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でーん、と巨木

山も森も多い兵庫県です。信じられないような幹周りの老木や、見上げるような喬木きょうぼくも少なくありません。歴史を見てきた名木を、播州人3号が紹介します。

「でっかい木」に最初に出合うのは公園か学校ではないでしょうか。
校舎をはるかに超える高さの木々です。

西宮 大社中のメタセコイア
学びやに黄金の彩り

 白い校舎に寄り添うようにメタセコイアの巨木が生えている。深まる秋。葉が黄金に色づき、学びやに彩りを添えた。
 西宮市立大社中学校(神原)は1947年創立で、国が新制中学のモデル校に指定した。60年代には2千人以上の生徒が在籍したこともあり、今は1~3年生計804人が学んでいる。
 校内のメタセコイア16本は、54年に教職員が植えた。苗木は順調に生育を続け、今では3階建ての校舎をしのぐ高さになった。
 〝シンボルツリー〟は、時代を超えて生徒の成長を見守っている。

(2021年11月22日付朝刊より)

学びやの思い出として卒業後も記憶に残るでしょう。

天然記念物に指定された巨樹も少なくありません。

ヒダリマキカヤ
落果の最盛期
樹齢800年―養父の国天然記念物
食用で商品化 郷土のシンボルに

 養父市能座のうざにある国天然記念物で、「カヤノキさん」と親しまれる樹齢約800年の大木「建屋たきのやのヒダリマキカヤ」の実が熟し、落果の最盛期を迎えている。周辺では種子を食用としてきた伝統があり、住民たちが収穫に追われている。
 木は西日本では最大。カヤの種子には真っすぐに筋が入るが、この木の種子は、多くが左巻きのらせん状に入ることで知られる。
 実を拾うのは、地元の「能座かやの木保存会」の女性たち。木陰にしゃがみ、一面に落ちた果実からアーモンドのような形の種子を取り出す。ラジオを聞き、コーヒー休憩も挟みながら、作業は和気あいあいと続く。
 種は灰を混ぜた水に浸してあく抜きした後、乾燥させる。能座地区では元日に柿やクリと盆に飾る習わしがある。縄文時代から滋養豊富なナッツとして重宝され、戦前までは高級食用油も精製されていたという。
 「カヤの実はごまあえやクッキーに使ってもおいしい」と同会の女性(60)。
 同会副会長(65)は「カヤの実を通じ、地区の豊かな自然や郷土史を発信していきたい」と話す。実は10月末から、建屋自治協議会(養父市建屋)で販売予定。200グラム500円。売り上げはカヤの木の保護活動に充てる。

(2014年9月26日夕刊より)

大きいだけでなく、落ちた種子が食材になるとは。
天然記念物の恵みはどんな味なのでしょうか。

姿形を見れば、名前の由来にも納得です。

青玉神社の夫婦杉 多可町
樹齢千年 縁を結ぶ神木

 国道427号から一歩踏み入れると、杉の香りに包まれた。但馬、丹波、北播磨の境に建つ青玉神社。天を突く杉林が広がり、中央を縫うように細い参道が伸びる。小川のせせらぎが聞こえる。
 拝殿へ近づくと、杉の幹はどんどん太くなる。直径4メートル、7メートル…。ひときわ目を引くのが、拝殿裏の「夫婦めおと杉」だ。
 根回り約11メートル、高さ約50メートル。樹齢千年を超えるともいわれる大杉は、見上げてもてっぺんが見えない。地上8メートルから二手に分かれ、それぞれが太い幹を空に伸ばす。幹は分かれても、元は同じ―。そんな姿が、いつしか縁結びのご神木と言われるようになった由縁だろうか。
 「ここで結婚式を挙げたんです。神聖な雰囲気に感銘を受けました」。近くに住む張り子職人の男性(55)は懐かしむ。尼崎市出身の男性は田舎暮らしにあこがれ、妻(38)と移住。2003年、同神社で永遠の愛を誓った。結婚式を挙げるカップルはここ十数年で数組おり、みな夫婦円満という。
 男性は地域に伝わる高級和紙、杉原紙を使って張り子人形を作っている。男性が猫や虎などの形をつくり、妻が杉原紙で目、鼻をつけて仕上げる。夫婦で作る江戸時代の玩具は独特の風合いが好まれ、海外の観光客などに人気だ。「この自然と伝統に抱かれて生きていきたい」と男性さんは言う。
 風雪にさらされ、巨木には傷みも目立つ。04年の台風23号で先端の枝が折れ、二股の裂け目は腐食が進む。住民は裂け目が広がらぬよう鎖を巻き付け治療を施してきた。
 かつては家の神棚が供えられるなど、氏神様として信仰を集めてきた。宮司(79)は「先祖の代から私たちを見守ってきたご神木。今は地域をつなぐ役割を果たしてくれている」と話す。
 兵庫県最深部にたたずむ古木。時代の移り変わりを離れ、静かな時を刻んでいる。

