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山口謠司の『となりの漱石』を読む② 吉田精一に反対しているだけで偉い


社会百面相 内田魯庵 著博文館 1902年


 山口謠司は吉田精一が「漱石洋行中の出版であり、漱石は無論読みはしなかったろう」という内田魯庵 の『犬物語』を、どうも漱石は読んで盗んだのではないかと疑っている。1902年、明治三十五年、その年で本が売り切れになるものでは無し、可能性としては多いにあることだ。

 というよりも『社会百面相 』全体がインテリ知識人の滑稽な(多分に自虐的かつユーモラスな)社会批評なので、アイデアそのものの類似は甚だしい。一読した感想を言えば、少なくとも内田魯庵が『吾輩は猫である』を読めば、まずは「はっ」として「ニヤリ」としただろうということだ。

 無論「だから『吾輩は猫である』の価値が下がる」というわけでもなかろうし、このスタイルそのものは『鉄槌伝』までは遡ることができることから誰の手柄とか誰の罪というものでもない。

 それにしても吉田精一のさして論拠のない決めつけに反対しているだけ偉い。山口謠司は権威主義から自由だ。

[余談]

 『社会百面相 』には「我輩」が71コマ見つかる。なんというか我輩だらけの本である。

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