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秋夜の奈良旅2024 元興寺

 11月の週末に開催されていた古社寺ライトアップイベント「秋夜の奈良旅2024」の最終日に、元興寺へ行ってきた。
 同イベントへの参加は、11月3日の唐招提寺以来となる。

 元興寺は奈良市中心部、古い商家が軒を連ねる「ならまち」エリアのなかにある。
 というか、現・ならまちの一帯が、もとは元興寺の境内だった。飛鳥の都から続く古刹中の古刹・元興寺は、かつては興福寺や東大寺に匹敵する大寺院だったものの、いまは極楽坊をはじめ、域内のいくつかの寺に面影をとどめるのみとなっている。
 同じイベントを催す興福寺、春日大社、唐招提寺、薬師寺に比べれば知名度は一段落ちるが、元興寺はこのなかで最も古い歴史をもち、世界遺産「古都奈良の文化財」の一角を占めている。

 近鉄奈良駅からは、連続する3つのアーケード街——東向(ひがしむき)、餅飯殿(もちいどの)、下御門(しもみかど)を、南北に歩きとおすことになる。この界隈は、ただ通過するだけで楽しい。
 東向はインバウンドでごった返し、餅飯殿でぐんと減って、下御門でさらに減る。こうして駅から遠くなるごとに人がまばらになるのは、まったくいつもどおりだ。「きょうは、もしかしたら混んでるかも」という予測は外れた。

 元興寺の本堂・極楽堂(鎌倉時代  国宝)。まずはこちらにお詣り。

 線香の煙がつんと鼻をくすぐり、心をほぐしていく。そっと、手を合わせる。
 建築年代は鎌倉時代前期……だが、奈良時代築の僧房の3室分を内部に取り込み、その他の箇所にも古材をふんだんに再利用、大きく建て増しされたお堂である。

 最小限の間接照明にとどめられた堂内は、たいへん厳か。木造の古建築に特有の、穴ぐらにでも入ったような重厚な空気が、陰影によってさらに濃厚なものとなっていた。
 古建築といっても、やっぱり江戸時代のものと、とくに鎌倉時代以前のごく古いものとでは、この「厚み」の部分にかなりの差異を感じる。
 東日本には、そこまで古い建築物は皆無に近い。近畿圏をはじめとする西日本の古社寺を旅して「すごいな」「かなわないな」と思わされたのは、いつもそういったところだった。
 本イベントがおこなわれる5社寺のなかで、靴を脱いでお堂のなかに入ることができたのは元興寺だけ。線香と古材の香りに芯から包まれていたら、一日のつかれも吹き飛んでしまうのであった。

 切り離された僧房の残り4室分が、極楽堂の背後に「禅室」として立つ。こちらも鎌倉時代の改築で、古材を多用している。創建当初、平城京移転前の飛鳥時代の柱や瓦も、ここでは現役である。

極楽堂(右奥)と禅室
(以下、昼の写真は2021年1月1日撮影)

 禅室の細長い空間を使って、今回は須田剋太の巨大な衝立3点を展示している。通常は非公開の作品だという。

 闇夜でも、少し離れたところからでも、ガツンと迫ってくる。逆にいえば、これくらい骨太な作品でなければ、たやすく暗闇に呑まれてしまうことだろう。
 3点が等間隔に並ぶ佇まいも、すばらしい。作家性を活かした、絶妙な展示プランというほかない。

 さて、昼間の禅室は、下の写真のように扉を閉ざしている。

 この扉を含めた古材の蒼然としたゆかしさは、暗闇にあっては、感じとることがむずかしいといわざるをえない。

たまたま、同じアングル

 夜の元興寺を観ていたら、昼の元興寺が無性に恋しくなってきた。
 夜の姿という、対照的な別の顔に触れることで、昼の鑑賞がより深まる——そう考えると、ライトアップとは、なかなかにおもしろい仕掛けといえるのかもしれない。

色の違う瓦は、飛鳥での創建当初から葺かれているもの。夜は、さすがに見えなかった
極楽堂にて



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