season1-19 人間って単純だよね

【前回までのあらすじ】

英語が喋れるようになりたくて米兵ご用達のストリップクラブでバーテンのバイトを始めた小橋。

前回はアメリカン人達のアメフトへの愛を目の当たりにした。興奮冷めやらぬまま、残した洗い物を片付けようと店に戻った小橋と店員達だったが、そこにいたのは全裸のオーナーと全裸のオーナーの愛人のヴィクトリアさんだった。

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ストリップの話を書いていたら毎回思い出すダンサーがいる。40人ぐらいいるダンサーの中でも一番人気の無いダンサーだ。何故毎回思い出すのかと言うと、めちゃくちゃ嫌いだったから。でも、最終的には僕はその人の事をちゃんと好きになった。

その人の話になると悪口ばっかりになってしまうから、書こうかどうか正直迷っていた。だから言っておきます。今から書く内容は全てフィクションです。

その人の名前は覚えてない。名前を呼ぶ機会がほぼなかったから。こっちに話かけてくる時は「酒。」ぐらいしか言わないし、僕ら従業員が話かけても無視するか、あからさまな舌打ちをしたりする。女王様だ。

この態度でステージに立ったら素晴らしいダンスをする、というわけでもない。だるそうにステージに上がって、「はいはい、私の裸が見たいんでしょ。」というようなため息をついて天井付近を見ながらダラダラ踊る。服を脱ぐのもダンスの終わり間際だけで、またすぐに服を着て帰っていく。

ステージから降りて、楽屋までの導線にお客さんが居たりすると、「邪魔よ。どきなさい。」といって突き飛ばす。絶世の美女じゃないと割に合わない。

その人は、朝青龍に激似だった。ここからは朝青龍と呼ぶ。

体型もまるでちびっこ力士のよう。「体型の事を言うのは違うだろ」と批判もきそうだが、違くない。ストリップダンサーなんだから、プロ意識があるなら体型も保たないといけない。

朝青龍は全く人気がない。だって、訳が分からないんだから。ずっと機嫌悪そうにしてて、お客さんの相手もしない。楽屋に籠っているか、たまに出てきたと思ったらバーで自分でお酒を買ってちびちび飲んでいる。なんで自分でお酒を買うのかというと、お客さんは誰も買ってくれないから。しかもずっとよくわからないチップスを食べている。僕は一度朝青龍とどうにかコミュニケーションをとろうと思って、「そのチップスはどういう味なの？」と聞いたことがある。無視されると思ったが、朝青龍は返した。その質問に対する朝青龍の答えは、「黄色い猿にはもったいない味だよ。」とだった。こんなにあからさまに差別を喰らったのは初めてだったから笑ってしまったのを覚えている。

そもそも朝青龍が何人なのかもわからない。日本人の事をめちゃくちゃ差別する奴だったが、見ようによっては日本人に見える。なんか訛りの強い英語しか喋れない。会話が出来ないから聞きようもない。

朝青龍がステージでチップを貰ってるのをあんまり見たこともない。だってちびっこ力士の横綱顔が踊るんだから。朝青龍の出番になると、お客さん達も「よし、トイレに行こう。」となる。たまーに、常連の白人のおじいちゃんがステージにチップを置く。それを見た朝青龍はため息をついて、おじいちゃんに近づく。サービスをしないといけないから憂鬱なんだろう。だけど朝青龍が近づいてくると、おじいちゃんは立ち上がりトイレに行く。おじいちゃんも朝青龍からサービスを受ける気はなかったんだろう。誰からもチップを貰っていない朝青龍を哀れに思ってチップを置いただけだったんだろう。だが朝青龍は立ち去るおじいちゃんを見て、「ラッキー」っていう顔をしてまたダラダラと踊り始めた。まじでひねくれてやがる。

さっきも書いたが、朝青龍はダンスの終わり間際にちょろっと服を脱ぐだけだ。一度、終わり間際に朝青龍が遂に脱ごうとしたときに客席から「いい！いい！脱ぐな！脱ぐなって！」と聞こえてきたことがある。お客さんももう見たくなかったのだろう。その時朝青龍は「誰に口きいてんだ！黙ってろクソバニラ野郎！」と白人に食って掛かり、客席に降りてそのお客さんと喧嘩し始めた。朝青龍は普通にビンタされてた。

ダンサーに手をあげたんだから、そのお客さんはセキュリティに追い出されるはずだが、偶然セキュリティ達はその光景を見ていなかったらしく、そのお客さんは居座った。朝青龍がセキュリティ達に抗議していたが、セキュリティ達も「見ていないからわからない。」の一点張り。あんなに騒いでいたのにセキュリティ達が誰一人として見ていないなんてありえない。しめしめと思っていたのだろう。

まだまだたくさん朝青龍のむかつくところはあるが、書けるような内容はこれぐらいだ。とにかく、めちゃくちゃ嫌いだった。何故そんな奴の事を最終的には嫌いじゃなくなったのかと言うと

帰りに野良猫に餌をあげている姿を見ちゃったから。

人間って単純だよね。