(2011年5月4日付朝刊より)

二手に分かれながら、離れ離れにはならず、距離を保ちながら空を目指しています。

こちらも神木です。

ケヤキ 宍粟・庭田神社
日本酒神話の森の主

 陽光が降り注ぐ田園地帯の真ん中に、箱庭のような巨木の森がある。
 神話の時代に創建された庭田神社(宍粟市一宮町能倉)の社叢しゃそうは、芽吹きの季節を迎えていた。森の主は樹齢800年とも言われるケヤキ。大空に張り出した枝に、みずみずしい若葉が揺れる。
 高さ33メートル、幹回りは5・3メートル。県内有数のケヤキの大木は、1985年に県天然記念物に指定された。神木として毎年正月にしめ縄が張り替えられる。宮司(68)は「若葉が芽吹く今の季節が一番美しい」と話す。
 同神社は「日本酒発祥の地」ともされる。約1300年前の播磨国風土記に、今の宍粟市にあった「庭音にわと)村」の記述がある。「干飯ほしいいがぬれてカビが生え、それが酒になり、神々が酒宴を開いた」。米を発酵させて造る酒の記述としては最古のものだという。
 境内には二つの沢が流れ、ケヤキの根元近くで合流する。右側の沢に沿って神社の裏に出ると「ぬくゐの泉」があった。石垣で囲まれた地面からは今も清水が湧き出す。この泉こそが、神様が干飯をぬらした場所と伝わる。
 ただ「庭音村」に該当する地名は現存しない。風土記の記述も、同市山崎町南部を紹介する章にあり、「村は山崎にあった」という説も有力だ。
 果たして神々の酒宴はどこで開かれたのか。歴史を見守ってきたこのケヤキなら、真相を知っているのかもしれない。

(2017年5月6日付朝刊より)

桜にも堂々としたものがあります。
樹齢は1000年を超えると言われています。

千年桜 威風堂々と
養父・樽見

 樹齢千年を超えるとされる「樽見たるみの大桜」(養父市大屋町樽見)が、見頃を迎えた。高さ約14メートル、幹回り約6メートルと兵庫県内最大のエドヒガンザクラ。静かな谷あいで圧倒的な存在感を放っている。
 国の天然記念物。地元では「仙桜せんざくら」と呼ばれ、親しまれてきた。一時は枝や幹が腐り枯れかけたが、1997年から、地元行政や樹木医らが保護を続けている。幹への負担を減らすよう支柱を設置したほか、土壌改良などの治療も重ね、樹勢を大きく取り戻した。
 大阪府高槻市から訪れた会社員の男性(30)は「重厚な雰囲気があり、歴史を感じる」と感激していた。

(2020年4月2日付朝刊より)

ほかにもこんな個性的な巨木が兵庫にはあります。

常瀧じょうりゅう寺(丹波市青垣町)の大イチョウ(2021年11月撮影)
春日神社(神戸市灘区)のクスノキ。「神前の大クス」と呼ばれている(2005年6月撮影)
養父市の棚田を背景にそびえ立つ「別宮の大カツラ」(2015年12月撮影)

<播州人3号>
1997年入社。西播磨出身の先輩は酔うと大きめの街路樹に抱きついていました。「うん、うん」とか「そうか、そうか」などとつぶやいた後、「木に囲まれて育ったから、わしは会話ができるんや」と自慢していました。「よし、元気をもらった」とすがすがしい表情になることもありました。当時は冷ややかに眺めていましたが、どんな会話を交わしたのかを聞いておけばよかったと悔やんでいます。

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