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シン・長田を彩るプレイヤー ~長田を牽引するゴム職人~(前編)


今回は、株式会社富士高圧の代表である東田文太郎さんを取材しました。
富士高圧では各種靴底用ゴムをメインに扱っています。大々的な広告を打つことなく、口コミだけで人気に火がついているとのこと。前編では、商品開発に至った経緯や商品についてお話ししていただきます。


~脱サラし家業を継ぐ決意~
-記者- 
自己紹介と簡単な経歴を教えていただけますか?

-東田さん-
株式会社富士高圧の代表取締役の東田文太郎と申します。
神戸市長田区で育ちました。
社会人になってからは芦屋で一人暮らしをして、今も芦屋に住んでいます。
高校ではサッカーに、大学ではアメリカンフットボールに明け暮れていました。

-記者-
スポーツに専念された学生生活だったんですね。

-東田さん-
スポーツばかりで、勉強はしておりません(笑)
そして、富士ゼロックスに就職しました。
ただ、実家の家業の創業者である祖父がかなり高齢だったのと、家業である会社の古い家屋、機械を見たときに放っておけない、僕がどうにかしなければという気持ちが湧いて、富士ゼロックスを退社し、家業を継ぐことを決意しました。

-記者-
退社後は家業一筋で働かれていたということですか?

-東田さん-
文系だった僕はゴムの配合のような化学はさっぱりわからず、
会社も機械もとても古く、先が見えなかったので両親に内緒で飲食業を始めました。

-記者-
飲食業はどのくらいの期間されていたのですか?

-東田さん-
約20年で合計10店舗出店しました。
飲食業とゴムの家業を並行してやりましたが、正直飲食業のほうが楽しくて、ゴムが面白くなくて。
でもそのゴムを面白くしようと頭を絞ってアイディアを出していました。
小さな町工場なので大手に負けないような独自性のある商品づくり。
それと、その感触からマシュマロなどの食べ物の名前を付けるなど、わかりやすい表現の素材の開発を行いました。
商品名で商標登録を取得したり、金型の意匠登録、のちに生まれる医療用インソールの製造特許なども取得しました。

世の中にありそうでないお客様に喜ばれる素材、製品を開発することで大手ブランド、企業さまからご指定、ご注文を頂けるようになってきました。

-記者-
おじいさまが創業されたと思うのですが、小さいころから関心があったんですか?

-東田さん-
家族経営というと母親や子供も仕事を手伝うという形態が多いと思うんですけど、弊社はあまりそのようなことはなく、僕が会社に行くのはお正月に機械や事務所に鏡餅を置きに行くくらいでした。
職人さんが工場でモノづくりをされているんやなっていうイメージがありましたが、年季が入った家屋を見るとうちは古いゴム屋さんだという事は理解するようになってきました。

-記者-
おじいさまの跡を継いだとき葛藤はなかったんですか?

-東田さん-
そうですね。富士ゼロックスは、その当時もP&Gと並ぶくらい福利厚生がよくて、男性の育休をいち早くとり入れる会社だったんです。
ただ、家業がピンチだったので、悩みに悩んで家業は続けていかないといけないなって思って入りましたね。
家族が1番だと思って育ってきたので、家族のためにもなることが僕の支えでした。

~憧れと刺激を受けた出会い~
-記者-
平行してやっていた飲食業は20年で10店舗まで拡大されて、そちらの方が楽しかったとおっしゃっていたのですが、ゴムの工場も面白くしようと思ったきっかけは何ですか?

-東田さん-
これは明確にあるんですけどね、飲食業でいろんな人と出会ったんです。女優の大地真央さんのご主人の森田恭通さんという世界的なインテリアデザイナーと出会ったことです。

僕が30歳の時に「絶対お前いける、飲食業の才能あるよ。一緒に東京行こう」って言われたんですけど、家業を放っておけないということで。

彼が無名の時から、世界に出ていく姿を見ていて、刺激を受けました。
僕も「ゴムのまち長田」「靴のまち長田」で、靴のアウトソール・インソールの素材メーカーとして世界に出るぞと熱く思いました。

実際、東南アジア・中国・ヨーロッパのNo.1のゴム屋さんを30代で回って、
我々長田のゴム、弊社製品が海外と比較してどのレベルにあるのか?
強み、弱みは何なのか?を知りたくて自分の目で確かめに行き、
実際にタイ、中国、イタリア、世界のラバーメーカーの工場に入って弊社オリジナル素材の生産テストをたくさん行いました。

僕の言うゴム屋、ラバーメーカーというのは靴のアウトソール用のゴム=ラバーを製造する会社なのですが、その中でもイタリアのアウトソールメーカーは世界でもトップクラスの技術力です。
しかし、ゴムの中に炭酸ガスのような微細な気泡を閉じ込めるエアラバー素材があまり得意ではないのかもしれない!という事に気付き、調べてみるとエアラバーは第二次大戦後すぐに世界で初めて神戸の長田で開発されたことがわかったのです!

