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ストリートピアノは迷惑?~「文化」か「騒音」か~

こんにちは、ぶらっくまです。今回は、神戸新聞の紙面や、電子版「神戸新聞NEXT」で最近反響が大きかったストリートピアノを巡る記事をご紹介します。

JR加古川駅のストリートピアノ撤去へ 利用マナー守らぬ人に苦情原因

JR加古川駅構内にあったストリートピアノ=2023年4月

 兵庫県加古川市が、JR加古川駅構内に設置していた「ストリートピアノ」の運用を4月30日で休止し、撤去することが分かった。演奏ルールやマナーを守らない利用者がいるため、市や同駅に、駅利用者らから苦情が入っていたという。
 市は昨年11月、同駅改札前にヤマハ製のアップライトピアノを設置。誰でも自由に弾けるストリートピアノの常設は市内初だったが、半年で撤去することになった。
 市によると、通行者が不快に感じる音を奏でたり、運用時間の午前7時~午後9時を超えて弾いたりする利用者がいたという。酒を飲んだ状態や、禁止している歌唱をしながらの演奏のほか、1回10分程度と定めた使用時間が守られないケースもあった。
 同駅が列車遅延などの構内放送をする際は、聞こえにくくならないように、ピアノに利用中止の掲示をしていたが、守らない人もいたという。
 市はピアノの音量を抑える器具を取り付け、注意事項の掲示を演奏者に見えやすい場所に変更。市職員が直接、ルールを守らない利用者に注意することもあったが、改善されなかった。
 市スポーツ・文化課は「演奏を楽しみにしてくれる人もいたが、近隣に迷惑がかかる状況が続いており、残念だが、現在の場所では続けられない」とする。今後は別の場所や期間限定での設置などを検討するという。

2023年4月23日付朝刊記事

JR加古川駅構内にストリートピアノが設置されてから、わずか半年での撤去でした。上記の記事を掲載したところ、ネット配信先の「Yahoo!ニュース」では約5千件のコメントが付きました。「非常に残念」という反応の一方、「音が耳障り」といった意見もあり、ストリートピアノは「文化」か「騒音」か―という論争の様相を呈しました。

その後、放送各社もニュースやワイドショーで取り上げたほか、英BBCも報じるなど、反響が広がりました。それだけストリートピアノが各地で増えて身近な存在となり、多くの人がさまざまな思いを抱いていることの表れといえるでしょう。

関心の高さを受け、神戸新聞では約1カ月後に下記のような続報を掲載しました。

ストリートピアノ撤去波紋広がる…全国649カ所に急増、「ユーチューバーのおもちゃ」指摘も

ストリートピアノ撤去を知らせる張り紙=JR加古川駅構内

 駅や商業施設などに置く「ストリートピアノ」が、全国で急増している。設置情報を発信するインターネットサイトによると、5月21日時点で649カ所にあり、3年前の約5倍に。一方で、ルールやマナーが守られず、近隣の迷惑になるケースもある。兵庫県加古川市のJR加古川駅では、苦情を受けて4月末で利用を中止し、設置から半年で撤去された。ストリートピアノは果たして地域の「文化」なのか、「騒音」なのか。

 同市は昨年11月、同駅にアップライトピアノを設置。市によると、近隣住民らが不快に感じる音を長時間鳴らす人や飲酒して演奏する人、1回10分程度と定めたルールを守らず、3時間以上、独占する人もいたという。市職員が注意喚起するなど対策を取ったが、迷惑行為はなくならなかった。

▼動画目当てのツールに

 撤去を伝える神戸新聞記事がネットに掲載されると多くのコメントがつき、論争になった。
 「非常に残念」など惜しむ声が多かった。一方で「店員さんら一日同じフロアで働く人は、非常にストレスになる」「上手でも、隣の人と話もできないくらいの大きな音だと困る」とする意見もあった。
 また「動画を意識したパフォーマンスの場に変容している」など、演奏動画を公開するユーチューバーへの苦言もあった。
 ストリートピアノは欧州発祥。日本では、2011年に鹿児島県の商店街で常設されたのが、初めてとされる。
 情報サイト「だれでもピアノ」を運営する男性によると、18年から国内で設置が急増した。ストリートピアノを演奏する動画が、ユーチューブで爆発的な再生回数を記録し始めたことが影響していると分析する。同サイトが始まった20年5月は135カ所だったが、今年5月21日時点で649カ所に増えた。

