漫才師の旬は秋から冬にかけて

10月初旬。秋の季語に「M-12回戦に向けたネタ整理の叩き方」を一言で表す語句がないことが惜しい。そのくらい、ガラッと2回戦前夜だなという肌感覚を覚えている今日この頃です。まだギリ半袖なのに。


思えば、今の推しコンビを本格的に好きになったのは、2年前のちょうど今ぐらいの時期だった。耐久ライブ(懐かしい響き!)でさすがに夏のアツさを使い切って、長袖に袖を通す頃には気づけばあれよあれよと推しを追っていた2019年。周りよりも遅く短いM-1予選を過ごした2020年。そして、今までよりも胸を張って「この人たちのことをたくさん見てきたぞ!」と言う想いで迎えた2021年の、秋。いつだって彼らは圧倒的に面白いけど、やっぱり、旬はいつですかと聞かれたら私は「10月から冬にかけて」と答える。

M-1に挑む若手漫才師たちは、予選を勝ち進んでいく最中に「ネタの調整」をするのが通例だ。期間や場所ややり方はそれぞれだけど、彼らの場合は、初秋に「ネタの総おさらい」をする。私はこの時期が大好きです。普段はほぼ毎回違うネタをやっているから次はいつ出会えるかも分からない膨大なネタの数々。色んなパターンの中から出来がよくまとまった既存ネタ達をポンポンと放出していき、その中から2回戦やその先にやるであろうネタを徐々に絞っていく時期を私は勝手に「総おさらい」と呼んでいる。彼らが日々生み出す手数の異常なまでの多さと、与えられた場数が豊富なよしもと若手ならではの特権を生かした唯一無二の武器。かっこいいと思う。見ていてもすごく楽しい。

推しは、今の劇場の寄席スタイルが芸風にものすごく合っていると思う。というのも、普段やっていることが関西の大師匠のそれに近いように見えるから。決まりきった流れだけじゃなく、ただ自由に面白いことを2人で話す余白を十分に残してその場で作り上げていく普段の寄席での姿は、某先輩コンビがラジオ内で語る祇園花月の師匠達にも重なる(花月で師匠レベルの人を見たことがないので、あくまでラジオで語られる描写に親近感を覚えたというだけ)。時に周りの人から「異常者」「怖い」「化け物」と畏怖混じりに称される強心臓から成る舞台上での振る舞いは、上手いこといかなかったり、勝手に不安に思えたりする時もある(ちなみに勝手な不安は1回戦前後がピークで、フォロワーにほぼ0調整だったんだけど…!?と話したりもした。余計なお世話にも程がある)。そしてこれは、ひたむきに1つのネタを磨きあげるような"真面目な"スタイルではない、と思う。あえて嫌な言い方をするなら、才能がある奴の魅せ方だ。もちろん私だってひたむきに情熱ロードを猛直進する人たちが大好きで、些細なボケの言い回しや順番に至るまで練り上げる過程を見守ることの素晴らしさは十分知っている。でも私は、彼らが伸び伸びと面白いことをする姿も、本気の目できっちりと一つ一つのボケツッコミを繰り出す姿も、どっちだって愛してしまっている。この2つは矛盾しない。だって、何より本気のネタが面白いから余白だって愛してるんだ!…と、1番実感させられるのが初秋の総おさらい〜冬のまとめの時期だと私は思っています。「化け物の本気」的な、例えば賞レース本番で見たこともないボケを突然入れちゃうとかこっちからしたら最大級の"ズル"も、私はどうしても好き。好きです。だからあなたたちを全力で見に行ってます。


とは言え、彼ら以外の私が好きな面白い人達のことも私は今見たい。ここまで語っておいてなんだけど、今の時期の漫才師が特に面白いのなんて当たり前なのよ。誰にしたって本気なんだから。普段神保町近辺にいることの多い私。他の人ももっと見たいよ〜!とジタバタしていたところ、先日の傾向と対策がかなりこの需要を満たしてくれました。傾向と対策(前の週に同タイトルの別ライブがあったので紛らわしいけどバティオスの方)めちゃくちゃ良かったな。「3分ネタと4分ネタを2本」への取り組み方、この時期の他事務所勢は正直本気度が全然違うと思っちゃった(直前に見た"いつものライブ"もすごく楽しかったから劇場には劇場の良さがあるってフォローはさせて欲しいけど、平均的な"ネタに対する本気度"は断然バティオスの方がアツかった。ただ、ライブの趣旨はもちろん根本的な場数の問題もあるので一様に比べるのは愚か)。久しぶりにみ〜んなネタおもれ〜〜〜〜〜!!!を全身で浴びれた気がする。好きな人達はもちろん最高だったけどマリブラがとにかくエグかった、とだけ。行きたい!に従って行って良かった。


どうしても傾向と対策が良かった話をしたくて脱線しちゃった。なんか失礼もたくさん言った気がする。スクガのことも私は大好きだから、また別の機会にちゃんと語れればいいなって思ってます。

好きな人達がどう頑張っているかという軌跡を見ることってほんとに楽しい。同じネタばかりで申し訳ないと言う人がいるけど、そんなこと考えないで満足いくまでやって欲しい。同じネタが嫌になっちゃうなら息抜きにとびきり変なのをやったっていい。そして、本番ではとびきり会場を揺らして欲しい、あわよくばその渦の中にいれたら何よりも幸せ。


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