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命を守れ、駅ホームの「欄干」

ようやく増えてきたように感じます。駅ホームに設置された転落防止の柵やロープです。「ホームドア」や「ホーム柵」などと呼ばれています。つい最近まで兵庫はどちらかというと整備の進んでいない地域でした。駅利用者らの命を守る安全施設の整備の歴史を、播州人3号が振り返ります。

神戸・三宮の主要駅に登場したのは2年ほど前でした。

神戸三宮駅ホーム柵完成 阪急
来年2月、全ホーム設置

 利用客の転落事故や車両との接触事故を防ぐため、阪急電鉄神戸三宮駅(神戸市中央区)の2番ホームで10日から、「可動式ホーム柵」の使用が始まった。同社では十三駅(大阪市淀川区)に次いで2例目で、兵庫県内の阪急の駅では初めて。
 神戸三宮駅は1日平均の乗降客が約10万5千人(2019年)で、阪急では大阪梅田駅に次いで多い。阪急によると、神戸三宮駅では転落事故が年間数件発生しているといい、国、県、神戸市の補助を受けてホーム柵の工事を進めてきた。
 完成したホーム柵は、高さ約1・3メートルで、電車到着時に透明なドアが左右に開く。この日の始発から供用開始になり、神戸市中央区の女性(75)は「ホームが混雑の時、走っている子どもやフラフラしている人がいると、とても危ない。柵ができて安心」。同駅では21年2月までに、すべてのホームに取り付ける計画という。
 県内では、JR西日本が14年以降、ロープが上下する昇降式ホーム柵を、六甲道駅など在来線3駅に設置。阪神電気鉄道は21年春ごろ、神戸三宮駅に可動式ホーム柵を設置予定という。

(2020年10月10日夕刊より)

形状は異なりますが、電車が駅に進入する際にロープや柵が線路とホームを隔てる仕組みです。

JR六甲道駅
神戸市営地下鉄三宮駅
JR新神戸駅。試行運転中の新型可動式ホーム柵と旧式の柵(手前)

目の不自由な人がホームから誤って転落する事故が全国で相次ぎ、各社とも設置を加速します。
冷静に考えると、特急や新快速電車がかなりの速度で通過する駅も多く、そのそばを人が歩くというのは危険な状態です。
過去の紙面では「欄干のない橋」と呼ばれていました。
少し古い記事ですが、ホーム上の危険を数字が裏付けています。

駅ホーム事故死 10年で65人
近畿2府4県 06~16年
接触防止ドア設置進まず
兵庫28人 高い死亡率

 2006年4月から16年3月までの10年間に、近畿2府4県の鉄道駅ホームで転落、列車接触事故が計441件発生し、65人が死亡していたことが、国土交通省近畿運輸局への情報公開請求で分かった。件数は大阪が圧倒的に多いが、死者数は兵庫と大阪が各28人の同数で、兵庫は死亡事故の率が極めて高い。事故防止に有効なホームドアは、兵庫では無人運転の新交通を除いてほとんど設置されておらず、整備の加速が待たれる。
 同局が毎月の鉄道各社からの事故報告をまとめた「運転事故等整理票」のうち、10年分の駅ホームからの転落事故とホームでの列車接触事故の一覧を公開請求した。自殺と判断されたケースは除かれている。
 集計したところ、10年間の件数は、大阪283件▽兵庫102件▽京都25件▽奈良21件▽滋賀10件▽和歌山0件―で、大阪が圧倒的に多かった。だが死者数は、大阪28人▽兵庫28人▽京都4人▽奈良2人▽滋賀3人▽和歌山0人―と、兵庫と大阪が最多で並んだ。
 事故件数に占める死亡事故の割合は、大阪が10%であるのに対し、兵庫は27%と高い。原因は検証されていないが、地下鉄やJR大阪環状線など各駅停車の都心型鉄道が主体の大阪に比べ、特急や新快速などの高速輸送が発達した兵庫は通過列車が多く、ホームからの転落や電車との接触が死につながりやすいとの見方もある。
 死傷者は計450人で、接触が354人、転落は96人。約半数の223人は酒に酔っており、視覚障害を含む身体障害者は5人だった。鉄道会社別の件数は、JR西150件▽大阪市営地下鉄122件▽近鉄52件▽阪急35件▽京阪29件▽南海19件▽阪神11件―など。
 兵庫の鉄道会社別の件数(死者数)は、JR西65件(18人)▽神戸市営地下鉄10件(2人)▽阪急10件(2人)▽阪神9件(4人)▽山陽8件(2人)▽神戸電鉄0件(0人)―だった。駅別では、JR須磨海浜公園5件(1人)▽同西明石4件(1人)▽同西宮4件(1人)―と続く。
 一方、ホームドアは、近畿では無人運転の新交通(ポートライナー、六甲ライナー、大阪市営南港ポートタウン線)と新幹線を除く64駅に設置済みだが、兵庫はJR六甲道駅上り線ホームのみ。

(2016年9月29日付朝刊より)

危険であると分かっていても兵庫での整備はあまり進んでいませんでした。
記事中にある通り、無人運転の新交通と、新幹線を除けば、当時、ホームドアが設置された駅はわずか1カ所でした。
整備を遅らせている背景には、落ちる人の大半が「酔客」だったことも影響しているのでしょうか。「自業自得」という考えが世間にあったのかもしれません。

