ショートショート2


(「過ぎる」編)

・ホルモンへの情熱
東京の魅力といえば、そこらへんにある街の蕎麦屋が大体美味しい事と、ホルモン系の居酒屋が関西より多い事だと思う。
東京から帰ってくるたび、「関西にも東京みたいに、コンパクトな店構えで雑多な雰囲気の豚ホルモンを取り扱う居酒屋がもっと増えますように」という願い事が浮かぶ。
流れ星に願う一文にしては長過ぎるな〜と考える。


・夏の朝
たしかにここ数年の夏は暑過ぎるほど暑い。
私が小学生時代(30年くらい前)は、夏休みの期間は朝っぱらから近所の広場に子供達が集まりラジオ体操を行っていた。
ラジオ体操が終わる時間に日の出は完了し、今日は何して遊ぼうかな、と考える頃、ぎらつき始めた太陽と、日の出前の早朝から引き継がれた冷たい風が入り混じっては私たちを包み、それこそがまさに夏の朝だった。
調べてみると、ここ1週間の平均気温は、30年前と比べて・・・と調べてみたが、30年前も今も、平均気温はさほど変わらなかった。100年単位で見れば平均気温は数度上昇しているらしいが、100年周期は人間にとって長過ぎる。
しかしこういった意識の持ちようこそが、温暖化を加速させているのだろう。


・燃える人
芸人やす子氏への一部人間性を否定するようなコメントをSNSに投稿したフワちゃんが炎上している。
大昔、AマッソのYouTubeにフワちゃんがゲスト出演した時、相槌というか口癖というか、「あ~んあ」のような喃語をたまに発して、椅子変な格好で座り、しかしそれが地下芸人って感じがして面白かった。

ブレイクしてテレビに映るフワちゃんは、その頃とは別人かと思うほど変わっていた。
世間のニーズにハマるよう努力していたのかな、と今となっては思う。
フワちゃんがSNSに投稿した内容は、陰湿なイジメのような言葉で、日本人に最も嫌われそうな内容だったから復帰は難しいかもしれない。
明日は我が身だな、と気を引き締めて、この話はおしまい。


・癒しを求めて
保護されたアザラシを飼育する施設がオランダにある。

施設のサイトでは、アザラシがぷかぷか浮かぶ水槽の様子を中継しており、普段はめっきりアクセス数が過疎化してしまっているにもかかわらず、数日前に日本のSNS上で謎にバズったことにより、アザラシの中継動画サイトに疲れ果てた日本人が大量に押し掛け、癒された人々がスーパーチャットを多量に送り付ける、という平和過ぎるピタゴラスイッチが発生したらしい。

オランダ側はと言うと、サイトへのアクセス数が一気に増え過ぎてサイバー攻撃を疑ったと言われている。
しかし、日本からの多量のアクセス・寄付があったと判明し、それに対しての礼として、アザラシの着ぐるみを着た従業員がカメラに向かって喜びの舞を披露したそうな。
全てが平和的で素晴らしい。

最近では、中国の若い女の子が、和服を着て、K-popを踊る動画がSNSにアップされていた。
国際問題や人種差別は根深いが、小さな芽を愛でる事から始まる平和も、絶対に存在する。


・ここにはない楽園
洋画でたま~に登場する、一軒家に若者がひしめき合ってはどんちゃん騒ぎしている貸切パーティーみたいなやつに、人生一度は突撃してみたい。
しかし、アジア人差別を受けたり、女性陣からコソコソ笑われたりしそうで、実際には行きたくない。
考え過ぎかもしれないけど、私はナードなので、アメフト部のムキムキ男子と、チアリーディング部のイケイケ女子にいじめられる自信、あります。
考え過ぎかもしれないけど。



・未明の決別
先日とある場所で、微量の有害物質を吸引してしまった。
生まれて初めて嗅いだようなにおいで、いやしかしこのにおいをめちゃくちゃ薄めたものなら知ってるかも?という雰囲気もある。
そんな曖昧な情報しか頭に無いにも関わらず、瞬間的に「これは有毒やな」と気付く感覚に、人間って凄いな、などとのんきに考えていた。

その刺激臭を鼻の奥で感じた直後、舌根周辺には濃い苦みが滲んでくるようで、何とも言えない不快感が口の中にまで広がった。
これは一体何なのか…と考えていると隣にいた人が、「有機溶剤やな、シンナー。」と教えてくれた。

そういえば昔、地元である宝殿駅構内にて、階段に空き缶が立てて放置されていたことがあった。
純粋だった中学生時代の私は、そのゴミを拾ってゴミ箱に捨てようと空き缶を右手で持ち上げる。
すると、少し中身が残っている様子で、飲みかけかな、などと考えるや否や、周辺にえげつない刺激臭が立ち込め、瞬間「毒や」と思った記憶がある。
振り返ってみると、あれが最初で最後のシンナーの記憶だった。


有機溶剤(シンナー等)なんて今後一生嗅がないに越したことは無いが、どれだけ望んでも今後一生嗅げない匂いは絶対にあって、私もあなたも、既にその匂いと知らないうちにお別れしているのかもしれない。

例えば、別れた恋人や友人、亡くなった家族、廃業した飲食店、卒業した学校の匂い。
私達が大切にしなければならないものに限って、眼に見えない事が多すぎる。




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