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#SaveTheCinema 映画リレー 第5回『ライク・サムワン・イン・ラブ 』

地元の映画館・長野相生座ロキシーの支配人、田上真里さんからバトンを託された7日間映画リレーチャレンジ。5日目です。好きな映画を挙げていきます。

『ライク・サムワン・イン・ラブ』(2012)。日本とフランスの共同制作。『友だちのうちはどこ?』『そして人生はつづく』などのイランの巨匠、アッバス・キアロスタミ監督が、東京を舞台に日本語&日本人キャストで撮影した作品。スタッフも日本人です。外国映画に登場するヘンテコなニッポンはほとんど感じられず、でもどこか違和感のある身近な風景と空気感が魅力的。

「日本人は会話の沈黙を恐れる」と言われます。キアロスタミ監督の映画は沈黙が魅力であり、本作ではその沈黙が不穏な気配としても作用しています。情報量が多く、こねくり回したストーリーの映画がこの世には多い中、その反動か、「ただゆったりと時間が流れている映画」に時々惹かれます。この監督、この映画には、その味わい深さがあり、何かとてつもなく劇的なことが起きるわけでもなく、かといって何も起きないわけでもない。

老人の美少女に対する性愛譚と見せかけて、キアロスタミ監督の演出ゆえに上品な匂いを醸し出しつつ、老人がついた嘘から物語は歪にうねっていきます。起承転結で言うと「転」の途中で話はブツ切れになり、現実を突きつけられて幕切れに…。
84歳で初主演の奥野匡、デートクラブで働く女子大生・高梨臨、そのDV彼氏・加瀬亮といった主要キャストが素晴らしいです。

冒頭、上京してきた祖母との待ち合わせを無視した高梨臨が、タクシーの窓ガラス越しに新宿駅前で待ち惚けている祖母を見つめつつ通り過ぎる際の無言の芝居が秀逸。「ガラス越し」と「嘘」が本作のキーワード。沈黙が画になるのは、優れた映画の証。

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*脚本担当作、東映まんがまつり『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』公開待機中!

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