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院長は絶対知っておきたい!動物病院経営における法的なリスクヘッジの話

ペットに関わる様々な分野のトップランナーの皆さまにお話を伺うAnimal Professional対談。第8回は弁護士で、テレビ番組のコメンテーターを務めるなどメディアでも活躍中の田村勇人先生をお迎えし、動物病院経営における法的なリスクヘッジの必要性について伺いました。

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小林:田村先生とは、先生が東京都獣医師会の顧問弁護士に着任されたのがきっかけで知り合いました。今では病院のトラブルについて相談させてもらったり、僕が主催している「こばやしゼミ」に登壇してもらったりと、親しくさせていただいています。先日のこばやしゼミでは動物病院経営にも法的なリスクヘッジが必要だという貴重なお話をしていただきましたが、まだ日本では弁護士と顧問契約を結んでいる動物病院は多くないですよね。弁護士と顧問契約を結ぶという発想自体がない先生も多いのかもしれません。顧問弁護士なんて大げさな・・・という感じで。

田村:そうですね。もちろん、「何かトラブルが起きたら、その都度、弁護士に相談するから顧問は要らない」という考え方もありますが、経営者にとって顧問弁護士を置くメリットは、トラブルを解決することだけでなく未然に防ぐことでもあるんです。事件が起きてから電話して予約取って数日後に初めて相談というよりも携帯電話ですぐに対応を協議してくれて解決に走り出せるということがトラブルを未然に防ぎます。飼い主さんだけでなくトラブル対応は最初の入り方が重要なので。何より、病院の中で孤独になりがちな院長に法律に詳しい「味方」がいるって安心じゃないですか?実際にうちの事務所と顧問弁護士契約をしている先生からは「顧問弁護士がいることが、自分にもスタッフや家族にも安心感を与えてくれている」という声が聞かれます。

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小林:確かに、安心感は違いますね。動物病院で弁護士・・・というと、医療をめぐる飼い主さんとのトラブルを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、実際には治療費の未払いやSNSでの誹謗中傷、スタッフへの嫌がらせもありますし、スタッフの管理や労務上のトラブル、ご近所トラブルまで、実にさまざまなトラブルに遭うおそれがあるんですよ。私自身も動物病院を経営して28年になりますが、その間、何度もトラブルに悩まされました。最初は自分で向き合っていましたが、そうすると肝心の診療にしわ寄せがいってしまうんですよね。すごく時間も労力も奪われてしまって。

田村:そうなると、スタッフの皆さんが不安になって診療に支障が出たり、最悪の場合、スタッフの離職といった新たなトラブルの引き金にもなりかねません。

小林:ですよね。僕は自分の苦手なことは、得意な人にお願いするのが一番だと思っているので、今はトラブルの気配を感じたら、すぐに田村先生に相談しています(笑)。

田村動物医療は非常に専門性の高い分野なので、例えば飼い主さんとの間でトラブルが起きたときに、忙しい診療の合間を縫って、トラブル相手の飼い主さんに状況や事実をわかりやすく説明したり証明したりするのは至難の業です。医療ミスの問題を相談するときに、判例から逆算して聞くべきことを聞いていたかを聞き取って、これは謝るべき事案かご説明を差し上げて納得していただく事案かを判断出来ることは、院長先生だけでなく飼い主さんにとってもプラスになることのほうが多いのです。

小林:顧問弁護士を置くことで、トラブルの深刻化・長期化を避ける効果も期待できるということですね。

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田村:結果としてそうなる可能性は高いと思います。ただ、それよりも大切なのはトラブルが起きないようにすることですよね。そのために私が獣医師の先生にアドバイスしているのは、①説明を徹底すること、②同意書を交わすことの2つ。①の説明については言わずもがなですが、治療方針や内容について飼い主さんとしっかり向き合って説明し、納得してもらうことです。たとえ治療の甲斐なくペットが亡くなってしまった場合も、最後を看取るまでの経過に飼い主さんが納得していれば、トラブルには発展しないはずです。
そして、②の同意書は飼い主さんの納得感を高めるためのツールです。つまり、獣医師が一方的に治療方針や内容を決めたのではなく、飼い主さんと獣医師が「これから協力してこの子を守りますよ」という確認と、飼い主さんが納得した上で選んだのだということを証明する道具に過ぎないと考えています。そのためには、同意書を交わす際に「何かあったときに飼い主に責任を押し付けようとしている」と誤解されないように、同意書の内容や同意書についての説明の方法に工夫が必要ですが、顧問弁護士がいれば、そのあたりのアドバイスも受けられます。

小林:しっかり説明して納得感を高めること、本当に大切ですよね。ただ診療時間に限りがある中、十分な時間が取れないという現場の声があるのも事実です。今後は治療抜きで飼い主さんとしっかり話すためのカウンセリングの時間を設けたり、ワークショップや教室などを開催して治療以外の目的で飼い主さんが動物病院に訪れる機会を設けたりすることによって、飼い主さんと病院とのコミュニケーションを深め、納得感の醸成につなげる仕組みの整備も必要になってくると思います。
今の時代、動物病院に求められる役割は単に病気やけがの治療をすることだけではありません。飼い主さんとペットが楽しく生活する上での障害を取り除くための、あらゆるアプローチが求められています。その意味でも弁護士を始め、各分野の専門家との連携はますます必要になってくると思います。
先生、今日はありがとうございました。


プロフィール
2002年03月 法政大学大学院社会科学研究科修了
2003年11月 司法試験合格
2005年10月 平沼高明法律事務所勤務
2006年12月 弁護士法人フラクタル法律事務所開設
2019年04月 日本獣医生命科学大学博士課程入学

弁護士法人フラクタル法律事務所の代表弁護士として第一線で活躍しながら、フジテレビ「直撃LIVEグッディ!」を始めとする多数のメディアに出演。
様々な法律問題の解説を務める。
著作・寄稿・講演活動にも精力的に取り組んでいる。
公益社団法人東京都獣医師会の顧問弁護士他、多数の企業・病院の顧問を務める。

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