相次ぐ転落事故に対し、鉄道会社が放置していたわけではありません。

ホームの端で千鳥足…ではなく
酔客事故9割 突然転落
JR西が傾向分析
ベンチ置き換え、防止策本腰

 酔った客が駅のホームから線路に転落する事故が増える中、JR西日本安全研究所が過去2年の事故映像を調べた結果、「突然線路に向かって転落する」傾向が約9割に上ることが分かった。千鳥足でふらふらと落ちるイメージとは違い、担当者も驚きの結果に。同社は結果をもとに、ベンチの位置を変えるなど防止策に本腰を入れる。
 ホームでの鉄道人身障害事故は全国的に増加。国土交通省によると2003年度の106件に対し、13年度は221件と倍増している。そのうち酔客による事故は132件で、10年で4倍に激増している。
 酔客の事故を科学的に分析できないか―。尼崎JR脱線事故を教訓に設立され、ヒューマンファクター(人的要因)を研究する安全研が2年前から調査に乗り出した。JR西の京阪神エリアと大阪市交通局の路線に設置された防犯カメラの映像を収集。酔客の線路転落や電車接触の様子などが写った映像を今年1月までで136件抽出し、事故に至る直前の行動を分析した。
 その結果、「ホーム上の酔客が突然線路に向かってまっすぐ歩き始め、そのまま転落する」が約6割を占めた。「立った状態から突然バランスを崩して転落する」が約3割。当初、多いと思われていた「ホーム端を線路と並行にふらふら歩き足を踏み外す」は約1割にとどまり、意外な傾向が浮き彫りになった。
 「想定外の結果。大半が動きだして数秒で転落している」と安全研の研究員(37)。駅業務部企画課の担当課長(45)も「漫然と注意するだけでなく、新たな対応が必要と分かった」と話している。
 同社は手始めに、新大阪駅ホームのベンチの向きを、座った時に線路と平行になるよう置き換えた。ベンチで座ったり、寝込んだりした酔客が突然立ち上がっても、線路までの距離を遠くすることで、事故を未然に防ぐ狙いだ。

(2015年3月24日夕刊より)

線路と平行になったベンチはJR以外にも増えてきています。

けれど、線路に落ちるのは酒に酔った人ばかりとは限りません。
目の不自由な人はもちろん、体調を崩した人や子どもが転落する危険もあります。ホームの端を歩いていてバランスを崩すことも考えられます。

線路とホームを隔てる柵が有効であることがはっきりしていますが、ネックとなっているのは多額の整備費用でした。
1駅で億単位の費用がかかり、柵を設置しても開閉にかかる時間がダイヤに影響しかねません。
鉄道会社は値上げによって安全対策費を捻出するという道を選びます。

JR西 来春10円値上げ
京阪神地区の都市部 ホーム柵設置などに充当

 JR西日本(大阪市)は19日、来年4月1日から、大阪―西明石間など京阪神地区の都市部(148駅)で、鉄道運賃を10円値上げすると発表した。通勤定期券も1カ月あたり300円値上げし、駅のバリアフリー整備費に充てる。本年度から整備を始めて2025年度をめどにエリアを広げ、32年度までに、同地区の全211駅にホーム柵などを設置する。
 昨年末に創設された国の新料金制度に基づき、27年度までのバリアフリー整備計画を国に届け出た。費用は474億円を見込む。
 先行整備するエリアは大阪環状線を中心に、東海道・山陽線が京都―西明石間、阪和線が和歌山、大和路線が奈良までとなる。
 ホーム柵は22年度末までに三ノ宮、神戸、明石や山陽新幹線の新神戸など15駅に整備。27年度までに尼崎、舞子、西明石など10駅にも設ける。84駅にはセンサーを置き、客の転落を運転士らに自動で知らせるシステムを導入する計画だ。
 対象エリアは25年春をめどに、東海道・山陽線の野洲と網干、福知山線の新三田などまで拡大を検討。ただ運賃は、先行エリアと体系が異なるため「体系の共通化の検討を進めた上で調整する」(同社)という。
 来春の値上げは乗車、降車の両方が先行エリア内の場合のみを対象とし、新幹線も含まれる。通学定期は値上げの対象外。
 阪急電鉄(大阪市)、阪神電気鉄道(同)、神戸電鉄(神戸市兵庫区)、山陽電気鉄道(同市長田区)なども来春、同様に値上げする予定。

(2022年8月20日付朝刊より)

値上げに対して賛否は分かれるでしょうが、危険を大幅に防げるのであれば理解も広がるのではないでしょうか。

年末を迎え、お酒を飲む機会が増えます。
「酔って落ちる方が悪い」ではなく、ホームから人が落ちない社会を目指す方が暮らしやすいように感じます。

<播州人3号>
1997年入社。駅ホームで電車待ちの先頭に立っていると、もしも落ちたらと考えることがあります。ホームによじ登れるか、ホーム下の空きスペースにもぐるべきか、電車が接近していたら反対の線路に逃れられるか―。ホームに柵があれば、そんな想像をしなくて済みます。橋をわたるときに落ちる場合を想定しませんもんね。

#ホームドア #ホーム柵 #転落防止 #鉄道の安全