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【絵本風】いっしょがいいね

※Wエンディングな絵本仕立てのお話。 
 SPOON内での企画「冬の絵本こうかん会(主催:うるうさん 2022年1月)」参加作品。

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「ぼくのくぅ、しりませんかっ」
 
窓の下で大きな声がしたのは、おひさまが空に顔を出した、ある朝のことでした。
 
夜露にキラキラ光るガラスの向こうに三角のお耳がぴょこん、とゆれています。
窓をあけると、そこにいたのは真っ白い猫のお耳のお帽子をかぶった、小さな男の子でした。
 
「ぼくのくぅ、しりませんか」
「きみの・・くぅ??」
「うん、ぼくのくぅ。・・・いなくなっちゃったの、しらない?」
「知らないなぁ」
 
男の子はしょんぼりうつむいたので、お耳もいっしょにしょんぼりぺたん。
 
「いっしょにさがそうか」
 
 
外に出るとぴゅうっと北風がふきつけます。
マフラーをしっかりまきつけて、きゅっと手袋をはめて、
男の子の手をにぎりました。
 
 
あっちへトコトコ
こっちへテクテク
 
ふたりは手をつないであるいていきます。
 
 
「ことりさん、ことりさん、ぼくのくぅ、しらない?」
「チュンチュンチュン、シラナイヨ」
 
「いぬさん、いぬさん、ぼくのくぅ、しらない? ふわふわのくぅ、しらない?」
「ワンワンワン、シラナイワン」
 
「ねこさん、ねこさん、ぼくのくぅ、しらない? ふわふわでちっちゃいくぅ、しらない?」
「にゃぁにゃぁにゃぁ・・シラナイニャ」
 
「お花さん、お花さん、ぼくのくぅしらない? ふわふわでちっちゃくてまっくろなぼくのくぅ、しらない?」
「・・・・・・・・」
 
 
 
トコトコ、テクテク
二人はどんどん歩いていきます。
 
真上にあったおひさまが傾いて、
最初のお星さまが顔を出すまで、
みんなに聞いて回りましたが、くぅはいっこうにみつかりません。
だれもくぅのことを知りません。
 
 
男の子はしょんぼり。
トボトボおうちにかえりました。  

夜になって眠りにつく前、男の子は窓からお空を見上げていいました。
 
「お星さま、お星さま、ぼくのくぅ、しりませんか。
 くぅ、いなくなっちゃったの。どこにいるのかしりませんか」
 
お星さまはチカチカ光っているばかり。

次の日も男の子はくぅをさがして、あっちにトコトコ、こっちにテクテク。
でも、
おとなりのおばあちゃんも
ゆうびんやさんも
おまわりさんも
みんなくぅをしりませんでした。
 
男の子はぎゅっと手をにぎりしめて、いっしょうけんめい涙をこらえます。

まあるいお月様が半分にかけて、もっともっと細くなっても、
まだくぅはみつかりません。
いつもならくぅと一緒に眠るベッドも、ずっとひとりぼっちです。
 
 
 
 
ある夜、男の子はとうとうかなしくてかなしくて、泣き出してしまいました。
 
「お月様、お月様、ぼくのくぅ、しりませんか」
 
「あのね、ぼく、おかあさんとひとりでおそとにいかないってお約束してたのに、
こっそりくぅとあそびにいったの。
 
だって、くぅとね、ゆきだるまつくりたかったんだもん。
でもね、ゆきだるまつくっておうちにかえったら、くぅいなかったの。
 
お約束やぶってごめんなさい。
くぅに・・・あいたいよう・・」
 
やわらかい月の光は、男の子の涙をただ、てらすばかり。
 
そのうち男の子はほっぺを涙でぬらしたまま、眠ってしまいました。

<SideA>
さて、また新しい朝がやってきました。
おかあさんがカーテンをあけて、
「さあ、あさですよ」
と男の子に声をかけます。
 
男の子はそっと目をあけました。
・・・あれ? ほっぺのところがふわふわほんわり。
 
男の子は飛び起きて、目をパチパチ。
そして・・・・
 
「くぅ!!!!」
 
ぎゅうっとくぅを抱きしめました。
 
ふわふわで、
ちっちゃくて、
まっくろな、
それは、ちいさな猫のぬいぐるみ。
 
雪のお庭でひとりぼっちだったくぅを見つけたのは、おかあさんでした。
雪の中で冷たくなっていたくぅは、おふろにいれてもらって、すっかりふわふわ、もとどおり。
 
男の子はもう一度ぎゅっと、くぅを抱きしめます。
「ごめんねくぅ。もうひとりぼっちにしないよ」
 
 
 
さあ、今日はおかあさんとお散歩です。
くぅといつでも一緒にいられるように、おかあさんがポシェットを作ってくれました。
これでもう、はなればなれになりません。
 
「いっしょがいいね!」
 
男の子はうれしそうににっこりくぅにわらいかけました。
 
SideAおしまい  

<SideB>
 
さて、また新しい朝がやってきました。
おかあさんがカーテンをあけて、
「さあ、あさですよ」
と男の子に声をかけます。
 
 
男の子は今日も、くぅを探しにでかけます。
 
トコトコ
テクテク
 
「ふわふわで、ちっちゃくて、まっくろな、ぼくのくぅ、しりませんか?」
 
 
 
さがしてもさがしても、やっぱりくぅはみつかりませんでした。
 
男の子の目になみだがあふれます。
「くぅ・・・どこにいるの・・・」
 
 
 
 
 
その日のおひさまがゆっくり傾くころ、男の子はさみしいまんまで、おうちに向かいます。
 
その時です。
 
「クロちゃん!」
女の子の声がきこえてきました。
 
女の子はちいさいなにかをたかいたかいをしながら、くるくるくるくる、お部屋の中で踊っています。
 
「あっ!」
 
女の子の手の中のちっちゃくて・・・まっくろなもの。
それは、
「くぅ!!!」
 
男の子がずっと探していた、ちいさな黒猫のぬいぐるみ。
女の子はもう一度たかいたかいをしたあと、ぎゅっと抱きしめて、
「クロちゃん、だ~いすき」
にこにこうれしそうに、くぅにほうずりしています。
 
 
「かえしてもらう?」
ううん、と男の子は首をふります。
そして、くぅに向かってそっと手をふって、おうちにむかって歩き出しました。
「いいの?」
「うん」
「そっか」
おとうさんは男の子の頭に手をおいて、
「えらいえらい」
とやさしく頭をなでてあげました。
 
男の子の目からひとしずく、涙がこぼれます。
「しあわせにね、くぅ」
 
ふたりは夕焼けの道を、手をつないであるいていきました。
 
 
SideBおしまい

(2022‗01)

<ご注意>
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また、万が一「朗読してみたい」という奇特な方がいらっしゃいましたら、
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無断での朗読、自作発言などは硬くお断りいたします。

<2023年のアトガキ>
実際に大切なものを自分の不注意でなくしてしまい、
どうしても折り合いがつけられなかった時に、うるうさんの企画を見て、
「絵本ならなんでもあり」の言葉につられて書いた作品です。
折り合いがつけられなかったからこその「再開エンド」。
現実と折り合いをつけるための「お別れエンド」。
この二つをどうしても捨てきれずに、主催のうるうさんに「エンディング選択式でもいいですか?」と直談判しOKをもらったという経緯があります。
いまだに、不注意を思うと泣きそうになるくらいには悲しかったので、SPOONのお仲間が大事にどちらのエンディングも読んでくださって、とてもうれしかった作品です。
どちらかを選ばなければいけないとしたら…
今ならSideBを選ぶんじゃないかな…と思います。


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