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【長田区地域づくり活動助成】~小さな畑から広がる日本とベトナムの交流~

【団体名】多文化共生ガーデンKOBE・ながた友の会

長田区駒ヶ林町の民家が立ち並ぶ一角で農場長のトゥアンさんを始めとしたベトナム人の方々が中心となって、「多文化共生ガーデン」という畑を運営されています。日本で暮らす中で、ベトナムの野菜を育てたいという想いを持っていた1代目農場長と、空き地の管理に困っていた土地所有者の方との双方の利益が合致して生まれた畑です。近年課題となっている空き地を利活用した取り組みとして注目されています。
取材当日は、畑にソーラーパネルの設置を行った日でした。畑作業に訪れていたトゥアンさんやリィさん、代表の金さんにお話しを伺いました。

【多文化共生ガーデンが生まれたきっかけ】
―記者―
どのような経緯でこの「多文化共生ガーデン」は生まれたのでしょうか。
 
―金さん―
2018年に、ベトナム人から「ベトナムの野菜を育てたいけど住んでいるところの敷地内は難しいのでどこかいいとこないかな」と相談を受けました。その頃、空き家空き地の問題や長田区は緑が少ないという課題もあったので、畑を作れないかと思い動き出しました。空き地だった土地の所有者はもちろん、市の担当者やすまいるネット、自治会などの理解や協力があり、1年半かかりましたが「多文化共生ガーデン」を始めることができました。
 
【畑で獲れた野菜を通じて】
―記者―
今、畑ではどんな野菜を育てていますか。
 
―トゥアンさんー
コウシンサイやパクチー、レモングラスといったベトナムの野菜の他に、キュウリや大根、ホウレン草など日本でも馴染みのある野菜もあります。好きなものを植えていいので、みんな各々が育てたい野菜を自由に持って来て育てています。良い野菜が獲れた時には、近所の人にも配っていて、そこで地域の人達と話すことで交流するきっかけになっています。毎年大根を近所に配る”大根サンタ”という取り組みもしていて、地域の方にもとても喜んでいただいています。
 
―記者―
ベトナム料理ではよく野菜を使うのですか。
 
―トゥアンさん―
パクチーなどたくさん使います。日本の野菜はスーパーですぐに買うことができますが、ベトナム野菜は日本のお店ではなかなか見かけません。売られていたとしても値段が高いので、自分で育てています。
 
―記者―
週に何回くらい畑のお世話に来ているのですか。
 
―リイさん―
メンバーは全員で10人以上いて、中心となって活動している4~5人が毎日交代で水をやりに来ています。朝のジョギングついでに来ることもあります。毎日の習慣ですね。
 
―記者―
たくさんの方でここを運営されているのですね。皆さんはどこでお知り合いになったのでしょうか。
 
―トゥアンさんー
元々はみんな、たかとり教会で出会いました。住まいの近所に畑ができたことで次第に“自分たちの畑”と思うようになり、生活の一部となりました。みんなで楽しく活動できていると思います。

【困難を乗り越えて起こった生活への変化】
―記者―
畑を始めた当初、この土地は土が硬くて整備が大変だったとお聞きしました。
 
―トゥアンさん―
当時は硬くて粘りがある粘土っぽい土でした。元々は住宅が建っていたのですが、解体した後はブルーシートをかけたままで、不法投棄もあり草もかなり生えていました。大根が真っ直ぐに育たない環境で、栄養もなく野菜を育てるには大変でした。でも、みんなで整備を行い今は栄養のあるいい土になりました。
 
―記者―
その大変さを乗り越えたあと、今も苦労していることや大変なことはありますか。
 
―トゥアンさん―
特に苦労したり大変だと感じることはないですが、風で物が飛んで近隣の家を傷つけないかは心配です。今は楽しいと思うことの方が多いです。今日も最初は仕事があるから来られないと言っていた人が多かったですが、みんなここでの活動を楽しみにしているようで、結局仕事を休んでこっちに来ました。
 
―記者―
遠い貸農園ではなく、近所で皆さんが楽しく自分たちで運営できたことが成功への鍵だったのかもしれないですね。
先ほど地域との交流が生まれているとお聞きしましたが、みなさんにとっての変化はありましたか。

―トゥアンさん―
みんなで集まれる憩いの場所になっています。この畑があって本当に良かったと思っています。

―リイさん―
ベトナム人同士でも、出身地が違うとお互いに知らない野菜があります。多文化共生ガーデンで初めて知った野菜もあり、日本人との交流だけでなく、ベトナム人同士の交流が畑で生まれています。

―記者―
活動をするにあたって、大切にしていることはありますか。

―トゥアンさん―
とりあえず怪我をしないようにと、楽しみながらやることですね。家族や仕事のことの情報交換、子ども同士も交流するようになりました。

【災害時にも活躍する畑へ】
―記者―
今回ソーラーパネルを設置することになったきっかけは何だったのでしょうか。

―トゥアンさん―
この畑は誰でも使える場所なので、地域のために何か場所を活用できないかということで金さんが提案してくれました。
バッテリーを蓄電できるパネルなので、万が一、災害が起こった際に備えて設置しました。例えばスマホの充電や、お湯を沸かすことができます。誰でも使える場所なので、何かの時に活用できればと思っています。1000Wのドライヤーを15時間使い続けることができるくらい電力が溜められるそうです。あ、奥さんに怒られたらこっちに逃げてスマホを充電しようかな(笑)

【日本で活動する中での想いとは】
―記者―
トゥアンさんご自身のことについてお聞きしたいのですが、日本に来てどのくらいが経ちましたか。

―トゥアンさんー
兄が先に日本に来ていたのですが、呼んでもらい住むようになりました。あっという間に28年が経ちました。

―記者―
ベトナムでも畑や農業をされていたのですか。

―トゥアンさん―
親がベトナムで胡椒やコーヒー、米や野菜を作る農家をしていたので、当時まだ19歳くらいでしたが、何年間か農業をしていました。畑で作業をしていると昔を思い出します。

―記者―
今後、「もっとこうなって欲しいな」と思うことはありますか。

―トゥアンさん―
ベトナム人と日本人の間にまだ見えない壁を実感することが多いです。地域での掃除当番などに、外国人だから声をかけても興味がない、参加しないのではないかと思われているように感じる時もあります。日本社会にもっと溶け込んで仲良くしたいなと思います。