▼「撤去例は年に数件」

 情報サイト「だれでもピアノ」を運営する男性によると、苦情で撤去される例は毎年数件程度あるという。各地の運営者は、さまざまな対策を試みている。
 東京・豊島区は22年11月、東京メトロ要町駅構内にグランドピアノを常設。区文化観光課によると、「音が響きすぎる」などの苦情が数件あり、配慮を求める掲示を譜面台に付けた。音量を抑える方策を楽器店に相談しているという。
 同サイトによると、兵庫県内の設置数は56カ所で全国最多。神戸市内に32カ所あり、うち27カ所は市が設置している。市文化交流課によると、これまで音の大きさについて近隣店舗から相談があり、アップライトピアノの背面に吸音素材を取り付けたことがある。
 阪急西宮北口駅前の商業施設「アクタ西宮東館」(兵庫県西宮市)では、20年の設置時に午前10時~午後8時だった運用時間を、約1年後から正午~午後5時に短縮した。「音が大きすぎる」などの声があったという。
 ピアノを管理するアクタ西宮振興会の事務局長は「演奏を聞くのを楽しみにしている人もいる。撤去する考えはない」と話す。一方で「不快に感じる人の声も無視できない。音が響きすぎないような措置を検討したい」とする。

2023年5月22日付朝刊記事より

記事では、ストリートピアノとの「付き合い方」についても触れました。

「弾かせてもらっている気持ちで」設置情報サイト、マナー呼びかけ

ストリートピアノの設置情報サイト「だれでもピアノ」の画面。マナー面の注意を呼びかけている

 設置情報を発信するサイト「だれでもピアノ」を運営する男性によると、ピアノは演奏者に聞こえるよりも、周囲に大きな音が響くことがあるという。適度な音量でも店舗内の音楽と混ざれば、客が不快に感じることもある。
 同サイトでは演奏する際のマナーを記載。「強すぎる打鍵に注意」などの注意点を記している。「1曲演奏が終わったら、ピアノから離れて周囲を見回してみて」と呼びかける。
 また男性はユーチューブの動画を念頭に、ストリートピアノの現状を「消費型のバラエティーコンテンツになっている」と指摘。アイドル的な人気を誇るユーチューバーの出現で、「手っ取り早く有名になれるツール(手段)として、はやり物の『おもちゃ』になっている」とする。
 付き合い方について「ピアノを弾かせてもらっているという気持ちが大切。謙遜する姿勢で弾いてほしい」と話している。

2023年5月22日付朝刊記事より

みなさんはどのように感じたでしょうか。加古川市以外でも撤去や使用中止の動きがあるほか、各地で賛否の声が上がっているようです。弾く人と、そうでない人でも意見が異なるでしょう。

JR加古川駅構内にストリートピアノが設置された際のオープニング式典。大勢の市民の期待感であふれた=2022年11月

その後、6月に入って、別の自治体で次のような動きもありました。ちょっと新しいパターンのストリートピアノかもしれません。以下の記事にある播磨町は、4月末にストリートピアノが撤去された加古川市の隣に位置します。

「演奏はマナー守って」時間外はケースに収納のストリートピアノ登場

播磨町がJR土山駅前に設置した収納ケース付きのストリートピアノ=兵庫県播磨町北野添2

 兵庫県播磨町は6月3日、JR土山駅前に同町初となるストリートピアノを設置し、オープニングイベントを開いた。同町のピアノは利用時間外はケースの中に収納でき、施錠して管理するという。
 ストリートピアノが置かれたのは土山駅前の商業施設「BiVi(ビビ)土山」。音楽を通じて町のにぎわいや住民交流の場として活用しようと、同町が4月、町内で使われなくなったピアノを募集。町民から提供の申し出があり実現した。
 企画に賛同した地元企業が、ピアノを収納するケース、ピアノのステージ、雨を防ぐ屋根を無償で提供した。収納ケースは木目調で、正面に大中遺跡公園(同町大中1)の写真がプリントされている。同町によると「ケースの提供は加古川駅(加古川市)でのピアノ撤去問題に関係なく、偶然」だという。
 利用時間は午前9時半~午後6時半。設置場所はオープンスペースだが、時間外は鍵をかけてケース内に保管される。1回の演奏は10分程度まで。他の楽器との演奏や弾き語りなどはできない。
 オープニングイベントには多くの住民が集まり、佐伯謙作町長が記念の演奏を披露。集まった人たちから拍手が送られた。佐伯謙作町長は「利用マナーを守って、ここから音楽の文化が町全体に広まってほしい」と話した。

2023年6月3日配信「神戸新聞NEXT」記事より抜粋
ストリートピアノを演奏する佐伯謙作播磨町長=兵庫県播磨町北野添2

利用時間外はこんな感じになります。

時間外には木目調のケースに鍵をかけて収納される=兵庫県播磨町北野添2

〈ぶらっくま〉
1999年入社。私自身は、他人に聞かせる腕前も勇気もないのでストリートピアノを触ったことはありません。ただ街角のピアノから好きな曲が聞こえてくると、うれしくなります。逆に、イヤホンで聞いているスマホの音楽の音量を上げてしまうような時もありますが…。
飛躍するかもしれませんが、ストリートピアノの問題は、公共空間での「音」や、音楽に対する考え方(国や世代間、個人間の違いも含め)を巡る考察にもつながる気がして、興味深いです。