-記者-
長田が発祥なんですね。エアラバーはどんな製品なのですか?

-東田さん-
その前に長田ではエアラバーとは呼ばず、スポンジと呼びます。
僕はなんだか軽くて安いイメージに受け取られるスポンジと呼ぶ事に違和感があるので敢えてエアラバーと呼んでいます。
なぜならば、欧米で開発された硬くて強いラバーの中に気泡を閉じ込めることで軽くなるだけでなく、エアーが介在することで衝撃から守る安心安全素材になったり、ウレタン素材と違って抗菌・抗ウイルス剤、天然素材など様々なものを入れることができるのですごく可能性が広がります。
この日本の誇るべき有能な「独立気泡の発砲ラバー、エアラバーが日本のラバーである」と位置付けました。

~新たに切り開いたインソールの可能性~
―東田さん―
歩行は衝撃と反発の連続運動なのに、テンピュールに代表されるウレタン素材は低反発での衝撃吸収のみで、次の蹴り上げを補助する機能がありません。しかもインソールは厚みが薄いので底がついてしまい衝撃を緩和することはできません。
衝撃と吸収によって足の裏って非常に変化しますが、足の裏にずっと密着して緩衝するような、歩行専用のラバー素材が世の中にない!と思い15年前に開発しました。
そしたら、医療用インソール素材として使われだして。医療機関では魔法のゴムと言われました(笑)

基本的に医療機関で作るインソールは矯正することのみを考えているので素材はとても硬いんです。足元から全身に歪みなど歩行や動作に問題がある人に対して効果のあるインソールには、同素材に衝撃吸収性と高反発性が兼ね備わっているエアラバーを基本とした弾力性のある素材が適していると判断されて「マシュマロ」というエアラバーが使用されたと考えております。

さらにこれからは予防医療の時代になってきているのに、動作改善を実感しながら作るインソールがない!ということにもびっくりして、ないんだったら作ろう!という事になりインソール自体の開発に至ったわけです。

-記者-
医療の分野にまで発展されたのですね。
どのように製品開発を進められたのですか?

-東田さん-
医師監修のもと、インタフェースの専門家である義肢装具士、動作分析の専門家である理学療法士と共に、今までになかった「動作改善を実感しながら作る」マイソールというオーダーメイドインソールを開発しました。
ちなみに日本、中国、アメリカ、香港の4か国で製造特許を取得済です。

マイソールにはマシュマロラバーが使われていますが、「動作改善を実感しながら作る」ので医療のみならず、スポーツ、一般、子供・高齢者の足育などすべて横軸に使えるこれまでにないインソールとなりました。

同じ人が生活するにあたって、いろんな用途に使えるインソールで、なおかつ、その人の弱点を克服するインソールだったら完璧ですよね。
サッカーでも野球でもどのスポーツでも有効なんじゃないかなっていう仮説を立てて、これまでの9年間、色んなスポーツで困っている子供さん、学生、アスリートの弱点克服インソールを作って参りました。

簡単に言いますと、本人が弱点を克服することを実感した形状を、そのままインソールにするいう製造特許なんです。

富士高圧のエアラバーとマイソールのブランディングは、共にその開発理念である足指を使って歩く日本人の歩行文化を履物とインソールに落とし込み、世界へ発信するというものです。
鼻緒をつまんで足指を使って歩くというのが日本人の歩行文化です。足指を自由自在に動かし、足裏全体で身体を支えることができれば、高齢になっても歩くことができ、筋力、血流改善で健康寿命が延び、人生が豊かになる!
そんなエアラバーの可能性を現代の「わらじ」として蘇らせました。

-記者-
ホームページで拝見しました。

-東田さん-
オートマチック5フィンガーエクササイズ!
歩行するだけで足指が自動的に動いてトレーニングになることは、誇るべき日本人の歩行文化の再現であり、さらに自分の足の裏全体を使えるようになることは自らで自らの弱点を克服することに繋がります。
マイソールも同じ考えを医療メソッドで表現しているので靴中心の欧米のインソールとは考え方が違いますが、今欧米でもその重要性が認知されつつあると感じています。

~たった2年で広がる商品の魅力~

-東田さん-
僕たちはほぼ広告などはしていません。
ただ、気持ちいい感触のエアラバーを足裏で感じてほしい!触ってほしい!ので、昨年と今年は全国数か所でポップアップを行っただけですが、履物からヨガマットまで色んなブランドさんからオファーを頂きダブルネームでのコラボレーション商品が誕生し、現在も高い評価を頂いております。また、来年は世界に精通するブランドさんから世界での販売が決定しています。


前編では、家業を継ぐに至った経緯や商品を開発する経緯を聞いていきました。ゴムの可能性を見出し医療分野まで展開した東田さん。
世の中にない商品を開発することに対して、力強く、楽しそうにお話しされる姿が印象的でした。次回は、富士高圧の今後の展望や長田に対する思いについて踏み込んだ話を伺います。
(編集:すい、かかけつ)