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『働かないふたり』

『働かないふたり』(作・吉田覚)という漫画にハマっています。人生で読んだ漫画ベスト10に入るくらい好きです。

ニートの兄妹、守と春子の日常を描いた作品です。大したことは何も起きません。が、キャラクターがみんな魅力的なので、『サザエさん』のように無限に読んでいられます。無限に続いてほしいです。そして、私は何度も泣いています。ニートの日常を見ているだけで泣けるなんて、素敵な作品です。

ところで、この作品について検索したら、「いつまでも働かない2人を見ているとイライラする」という読者の感想が少なからずあることを知って、絶句しました。
これを読んでイライラするって、どういう心理なのでしょう。

ひょっとして、「自分はやりたくもない仕事に励んで毎日汗水流しているのに、働かないヤツらが幸せそうに生きているのは許せない」という感情なのでしょうか。「いつまでもこんな自堕落な生活をしていて、こいつら、将来についてどう考えているのか」と説教したい気分なのでしょうか。
それとも、「自分もニートだけど、ニートの現実はこんなに生やさしいものじゃない! もっと不幸だし、もっと親に迷惑かけてるし、こんな幸せなニート、許さん!」という感情なのでしょうか。

いやいや、まさか……。
「主人公が人殺しをするのが許せない」とかなら、まだわかりますが(いや、主人公が人殺しをしても何ら問題ないのですが。フィクションですから)、「主人公が働かない」ことにイライラするって(繰り返しますが、フィクションなのに)……一体漫画に何を求めているのでしょう。

タイトル、『働かないふたり』ですよね? タイトル通り、主人公は働かないだけですよね? なんでイライラするんでしょう。
ドラマ『相棒』を見て、「こいつら、いつまで相棒でいるんだ?」とかイライラしませんよね?

登場するキャラクターがみんな愛おしいのですが、特にナイスなのが丸山くんです。主人公であるニートの兄、守の友人です。彼女募集中で、巨乳好きで、いつもエロいことを考えている愛すべき社会人です。

そんな丸山くんの株が一気に上がるエピソードがあります。彼は守と一緒に合コンに行きます。合コンで好みの女性に出会った丸山くんは、テンションが上がり、帰り道で連絡先を交換しようとします。

ところが、その女性は真面目に丸山くんをたしなめるのです。友人の守がニートであることに嫌悪感をあらわにして、丸山くんに対して、「丸山さん、あんな人と友達でいるの、やめた方がいいですよ」と……。
ここで丸山くんは、冗談まじりに笑いながらも、彼女に反論します。
「何も知らねーのに、人の仲間悪く言うなよ」

こうして丸山くんはせっかく好きになった女性とあっという間に破局し、連絡先を交換し損ねてしまいます。
丸山くんは、彼女よりも友情を選んだのです。

『働かないふたり』はこのように、「ニートに対して否定的な人間」が時々登場します。「いつまでも働かない2人を見ているとイライラする」という一部の読者が現実に存在するように、作品の中にもそういうキャラが登場するんですね。それが作品の中で良きスパイスになっています。

一方で、ニートに対して深い理解を示すキャラクターも出てきます。春子が働いていないと知った近所のおばあさんが、「ニートってやつね。ステキじゃない」と微笑むシーンがあります。
この一コマ、この一つのセリフで、私は泣きました。このシンプルなセリフに、作品の魅力が全て内包されているんですね。

守にも春子にも、ずっとニートでい続けてほしいです。そういう兄妹がいることを許してあげてもいいでしょう。漫画の中くらい。いや、現実にも……。

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