もしツル Scene 15

 


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 夕食を食べている間、やよいはいつものようにダイニングを挟んで僕の正面に立っている。二人で食卓を囲んでいた時は、その日一日の出来事を話し合ったり、テレビやYouTubeを見たりして楽しんでいた。
 けれど今日は、やよいと向き合うことが辛かった。僕の祖父が鶴を食べていたという事実を思い出した今となっては、やよいに対する後ろめたさと罪悪感で気持ちが乱れていた。この思いを紛らわせるために、僕はウイスキーのオンザロックを5杯飲んだ。でも、一向に気持ちは収まらなかった。心は動揺し不安定だった。

 もう一杯、飲もうと思った時、バサバサと、羽根を打ち振る音が聞こえた。やよいに目をやると、彼女は首をうな垂れてしょんぼりしているように見えた。頭頂の赤い色が目の前にあった。僕は飲むのを止めて寝室に向かった。



 深夜、目覚めると、リビングルールの方から何やら騒がしい声が聞こえてきた。僕は不審に思って、足音を忍ばせてリビングに近づいた。リビングは明るかったけれど、それは電灯の光ではなかった。静かにドアを開けて中を覗いてみると、ほの明るいその部屋の中から、信じられない光景が目に飛び込んできた。

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つづく

Scene 12-15の参考文献
小学館日本古典文学全集『御伽草子集』大島建彦校注, 1974年
小学館『日本国語大辞典5』日本大辞典刊行会, 1974年
北山修・橋本雅之『日本人の〈原罪〉』講談社現代新書, 2009年
北山修『悲劇の発生論』金剛出版, 1982年


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