れます。また、自社内の「内部委託」のため、投資は必要ですが、委託に伴うコストは発生しません。

【中小・個店】
ある程度の規模感がないと、調剤センターを自ら作ることは現実的ではないため、「外部委託」をする側の薬局になります。報酬設定等まだ未定ですが、委託に伴い委託料(手数料)が発生します。

調剤を行わないので薬剤調製料の算定が困難と考えます。減益に対し、対人業務による利益のカバーが必要になります。

「効率化」が大きな目的であるため、規模が大きく対応できる企業ほどメリットは大きいと考えられます。一方で自社で対応できない企業は「対物業務から対人業務」へのきっかけになるのかもしれませんが、調剤に関する報酬を対人業務でカバーするのは非常に困難と言えます。

「調剤業務により対人業務を行う時間がない」という意見から始まった議論ですが、「対人業務に取り組まない理由」が果たして本当にそうなのか、大きな分岐点となるでしょう。

これからの動向について

特区による実証実験が行われると冒頭に記載しました。調剤業務の委託を受けるコト自体は日々の調剤と変わらないので難しいことではないですが、質の担保等、ルールをどう構築するのかが課題となります。

令和5年3月に「調剤業務における調製業務の一部外部委託における 医療安全確保と適正実施のためガイドライン(暫定版)」が厚生労働科研費で策定されました。

このガイドラインでは委託先となる薬局に「ISO9001」等の第三者認証の取得を求めています。「ISO9001」は品質マネジメントシステムに関する国際規格で取得には専門家による指導等を含め高額な手数料が要すると言われています。

また外部委託の範囲を「一包化(直ちに必要とするものを除く)」としていますが、想定される施設調剤において、「一包化に適さない薬剤」や必ずしも「一包化ではない患者」などイレギュラーもあり、想定していたビジョンと異なる点が存在します。

外部委託は規制緩和されるが、「運用ルール(ガイドライン等)」がどうなっていくのかに注目が集まります。

まとめ

今回は、特区法で実証実験が行われる「調剤の一部外部委託」についてまとめてみました。薬局に対するメリットは規模によって異なり、全ての薬局が対人業務に取り組める体制づくりに繋がるかというと疑問が残る点があります。

規制緩和自体は内閣による閣議決定もあり既定路線と言えますが、外部委託をする側、受ける側にどのような体制を求めるのかが今後の大きな論点となりそうです。

薬局業界が大きな変革期を迎えている中、「これまで」と環境が大きく変わろうとしていることに気が付かなければいけません。その上で、変化に対応しつつも、何が出来るのかを考えていくことが重要になります。

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