「落花」を読んで

澤田瞳子さん「落花」を読んだ感想です。

『舞台は平安時代中期。宇多天皇を祖父にもつ仁和寺の僧「寛朝」は至高の声を求め、また自らも極めんと欲して東国に下る。そこで見たものは…』


主人公の寛朝は梵唄(声明)の名手として京で知られているが、自身は音曲に優れた父・敦実親王に疎まれ寺に入れられたと思い、その鬱屈した思いと父を見返したい一心で、至高の声を持つ楽人を探しに東国に向かいます。そこで出会う、藤原秀郷や平貞盛などの官人、香取の海の傀儡女、運搬を生業としつつも盗賊も厭わない輩、「平将門」ら坂東武者たちとの邂逅がお話の序盤。そこから様々な事件に巻き込まれたり、登場人物たちの思いに揺さぶられ、中盤からクライマックスにかけてはあの平将門の乱になります。

京の人々が想像し恐れるのが坂東の地。そこに生きる人々との出会いや騒乱を見て、至高の声を目指すためだけにやって来た寛朝の中に新たな思いが芽生えていく過程が良い。また、魅かれながらも破滅に向かっていくのを予感させる将門との交わり。作中の将門は音曲にも理解を示す気の良い好漢ではあるが、その気の良さが逆に災いになる。それを何とかしたい寛朝の奔走と思うようにいかないもどかしさが切ない。もうひとつ、寛朝の従者・千歳も物語に大きく関わってくる。

乱で起こる悲劇や虚しさと、戦いの場面の描写など、特に将門の最期の戦いの場面は壮大だった。大いに楽しめました。


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